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73 帝国へ

 帝国ディンバー。

 

 大陸シーズニアの西から南西にかかる土地に存在する国である。

 鉱山が多く存在し、鉱物が多く採れる国として有名だが、乾燥した地質によるものか土地は痩せており頻繁に食料不足に陥るという一面もある。


 その為、エイルリアの持つ肥えた大地を求めて幾度となく戦を仕掛けていたのだ。


 もっとも、これは王族からするとあくまで大義名分である。

 民の飢えを満たす為、という名目で何度も戦争をしてきたが、実際は皇帝一族の代々続くエイルリア王国を倒して支配するという野望によるものだったりする。


 勿論、民が飢えているのは事実である。

 しかし、その民達は戦争の度に兵糧として大量に彼らの貴重な食糧を費やす為、戦争には反対という意見が大多数を占めていた。


 そして、かつてその中には皇帝一族を排除しようという動きを見せる団体も存在した。

 しかしそれも騎士団による弾圧でその企みが成功したことはない。


 国全体としては乏しい食糧だが、帝城には豊かな食事が用意され、歴史の中で切磋琢磨されてきた高い練度を誇る武術。

 それらに対抗するにはやはりその日の食料にさえ困窮する民衆には荷が重かった。


 だからといって彼らは諦めた訳ではない。

 水面下で活動し、協力し合う事で力を蓄え、虎視眈々と皇帝の首を狙っていた。


 そんな反皇帝派による団体は革命軍と名乗り、ディンバー帝国の各地で細々と活動していた。

 

 その中でも最もエイルリア王国に近い町であるカイセン。

 さらにエイルリアだけでなく山脈フェブルにも近いごともあり、防衛の為に高い防壁で覆われた町は要塞都市と呼ばれており、騎士が多く駐在している。


 故に「革命軍」も慎重に活動していた。


 彼らは人目につかないような裏通りに並ぶ家々の1つを拠点にしており、常にそこに集まっている訳ではないが、緊急時や必要に応じてそこに集まっていた。


 そしてこの日、緊急事態という事でカイセンで活動する革命軍の主要メンバーが集結していた。

 秘密裏に活動するはずの彼らは興奮しているのか、外に漏れるのではないかという声量で話し合っている。


 何故か。それはそのメンバー内で最も若い男が報告した内容によるものだった。


「おいグラン!本当なんだろうな!?」

「あぁ!間違いねぇ!姿を確認した訳じゃないが、兵士のやつらが言ってた!」


 グランと呼ばれた男こそ、その報告をもたらした者である。

 若い、というより幼いとも言える彼は10歳でありながら、帝都に次いで危険とも言えるここカイセンで主要メンバーーー幹部に抜擢される実力者だ。


 そんな実力と実績を積んだグランの言葉を疑うのではなく、あまりの驚きに聞き返したといった他の幹部達。

 

 その表情は驚きに染まっているが、その中に隠しきれない期待や喜びといった感情が見えた。


 そんな浮き足立つ幹部達とは裏腹に、1人の女性が静かな声音でそれを肯定するように言葉を続ける。


「確かに…兵士達の動きが慌ただしくなっているという報告があったわ。だから確実にという訳じゃないけどその可能性は高いかもね」

「マジかよ…!じ、じゃあ、あの伝説の”国斬り”が見れるのか!」

「あのね、ちょっとうるさいわよ。興奮するのも分かるけど少し落ち着きなさい」


 一気に騒がしくなるアジトに、先程の女性が一括する。

 幹部達は慌てたように声のボリュームは落としたが、はやる気持ちは変わらないようでソワソワしているのが目に見えて分かる。

 そんな男達に女性は溜息混じりに言葉を続けた。


「……まぁ私だって会ってみたいし、あわよくば皇族を討ち取る手伝いをしてもらえないかと思ってるわ。だから、ひとまず”国斬り”の確認、次いで可能であれば接触してみるわよ」

「さすがリーダー!分かってるじゃねぇか!」


 その言葉を待っていたとばかりにはやし立てる幹部達にリーダーと呼ばれた女性は調子がいいんだからとぼやく。


「とは言えあくまで凶悪な戦闘能力の持ち主という事を忘れないで。不用意な接触をしてこちらに牙を剥かれては元も子もないわ」

「っそ、そうだな…」


 想像するだけでもあまりに恐ろしい話に幹部達は一気に冷静になった。


 確かに過去の例を見ると民を蔑ろにして私腹を肥やす皇帝を討ち取ったり、悪政を敷く貴族を一族ごと葬ったりと、民衆よりの行動をとる事が多くあった。


 だが同時に、町ごとすべての人間を消し去るなどの例も見られ、必ずしも安心して接する事が出来る相手ではないのも歴史が証明している。

 ついテンションが上がってしまった面々もそれに思い至ったのか少し冷静になる。が、

  

 そんな中1人の男――少年グランが口を開く。


「問題ねぇよ!大体無理なら予定通り俺らだけでやればいいだけだろ!だったら会って話して協力してくれねぇならせめて手出ししないように言えばいいじゃねぇか。なぁシエルリーダー?」

「ええ、その通りだわ。皆んな、各自部下に伝達して情報を集めて。有力な情報が集まり次第再びここに集まって接触方法の検討。もし不意に接触してしまった場合はグランの言うように説得する。いいわね?」

「「おうっ!!」」


 幹部達の返事を聞き、リーダーである女性――シエルも頷く。


 そして各々自分の仕事へと戻っていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「うぇっぷ……結構近かったんだな…」

「気付かなかったのか?どちらかといえばエイルリアよりディンバーに近い所に居たそ」


 一方、革命軍がそんな話をしていた頃。


 銀髪の麗人と黒髪の少年は要塞都市カイセンに続く街道を歩いていた。

 

 つい先程まで少年は麗人に抱えられて走っていたが、目立つ事もあり今は降ろされて早足で歩いていた。

 だがその速度が異常だった事もあり、未だに気持ち悪そうにしていた。


 とは言え情けないと言うには酷だろう。

 魔鏡の魔物と恐れられる彼らでさえ二度見してしまうような速度そのままに木々を縫うように左右に揺れ、岩を飛び越える旅に上下に揺れてきたのだ。


(…飛んでる竜を追い抜いた時はいっそ笑っちまいそうだったわ…)


 少年は吐き気を堪えつつも道中を思い出す。

 もし仮に遺跡があった場所がもっと遠かったのであれば朝食べた熊肉で街道を汚す所だったろう。


「でなければさすがに俺の耳でも聞こえん。この先にあるカイセンの声が精々だ」

「いやそれでも十分化け物染みてるから」


 心外そうに話す銀髪の麗人に呆れた口調で返す少年。


 ここに来るまで吐き気にも耐えてまで高速移動をしてきた彼らが何故こうも悠長にしていられるのか。

 それは道中で新たに仕入れた(盗み聞きした)情報があった為だ。


『良かったなガキ。どうやら監禁と言ってもかなり高待遇のようだ。すぐにどうこうなることはなさそうだぞ』


 そのレオンの言葉で気が緩んだのか、必死に押さえつけていた熊肉が飛び上がろうとした事もあり、今は歩いていたのだ。


「おい見えたぞ。あれがカイセンだ」

「ん?おー、立派な防壁だなぁ。…なんかウィンディアのよりすごくね?」

「見た目だけはな。ウィンディアの”風壁”と普通の防壁を同じにするな」


 珍しく褒めるような口調に少年は思わず目を瞠り、そしてそっか、と嬉しそうに相槌を打つ。

 やはり故郷の事を褒められるのは嬉しいようだ。


 しかし少年は気付かなかったが、麗人の顔はむしろ逆の表情を浮かべていた。

 実を言うと以前防壁ごと貫いて領主宅に突っ込んだのだが、その際に思ったよりも防壁の強固さに難儀したのが腹立たしかったらしい。


 そんな2人は見えてきたカイセンに目を向けてーー同じような表情を浮かべた。


 その目線の先には、防壁を背にしてずらりと並んだ兵士。

 それらがまるで出陣前のように敵意と緊張感を顔に貼りつけて武器を構えていた。


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