74 スパルタ?いやこれ虐待
あまりにも物々しい雰囲気の兵士達。
武器を握る手には力が入っており、見ているこちらまで緊張してきそうな様子である。
そんな彼らを見て2人は眉をひそめて、んん?と唸る声が聞こえてきそうな表情のまま口を開く。
「……エイルリアに出陣……とは違うよな。列を組んでる感じじゃないし」
少年は最初に懸念した予想を口にするも、自らそれを否定する。
確かに兵士達は防壁を守るかのように構えているように見えた。
ではなんだ?と首を傾げる。
何か大型の魔物でも出現したか?と考えるが、先程まで”死神”が通った道を辿ろうとする度胸がある生物はこの世にそう居ないだろうと思われた。
「分かんね。じじいの地獄耳なら分かるだろ?教えてくれよ」
「ったく、疲れるから嫌いなんだけどな」
といって数秒。
どうやら理由が分かったのか見る人が見れば分かる程度にその整った顔を歪めた。
次いで軽く天を仰ぐかのように視線を虚空に放り投げる。
その様子を見ていたロイドはしばし訝しげな表情を浮かべていたが、すぐに察したように頷く。
「なるほど、じじいのお出迎えか」
「……じじい言うなクソガキ」
間を空けての返事は内容を否定するものではなかった。
つまり、そういう事なのだろう。ロイドは呆れが見える声音で問う。
「世界中からびびられてんのか?さすが”死神”様ですね、ぱねぇっす」
「ぱね…?まぁ帝国はある意味一番絡みがあるな」
「そーなん?」
「あぁ。まぁいい機会と捉えるかーー」
こちらの姿を見ていた兵士達の奥、身分が高いのか兵士よりも綺麗な鎧を着た者達が何か叫んでいるのを見て言葉を切る。
その兵士達から殺気が放たれたのだ。
臨戦態勢に入った彼らを見たレオンは溜息をつき、吐き捨てるように言う。
「ロイド、お前が相手しろ」
「………………は?」
理解するまで数秒を要したロイド。
その表情は雄弁に何言ってんだ?と語っているのだが、レオンは構わず続ける。
「良い機会だ。対人、対集団戦闘の練習になる。いつも俺相手じゃ戦い方に偏りも出るだろうしな」
「いやいや待て待て待て!だからっていきなりこんなん相手に出来るか!」
ずらりと並んだ兵士達を指差してロイドは叫ぶ。
1000人は超えるだろう集団から叩きつけられる殺気はその人数も相まって思わず息を呑む程だ。
「何びびってるんだ。俺は先にカイセンに入って昼飯を食べておく。裏路地にある『サンディオ』という店にいるから早く来い」
そう言うとレオンはロイドの反論を置き去りにする速度で駆け出した。
衝撃波すら発生する勢いで飛び出したレオンは、駆けながら右腕を振るう。
「「うぁああああっ!!」」
それにより発生した衝撃が隊列中央に構えていた兵士達に襲い掛かる。
彼らは成す術もなく吹き飛ばされ、その隊列の中心に大きな穴を作り出した。
その隊列の穴を悠々と走り抜けるレオンを周囲の兵士達が囲うように距離をつめて襲い掛かろうとする。
そしてついに接触する、という所でレオンは迎撃する事なく大きく跳躍した。
もはや飛翔と呼んでも差し支えない程の跳躍を見せたレオンは、軽々と防壁を飛び越えた。
そのまま銀髪をなびかせてカイセンの町へと消えていくレオンを呆然と見届けてロイドはぼやく。
「いやいやありえねぇだろ…化け物か」
今更なツッコミをしている間に、騎士が慌てて防壁の門を開いた。
多くの兵士がレオンを追いかけていく。
だが恐らく見つける事はどうせ出来ないんだろうな、とレオンの異常さに妙な信頼感すら覚えた。
「つーかマジで置いてきやがった……スパルタどころか虐待のレベルだぞこれ」
むしろ遠回しにの虐殺のレベルである。
レオンと共に居た事で仲間だと警戒してるのか、それとも人質か情報源にする為か、騎士の指示によりロイドにも兵士が迫っていた。
とは言え、ほとんどの兵士はカイセンの町に駆け出していっていた。
指示を出したであろう騎士すら見届ける事なく町に向かっており、こちらには数十人の兵士が来るのみである。
それでも子供1人に数十人もの人数を充てたのは確実を確実を期するためか、それともレオンの連れという事で警戒してのことか。
なんにせよ、千人超がざっと見積もっても30程の人数になっている。
ここまで予見しての行動であれば、レオンの采配に感心するしかない。
「とは言え、だよな…」
相手は成人男性たちである。
ロイドが知る大人の男性達と言えばルーガスやラルフ、ドラグといった者達であり、いずれも強力な戦力を有する。
さすがにあそこまではないと思いたいが、それでも不安や恐怖を覚えてしまう。
「ヒットアンドアウェイ。攻撃よりも回避優先。最悪逃げる。……よし」
ロイドはそれらを振り払うように自分の行動を口にする。
限りなく消極的な戦法を決意するロイドは、しかしそれでも身体が強張る。
そしてついに兵士達の先頭が間合いに入る。その中の1人が魔法を行使したのだ。
「風よ、刃となれ、『風刃』!」
兵士かは風の刃が放たれた。
軌道はロイドの脚を狙っている。
恐らく殺さず捕まえるのが目的なのだろうが、怪我云々については考えていないようだ。
ロイドも得意とする風刃。
すぐさま魔術を発動し、同じく風刃をもって相殺する。
そして追撃に備えてすぐに魔力を溜めて身構えた。
「な、何が起きたんだ!俺の『風刃』が…?」
だが、ロイドの予想に反して兵士は混乱していた。
何が起きたか分からなかった様子だが、演技の可能性もあると考えてロイドは警戒を続ける。
すると、後続の兵士達も魔法を放ち始めた。
やはり殺す気はないのか、火魔法といった殺傷能力の高い魔法は使われておらず、風や水が主である。
ロイドは全て打ち返すのは困難と判断し、身体強化に魔力を割り振る。
横に走るようにして兵士との距離を保ちつつ攻撃を回避して、風の魔術を発動する。
「ちょっとでも足止めになってくれ……っ」
戦い始めた事で吹っ切れたのか恐怖感は和らいだものの、やはり格上かつ集団と戦う戦法が掴めずにいた。
よってその足止めをしつつ距離を保とうと考え、ロイドは風の砲弾を6つほど連射する。
「なっ、ぐあっ!」
「ぐえっ!」
「…ん?」
だが、風の砲弾はロイドの予想に反して兵士達にクリティカルヒットした。
見事に一発につき1人倒れ、6人が地に伏せる。
ここに来てロイドの脳裏にある可能性が過ぎる。
いやまさかな、とすぐさま否定するも、どうにも現状から考えて濃厚なその可能性。
ロイドは一応といった感じで検証に踏み切る。
もしそうならラッキーだ、と風の魔術に大きく魔力を注ぎ込み、砲弾を無数に生み出す。
さらにゴーレム戦で会得した収束を行い、砲弾を弾丸サイズに束ねて圧縮した。
「いけっ!」
気合いを込めて風の弾丸を一斉掃射した。
さすがに使い慣れた魔術であり、操作はかなり精度が高い。
ロイドのイメージ通りに全ての弾丸が1人に1発ずつ向かい、
「ぐはっ!」「ぐえっ!」
まさかの全弾命中。
圧縮して威力が向上した弾丸は命中箇所を豪快に血で染めていた。
さながら本物の銃弾である。
そしてこれでロイドの予想がほぼ確定的となった。
「……ん?こいつら、すげぇ弱くね?」




