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80 助けと縋ると

「ですのでーーお前らもじじいに甘えてないで自分でやれや」

「なっ……」


 今までの丁寧な口調や笑顔を一瞬で捨て去り、呆れに怒りをほのかに滲ませた口調でロイドは幹部達の目を真っ直ぐに見据えていた。


 ロイドの視線に気圧されるように押し黙った彼ら。

 それはいきなりの豹変ぶりに驚いた、というだけではない。


 目の前の子供から発せられる何かに圧されたのだ。


 その脇で幹部達を諫めようとしてレオンに止められていたシエルは目を瞠っていた。


 彼女は革命軍の支部リーダーを務めるだけあり、戦闘能力は秀でている。

 その魔法は見た目に反して身体強化魔法を使った少し変わった戦法をとる。

 その戦法を駆使するにあたり魔力操作や感知も高いレベルにあるのだ。


 そんな彼女だから気付けたのだろう。

 ロイドから発せられる圧力、その奥底にある魔力とは違う何かに。


 魔力という自らが最も信頼し武器とする力とは似て非なる、巨大で濃密な力に。


 無意識の内に唾を飲むシエル。

 正面に立っている訳ではないのに、その存在に圧倒されるように体が硬直していた。


 そんなシエルに気付きもせず、ロイドは沈黙を破る。


「手助けはしない、だが助けろ?」


なぜ”国斬り”を助けるのか?”国斬り”は私達の替わりにこの国を、皇帝を討つ為に来たのだろう。


「皇帝を討つ事をこの国の民の為と言ったその口で、それを手柄だと言い同行しようとする…」


 “国斬り”が皇帝を討つのに同行して手柄を手に入れようとしているのだろう?

民の為にやらねばならんのだ。


「甘えるな?そうだな、ほんと俺は甘えてるわ。じじいにここまで運んでもらったし、すでにギランさんやシエルさん、グランにも手を借りてしまっている。けど、そんな俺相手だとしても…あんたらに言われる筋合いはあるんだろーかね?」


 子供だからと替わりに助けてくれるなど甘えるでない。

 我らの替わりに皇帝を討ってくれるのではないのか?


「お前ら言ってる事やってる事の筋が通ってねーし、ちぐはぐだな」


 段々と内なる怒りを表面化していくロイド。

 それに伴い、内に秘めた『何か』が顔を出し始める。


「まぁでも、人間そんなもんだろーよ。自分勝手なもんだし、俺もそうだ」


 ロイドはここに来て口調を和らげる。

 だが、それをそのまま受け取って息をつく者はいなかった。


 雄弁に、ロイドから発せられる『何か』が強まる事が、ロイドの怒りを表しているからだ。


「だから俺は自分勝手な事を言うんだけどな。――あんまじじいにばっか縋るな。もう歳なんだから労われよおっさんども」

「――くっ!」


 さりげなくいつものようにレオンをディスりながら告げられた言葉。

 黙って見ているレオンの額に青筋が浮かぶ。


 一方的に言われる幹部達。だが、これまでの彼らの発言から反論が出来ずにただ聞くことしか出来ない。


「じじいだって1人の人間で、兵器でもなんでもねーんだよ」

「……!?」


 その瞬間、彼らを襲ったのは言葉による衝撃だけではない。

 ロイドの碧の瞳に混じるように浮き出た金の色彩に伴い、まるで金の瞳から発せられるように溢れ出した『何か』に全身を叩かれる。


 彼らは一瞬意識が遠のいたことにはっと気付いた。

 次いで自らの身体から急速に魔力を減少した事に気付く。


「まぁいきなり尋ねたりしたこちらも悪かった。すぐ出てくわ」


 そんな幹部達の異変も気にせず、言うなり出口へと足を進めるロイド。

 高まっていた威圧はまるで風に吹かれた霧のように消え去っている。


 レオンも肩を竦めながら椅子から立ち上がろうとする。

 まだガキだな、と誰にも聞こえない小さな声で呟きつつも、どこか雰囲気は軽い。


 しかし、レオンが立ち上がるその前にゴチンッという大きな音が室内に鳴り響く。レオンが目を向けるとロイドが頭を押さえて立ち止まっていた。


「〜〜〜〜ってェ!」

「おいこらロイド!勝手にどこ行くんだ!」


 それを成したのは先程まで静かにしていたグランだった。


「痛えよグラン!」

「知るか!とっか行こうとするお前が悪い!」


 頭を押さえて涙目になっているロイドの叫びもグランはぴしゃりと返す。

 いや何が?と頭を押さえたまま首を傾げるロイドにグランは言葉を続ける。


「俺に約束を破らせるつもりか?!手伝うって言ったろ!」

「はぁ?いや今の会話…」

「タンタさん達はタンタさん達!俺は俺!」


 ロイドの言葉に被せ気味に話すグラン。その言葉も訳が分からずロイドは首を傾げたままだが、横にいるレオンやギランは分かっているのかどこか穏やかな雰囲気だ。


「…?……??」

「俺はロイドと手伝うって約束した!タンタさん達が手伝わなくても俺は行く!だから勝手に置いていこうとするな!」


 分かっていない様子のロイドにグランは噛み砕いて話す。

 その言葉に目を瞠るロイドに、言葉を引き継ぐようにギランが話し掛ける。


「グランの言う通りだぞロイド。それにわしはどちらにせよ革命軍は引退しとるしな」


 ギランがこちらに歩み寄り、グランの頭を撫でながらロイドの眼を真っ直ぐに見つめる。その眼には優しさと覚悟を決めた強さがあった。


「そうですよ。私まで嘘つきにするつもりですか?手伝うと言ったからには手伝いますし、カイセンのリーダーをやってるのに嘘つきなんてレッテルは勘弁です」


 レオンに静止されていたシエルもその静止が解かれており、ロイドに歩み寄りながら微笑む。そして幹部達を一瞥し、再びロイドに目を向けて言葉を続ける。


「それに、どちらにせよ今回は彼らはここに置いていくつもりでした」


 革命軍カイセン支部リーダーの言葉に幹部達は目を見開く。


「別に貴方達に問題があるからという訳ではありません。私達の活動の最終目標は現政策の打開ではありますが、スラムの住民の保護なども大切な活動ですよね?幹部全員がカイセンから離れては活動に支障が出る可能性があります」


 つまり、幹部達はここで保護活動等の指揮を継続して執れという事だ。

そもそもシエルとしてはこの会議は作戦の共有と顔合わせのつもりであり、全員で行く為のものではなかった。


「なので、彼らの言った事は気にしないでください。無礼な物言いは支部リーダーとして謝罪させて頂きます。すみませんでした」


 そう言って頭を下げるシエル。例え幹部達が勝手に暴走したと言えど、責任は長である私にあるとその頭を下げる。

 それを見た幹部達はバツの悪そうな表情で顔を見合わせていた。


 しかし、当のロイドは眉間に皺を寄せて首を傾げていた。その表情に気付いたグランがまだ怒っているのかと宥めようとする。


「まぁリーダーもこう言ってるんだし、許してくれねえか?」

「そうだぞ坊主。まぁこやつらは後でお話しておくからそれで勘弁してくれや」


 グランの言葉にギランが続く。その言葉に幹部達がびくっとしていたがロイドは首を傾げたまま口を開いた。


「いやそーじゃなくてなグラン、すでに結構手伝ってもらったろ?情報もらってこうして隠れる場所も借りれたし」

「……ん?」

「まだ他に情報とかあるならまぁ、それはありがたいけど…なんかこう、ついて来てくれるみたくなってね?」

「…………は?」


 不思議そうに言うロイド。どうやら先程までの表情は合点がいかず悩んでいたからのものらしい。

 その言葉を聞いた全員はそれぞれの表情のまま固まった。


「勘違いならいいけど、もしそうならさすがに申し訳ないわ。皆さんやるべき事があるだろーし…あ、もちろん情報もらった礼として、いけそーなら皇帝ってのも泣かしとくからさ」

「いや、ちょ、えぇ……」


 周囲が硬直している事に気付かず慌てて弁明なんかしているロイド。

 その様子にレオンは吹き出す。


「くくっ、はっはっは!」

「あ?何笑ってんだよじじい」


 仏頂面を通していたレオンが笑った事に驚き更に固まる周囲を他所にジト目を向けるロイド。

 

 しかしレオンはロイドの視線を柳に風で受け流し、ひとしきり笑うのであった。



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