83 作戦会議
なんだか居た堪れない感じで始まった会議。
ロイドやレオンが自己紹介をしたり、『国斬り』に驚かれたり、レオンにメンバー達が握手を求めたり、キースがそれを一括しつつもこっそりサインを求めたり、それに気付いたシエルが怒鳴ったり、ギランが爆笑したり、ロイドがレオンをからかって返り討ちになったりしている内に雰囲気が和らいだようだ。
和らぎすぎ、と言えなくもないが。
「ごほんっ。ではまず今回の目的の再確認だ」
いい加減話をしないか、とシエルに突かれてキースはわざとらしい咳払いをして切り出す。
「まず主軸となるのはロイドくんの目的であるエルフの姫の奪還。基本はここに向かって動く事になる」
そこでキースは間を置いてレオンに目を向ける。
そしてゆっくりと口をを開いた。
「それにあたり、レオンさんはどう動かれますか?」
その一言にそこにいた全員の視線がレオンへと集まる。
そう。身も蓋もない話だが、レオンが目的の為に動くのであれば、それはもう達成が確約されたも同然とさえ言えるのだ。
つまりレオンが動く範囲次第で作戦は大幅に変わる。
そしてレオンはその視線を受け止め、一拍置いてロイドを見やる。
ロイドはその視線を受け止めて何も言わないが、その眼には力があった。
「…俺は基本的に動くつもりはない。強いて言えばこいつをここまで届けるまでが俺の今回の仕事だ」
「…………そうですか、分かりました」
キースは数秒間を置いて頷く。
それは落胆しているというより、すでにレオン抜きでの作戦構築に考えを巡らせている為だ。
「…では作戦を組む前にふたつ話しておきたい事がある」
キースはロイド達に向き直り、指を2本立てて言う。
そしてその指を一本折りながら言葉を続ける。
「ひとつ、これは悪い知らせだ。うちの幹部のひとりであるニナが先日帝国軍に捕まった」
「何ですって…!?」
その言葉に強く反応したのはシエルだった。キースは目を伏せて頷く事で返す。
「そこで2つ目の話だ。エルフの姫を奪還する際に、ニナの救出も組み込ませて欲しい」
「分かりました」
即座に頷くロイド。あまりに自然な口調であっさりと答えた。その為か、
「もっともこれはロイド君からしたら不満があるかも知れない。だがーーん?」
やはりか聞き流しかけたキースが違和感を感じて口が止まる。
それを見ていたシエルは可笑しそうに口元を緩ませていた。
「リーダー?分かりましたって」
「えぇっ?!い、いいのか?」
「いや勿論です。そもそも協力してもらってる立場ですし」
キースは思わず顔を乗り出してロイドに問いかけるが、ロイドは至極当然のように答える。
その申し訳なさそうな苦笑いを浮かべるロイドにキースは思わず閉口した。
確かにロイドの言う事は当然だろう。
だがこの協力自体が王族の一角を討つという目的である以上、革命軍にとっても利はあるのだ。
つまり前提からして相互協力関係として成り立っている。
さらに言えば、ただでさえ人間は自分の目的に対しては盲目的になりがちで、そこにマイナス要素が加わる事を忌避しがちである。
それは多くの部下を預かるキースが一番よく分かっていた。
それを子供があっさりと受け入れた事に驚きを隠せない。
(なんて子供らしからぬ早熟さ……ウィンディアか。恐ろしい血族がいたもんだ…)
聞き及んだ情報では次女にあたる末子が産まれたと聞いているが、それまでは目の前にいる子供が末子だったはずだ。
しかし甘えたり長男がいるからと継承に対して責任を感じず怠けたりしている様子もない。
教育か、それとも遺伝かは分からないが、敵国の最前衛を守り続けてきた一族を改めて畏怖した。
「えっと、キースさん?」
「…あぁ、すまん。続きだが、ニナの救出をそのままエルフ姫奪還の作戦に繋げようと思う」
キースは気を取り直して続けた。
ロイドは首を傾げるが、シエルとギランは理解した様子で口を開く。
「なるほどの」
「囮にしようと」
「あぁそうだ」
ここまで聞いてロイドも理解した。
ちなみにグランは悟ったような表情で微笑んでいる。
革命軍本部メンバーが幼くても幹部か、と感嘆の声を上げているがーーまず間違いなく理解を諦めた表情だろう。
そんなグランに苦笑いを浮かべつつ、ロイドは口を開く。
「地下通路でニナさんを救出し、さらにそこで注意を引いてくださる。その隙に僕が如…じゃない、エルフ姫を救出すると」
「……そうだ」
マジでこいつ子供か?という言葉を飲み込む数秒の後、キースは頷く。
ロイドはなるほど、と考え込むように沈黙した。
「しかし、それだと今後地下通路が使えなくなるのでは?いえ、むしろ逆手にとられて悪用されてしまうんじゃ」
しばしの沈黙の後、ロイドは口を開いた。
地下通路が通じているという帝城地下牢。そこから革命軍が現れ注意をひくーーつまり暴れると、侵入経路は確実に知られてしまうだろう。
さらにはこの地下通路を逆に悪用されかねない。
地下通路はアジトにも続いている為、いつ寝首をかかれてもおかしくない状況へとなってしまう。
「そうだな。だが帝城に繋がる通路だけ撤退する時に崩すつもりだ。今後使えなくなるのは痛いが、悪用は避けられる」
だが、と続けようとするロイドに被せるようにキースは言葉を続ける。
「それに、ニナはどの道救出に向かうつもりだった。そこで暴れようがこっそり拐おうが、不審に思ったやつらに嗅ぎ付けられるだろうよ」
「……」
確かに、と内心呟くロイドにキースは続ける。
「だったら中途半端に地下通路残して不安になるより、こっちでタイミング作って潰した方が気が楽だしな。んで、どうせなら最後に最大限活用してやろうって話だ。だからむしろ良い機会をくれたと思ってるよ」
どこかぶっきらぼうに言うキース。
とは言え彼らの目的にはかなり重要であろう唯一の帝城へと続く地下通路。
それを良い機会だと潰したいというのは流石に嘘だろう。
まず間違いなく、ロイドに心配かけまいと言葉を選んでくれたのだろう。
さりげない気配り、態度や言葉からもロイドは彼がリーダーをする理由を垣間見たように思えた。
そして、そんな彼がそう言ってくれているのだ。ここで食い下がるのは違うと考え、ロイドは頷く。
「分かりました。ありがとうございます」
深く頭を下げるロイド。
その様子を横目に見ながらキースは内心を察されたと気付き、おうと頷きつつも内心溜息をつく。
それは、なんて子供だ、と感嘆の意を込めて。
そして、この親兄姉達に喧嘩を売り続ける帝王達に呆れてのものだった。
「ちなみに、もし今回で皇帝を討ったら誰が統率するんですか?」
続いて紡がれる質問の言葉。
普通なら子供の興味によるもの、と思う所だが先程までの会話や立ち振る舞いからそうではないとすると、
「痛いところを聞くな。実はそれが懸念ではある」
革命軍の悩みでもある問題点に気付いたと考えるべきだろう。
「…まぁ、いざとなればエイルリアに降伏、傘下に入るなりして人員をもらうさ」
「そうですか」
投げやりにも聞こえる方法に、しかしロイドは意見しない。
これは他国の問題であり、自分が意見出来る事でもそれを思いつく頭もないからだ。
「それより、まずは目の前のことだ」
しめるように呟かれた言葉に、全員が頷いて準備に取り掛かる。
ロイドは拳を握りしめ、かつての後輩を想った。




