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76 レオンめちゃ人気

 木造のお世辞にも大きいとは言えないこじんまりとした建物。

 しかし古いのは確かだが貧相という印象はなく、一般家庭の平均的な持ち家といった所だろう。


 とどのつまりは、どう考えてもここが革命軍とやらのアジトには見えなかったロイド。

 机の上に置いてあるコップに入ったお茶が一層一般家庭感を醸し出していた。


「普段は各自で活動してるんだけど、緊急時とかにはここで作戦会議するんだ!多分その内また集まるから、ここで待ってようぜ!」

「あー……」


 助けてもらった手前言い出しにくいが、ロイドはこれが革命軍”ごっこ”にしか思えなかった。

 そして遊びに付き合うよりレオンに合流する事を優先したいロイドとしては、どう断るか頭を抱えてしまう。


「聞こえたぞ。お前、ウィンディアの子供なんだってな」


 しかし、次いで告げられた言葉にロイドは思わず身構える。

 ウィンディアがこのディンバー帝国にどう思われているかは先程の兵士達の態度で分かりきっていた。

 

 もしこの少年にも同じように目の敵にされては困る。

 襲いかかってくるだけならともかく、仲間を呼ばれては堪らない。


 もう鬼ごっこはお腹いっぱいである。


 しかし、少年の態度はロイドの予想とは正反対のものであった。


「いやーウィンディアか!やっぱルーガスさんて強いんだよな?!かっけぇなー!あ、俺グラン!よろしくなウィンディア!」

「あ、うんよろしくー」


 なんだかすごく友好的だった。

 自己紹介された上に握手まで求められており、浮かべる笑顔は演技を疑う事さえ愚かしいと思うほど眩い笑顔である。


 なんかもうどうでも良くなってきたロイドは、溜息に乗せて頭に浮かぶ罠や演技といった疑惑を吐き出す。

 もういいや、助けてくれたし良い子だろう、と勘ぐるのを辞める事にした。


「うん。よろしく、ロイドだ。助けてありがとなグラン」

「気にすんなロイド!」


 少年は豪快に笑う。

 なんとも気持ち良い笑い方で、思わずロイドも笑顔を浮かべた。


 そして、ふと思い出したので口を開く。


「っと、グラン、悪いけど『サンディオ』っていう飯屋知らん?そこにツレがいるんだけどーー」

「あ!いけねぇ忘れてたぜ!ってかマジか!?俺んちに『国斬り』来てるのか?!」


 すると同時にグランも思い出したように叫んだ。

 そして驚いたように言った言葉に、ロイドも目を丸くする。


「ん?俺んち?」

「あぁ、こうしちゃいられねぇ!先に俺んち行くぞ!」

「ん?待て待て、俺は『サンディオ』ってとこに行かんといけんーー」

「そこが俺んちだよ!」


 被せ気味に発せられた言葉にロイドはもっと目を丸くした。

 そして今にも駆け出しそうなグランに急かされてロイドは後を追うのであった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「よぉ、遅かったな」

「うるせぇな、じじいのくせにせっかちかよ」


 そして到着早々のご挨拶。

 いつも通りの憎まれ口を叩き合う2人だが、周りの状況はなかなか珍しいと言えるだろう。


 いつもその威圧感や威風により恐怖や畏怖の目で見られるレオンが、まるで芸能人が来たかのように遠巻きに好意の目で見られていた。

 そわそわと浮き足立つ店内の店員や客達に、実を言うとレオンもロイドが来るまでどこか居心地の悪そうにしていたりする。


 そんな中現れた子供が憎まれ口を叩くという事態に、店内は一気に騒がしくなる。


「何者だあの子供は!?」

「あの『国斬り』をじじい呼ばわりしたぞ!」

「若くてしてその命を散らすとは…!」

「あんな斬新かつ豪快な自殺を決め込むとは!なんて子供だ!」

「わたしもあんな口調で『国斬り』様に罵られたい…!」


 一部マニアックな声もありつつも騒然とする店内に、ロイドは驚いて目を丸くする。

 その様子をレオンは珍しくからかう事なく同意の目線を向けていた。


「なんなんだ…?」

「……俺も聞きたい……いや、やっぱりいい…聞きたくない…」


 きょとんとするロイドと辟易とした様子のレオンと止まらない周囲。

 混沌と化した店内だったが、それを打ち破る一手をうつ人物が居た。


「く、”国斬り”!握手して下さい!」


 緊張に上擦る声で憧れの芸能人かスポーツ選手に求めるかのようなそれに、店内は一気に静まりかえった。

 緊張した面持ちで手を差し出すのはロイドの横に居た少年グランである。


「………」

「………」


 なんとなしに目が合うレオンとロイド。

 

 しばしの沈黙の後、ロイドは神妙に頷く。

 そしてレオンは仕方なさそうに溜息をついた。

 

 そして少年の手を掴む。


「これでいいのか?坊主」

「あ、あ…あ!ありがとうございます!」

「ちょっ、俺もお願いします!」

「私もっ!」

「握手と言わず色々としませんか!?」


 それを見ていた周囲は堰が外れた自らのように水のようにレオンへと押し寄せた。

 レオンはとてつもなく不機嫌そうな表情で握手をしている。


 たまに押し寄せる過激派の方々にはデコピンをプレゼントしていたが、デコピンで吹き飛んだ方々はむしろ嬉しそうな表情だった為誰も何も言わなかった。


「だぁあ鬱陶しい!おいロイドちょっと来い!」


「どした?」

「何が目的で俺にこんな事をさせたんだこら。これで特に意味はないとでも抜かしたら黒竜の前に放り投げるぞ」


 我慢の限界を迎えたレオンが群がる人達を押し除けてロイドを呼ぶ。

 呼ばれたロイドは大人気なレオンさんをからかいたくて、と言いかけた言葉を後半の言葉とそれを発するレオンの眼があまりにマジだった為慌てて言呑み込んだ。


「いやまぁここまで大事になるとは俺も思わなかったから、それは悪かったけどな。握手ひとつで色々現地の情報とかもらったり協力してもらえたらありがたくね?」


 ロイドとしては早急かつ確実に如月を救出したい。

 それには情報や協力があるかないかで大きく変わると考えていた。

 

 しかし、そんなロイドの意見にレオンは額に青筋を浮かべてロイドを見やる。


「お前のような弱っちい子供レベルなら悪くない考えだろうが…俺なら今すぐ単身で救出ついでに帝都を滅ぼせるんだぞ」


 なのに何故俺がこんな目に、と態度や口調にこれでもかと表すレオン。

 らしくもないレオンの姿にロイドは年相応な悪戯っ子のような笑みを浮かべて言う。


「だろーけど、しないんだろ?」


 その言葉にレオンは反論しなかった。不機嫌そうな表情はそのままだが、ふん、と鼻を鳴らすだけで否定はしない。


 もしそのつもりなら最初から帝都まで移動していたはずだ。

 わざわざここに来たのはそうしない理由がある為に他ならない。


 そして、その理由に見当がついている。


「俺にやらせてくれるんだろ?なんか有名人らしいじじいを利用させてもらったのは悪かったけど、ありがたく頑張らせてもらうよ」

「…じじいと呼ぶなクソガキ」


 ロイドの予想にレオンはやはり否定せず、悪態をつくだけだった。

 ロイドはその返しに嬉しそうに笑い、そして聞き耳をたてる周囲に目を向ける。


「いきなりですみません。俺は今から帝都に囚われた友人を助けに行きます……どうか話を聞いてくれませんか?」


 ロイドは先程までの年相応な表情を捨て去り、頭を下げた。

 

 代わりに浮かぶ少年は歴戦の兵が戦地に赴くような表情であり、周囲の目はまだ子供と言えるはずの彼に釘付けになったのであった。

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