79 笑顔と怒りと
その後、騒ぎすぎた事や他の革命軍カイセン支部の幹部達が集まるといった理由で『サンディオ』からアジトへの移動したロイド達。
「うわ、マジだったか…」
着いたアジトはグランが最初言ってた通りまるで民家にしか見えない家。
まさか本当にここがアジトだったとは、とロイドは驚く。
「…?あっ、さてはお前っ!」
その驚いた顔をみたグランがやっぱ信じてなかったのか!とロイドに食い掛かり、ロイドが苦笑いで謝ったり、騒ぐなとギランがグランに拳骨を落としたりしながらアジトにて待っていると、慌てて駆け込んできた様子の男性が4人現れた。
「リーダー、遅くなりすみません!」
「ギランさん、お疲れ様です!」
男達はシエルやギランに挨拶をすると、すっと表情を引き締めてレオンに向き合う。
その表情には様々な感情が見え隠れするが、それを隠すように歯を強く噛み締めていた。
「あぁ、あなた様が”国斬り”…」
「”天を衝く光”の伝説の…」
「レオンだ」
異名ばかりで呼ばれる事に嫌気が差したのか、それとも同じくだりが飽きたのかレオンは先回りするように簡潔に自己紹介をした。
ぞんざいな挨拶だったが、幹部達は恭しく膝をつき腰を折って頭を下げる。
「この度は私達の悲願を叶えて頂けること、心より感謝致します」
「長き戦いに散っていった仲間、そして今生きているも疲弊しきった我らは、あなた様が来てくれる事を心待ちにしておりました」
それはまるで神に祈りを捧げる信徒のように心からの感謝と祈りの言葉であった。
幹部4人の男がレオンを見る目はまるで救いの神を見るようなそれである。
実際、そう間違いではない現状ではある。
幹部達が言ったように革命軍は疲弊しきっている。
食糧も助け合うようにして餓死者が出ないようやりくりしているが、そもそもの食糧そのものが少ない為それも限界があり、その限界に近いのが現状なのだ。
レオンはこの国の歴史にも残る災厄の男。
そしてその災厄の多くが皇族に向けて牙が剥かれており、国――皇帝達に反旗を翻す者達からすれば救いのように見えるのも無理はない。
そして、そんな崇めるような視線を向けられたレオンは溜息をついた後ーーすっと殺気にも似た覇気をもってその視線を返した。
「「――っ!!」」
その覇気は幹部達4人をはじめ周囲を強く叩いた。
幹部4人は目を見開き脂汗を額にびっしりと浮かばせた身体を硬直させる。
シエルとグランも思わずといった感じで後退りする。
ロイドは慣れもありそのような事はなかったものの、一筋の汗が頬を伝った。
そんな中、覇気ではなく別の何かを堪えるように目を伏せて俯くギラン。
レオンは幹部達から目線を外してギランに向けると、ギランは視線を上げてその視線を受け止める。
いまだに威圧を放つレオンの眼をしばし見つめて返して、ギランは軽く頭を下げる。
するとレオンは鼻を鳴らして再び幹部4人に目線を戻した。
「どう聞いたかは知らんが、俺はお前達の為にここに居るのではない」
「なっ…」
幹部の1人が驚いたように声を漏らす。
そして思わずといった感じにギランに目を向ける。
まるで縋るような目線に、ギランは呆れたように溜息をこぼした。
「俺の伝令は『ロイド・ウィンディアはじめ”国斬り”レオン殿の手助けをする』というものだったろぉ。都合よく聞こえたかは知らねえが、ちゃんと聞いておけ」
「…は?なんだと!?俺達が手助けをするだって!?」
「”国斬り”を助けるとはどういうことだ!助けてくれるのが”国斬り”なのではなかったのか!?」
「そうだ!”国斬り”は、”天を衝く光”は、救いの存在だろう!なぜそれを俺達が助けるのだ!」
呆れたように言うギランに、幹部4人は顔を赤くして叫ぶように返した。
唾を撒き散らすように食い掛かる彼らを、ギランはその優しげだった目を細めて見返す。
すっと細まった目に伴うように、冷気のような威圧感を醸し出しながら。
しかし幹部4人はそれに気付かない。
なおも叫ぼうとしてーーギランは口を開いた。
「うるさい」
喧騒の中の呟かれたように小さなギランの声。
しかし、聞く者全ての脳に強制的に届くような力が込められた声が響いた。
ぴたりと言葉を途切らせて固まる彼らを一瞥すると、ギランはレオンに向き直って頭を下げた。
「大変見苦しい所を見せやした。こいつらを呼んだのはわしだ。すまねえレオンさん」
「そうだな。だが謝罪は受け取った。ここで終わりとしよう」
これ以上は謝罪は要らないという言葉に、ギランはもう一度だけ頭を下げて幹部4人に向き直る。
「呼んどいてすまんが、おめえらもう何も言わずすぐに持ち場に戻れ」
しゃがみこんで視線を合わせつつ、諭すように話すギラン。
それでもどこか力強さのある声音に、しかし幹部達はそれを聞き入れなかった。
「なぜだ!これから”国斬り”が皇帝を討つのだろう!?俺達も着いていくぞ!」
「そうだ!まさかギランさん、引退したのに手柄に目が眩んだんじゃないだろうな!」
「皇帝を亡き者にする”国斬り”と共に居る事で手柄とし、新たな皇帝になろうと考えているのではないか?!」
もはや言い分というよりギランを糾弾するように叫ぶ彼ら。
彼らは止まるどころか再びヒートアップしていき、一度口を開いた事で舌が回るようになったか更に熱を帯びていく。
ギランはそれを聞き流しながらシエルに目を向ける。
シエルはその視線に気付いていないのか、拳を握りしめて俯くように顔を伏せていた。
そんなやりとりをどこか熱のない目線でレオンは眺めていたが、溜息をこぼして椅子から立ち上がる。
そして、幹部4人の方に歩き出そうとして、
「すみません。ちょっといいですかね、幹部さん」
「あ?なんだガキ!」
「なんでこんな子供がここに居るんだ!?」
ロイドがレオンを背に受けるようにして立ち、彼らに話しかける。
彼らはロイドを認識すらしていなかったのか、目を吊り上げてロイドを睨んだ。
「はい、挨拶が遅れました。私はロイドと言います。この度帝都に捕まった私の仲間を助けるにあたり、ギランさんやシエルさん、グランに手伝ってもらえるというお言葉を頂いております」
「ん?あぁ、そう言えばそんな事を言っていたな…」
「こんな子供が帝都から救出だと?遊びじゃないんだぞ!」
挨拶も何も最初から見向きもしなかったろ、と口には出さずに胸中で呟くロイド。
幹部達は矛先を目の前の小さな子供に移したのか、早速強い口調でロイドに言葉を浴びせる。
しかしロイドは表情を変える事すらせずに言葉を続ける。
「ええ、仰る通り遊びではありませんし、私は非力な子供です。ですので、お力を借りれたらと思っており”ました”」
「はっ!お前のような子供には分かるまい!今どれほど帝国の人々が苦しんでいるか!彼らの為にも我らはやらねばならんのだ!」
「そうだとも!子供の戯言に付き合ってられる状況ではない!それを子供だからと替わりに助けてくれなどと、甘えるではないわ!」
ロイドの言い回しに気付く事もなく、彼らは口々にロイドを責め立てる。
「……っ!」
それに俯いていたシエルがついに目を吊り上げて顔を上げ、彼らに詰め寄ろうとした。
だが、それを無言でレオンが制する。
それにシエルだけでなく立ち上がろうとしていたギランも気付き、2人とも目を丸くしてレオンを見る。
が、レオンはロイドへと目を向けたまま何も言わない。
「えぇ、耳が痛い話です。ですので、やはりこの件は私のみであたらせてもらいますね」
「当たり前だ!勝手に自分でやれ!」
「ですのでーーお前らもじじいに甘えてないで自分でやれや」
ロイドはもう話は終わったと判断し、敬語を辞めた。
浮かべていた貴族然とした笑みは消え、呆れと怒りが同居したような表情に変わった。




