72 死神は地獄耳
キサラギアイ。
ーー如月愛。
ロイドが黒川涼であった頃の職場の後輩で、思えば自分の最期を見届けたであろう人物。
その彼女が監禁?転生体という言葉は彼女も転生してこちらに来ている?何故?
ーーいや、その理由はすぐに思い当たった。.
それと同時に、ロイドは強く歯を食いしばる。
「っどこだ!ディンバーのどこにいる!?」
ロイドには珍しく声を荒げる。
だがレオンは目を吊り上げて食いかかるように迫るロイドとは対照的に冷静に答える。
「帝城だ。皇子の手によって監禁されているようだ」
「帝城……」
ロイドは噛み締めるように如月の居場所を口にする。
そして勢いよく振り返り、扉へと早足で進む。
「待てロイド」
「っふざけんな!!」
叫ぶロイドにレオンが珍しく言葉に詰まる。
「待てる訳がねぇだろ!あいつがこの世界に来たのは間違いなく俺のせいだ!!……今すぐにでも助けるに決まってんだろぉが!」
その背中にレオンが静止の声を掛けるが、ロイドは叩きつけるように言い返す。足は止めず、そのまま扉に手を掛けーー
「待てと言ってる」
次いで告げられた言葉に込められた強烈なプレッシャーに、体を強張らせて動きを止めた。
「……!」
あまりのプレッシャーに怯えたように体が固まるも、怒りをもって気を持ち直して振り返り、レオンを睨むように目線を向ける。
「ふん……いいか、まず監禁をされたこと自体は少し前かららしい。まだ生かされていることを考えるとすぐにどうこうなる事はない」
「そう言う問題じゃねぇんだよ…!」
「だとしても、今のボロボロのお前が行って何になる?魔力はほほ空で、左腕は折れているだろう?」
「向かいながら回復する!じっとしているだけ時間の無駄だ!」
「普通ならな。ーーだが、俺がいるんだぞ?」
今にも斬りかかりそうな剣幕で話していたロイドがレオンの言葉に眼を瞠る。
その様子を見てレオンが溜息混じりに言葉を続けた。
「俺が送ったほうが早いに決まっている。そもそも場所を知らないだろう?俺は分かる。そして、それならば回復も集中して行った方が早い。違うか?」
「………」
違わない。
回復に努め、回復し次第レオンに送ってもらえば間違いなく結果的に最短の方法だろう。
だがしかし、レオンが手を貸してくれるとは思いもしなかった為、驚愕してしまった。
「頼んで、いいのか?」
「構わん。それにそのキサラギアイもお前と同じく俺の目的に必要になる可能性がある。……俺としても生きて手元に居た方が都合が良い」
素っ気なくもロイドの言葉に頷くレオン。
その言葉でロイドはゆっくりと扉から離れてレオンの前に歩いていく。
そして、レオンの前に膝をついて腰を折り、頭を下げた。
なんだかんだで長い付き合いになりつつあるレオンだが、初めて見せるロイドの姿でもあった。
「…ありがとう……!」
「ふん……」
レオンは鼻を鳴らしつつ、頭を下げるロイドの首根っこを掴んで持ち上げる。ん?!と驚いた表情を浮かべるロイドを無視して簡易ベッドにロイドを放り投げた。
「なにをらしくない真似を。気持ち悪い。疲れでおかしくなってるんだろうし、さっさと休んでしまえ」
放り投げられてベッドの上で目を丸くしているロイドにレオンの悪態が届く。
いつものような憎まれ口だが、どことなく早口なそれに思わず笑ってしまう。
「…何がおかしい。やはり頭をやられたのか?全く、守護獣以外全て掃除しておいたというのに頭がおかしくなる程やられるとはな」
「照れんなよツンデレ……ってなんて?掃除したぁ?」
「ん?言ってなかったか?余計な時間も手間も掛けるつもりはない。お前では厳しいだろうと思い、あそこに巣食っていたグリーンウルフは消しておいた」
「は……?」
驚きの事実にしばらく言葉を失うロイド。
つまり、最初に出会った緑の狼はその生き残りで、あそこまでスムーズに進めたのはレオンのお膳立てだったという事である。
ゴーレムとの戦いでは魔力は本当にギリギリだった。
狼の群れの後で闘うとなると間違いなく負けていただろう。
ちなみにドラグ製の魔力回復薬の事はさっぱり忘れているロイドだった。
「ってめ…!」
だが、どうにもレオンの手の平の上で転がされているような感覚を覚えてしまい、ロイドは腹立たしい気持ちになってしまう。
「おいこらじじい!てめー余計なことしてんじゃねーよ」
「なんだクソガキ。まんまと天井踏み抜いて落ちた間抜けがよく言う」
「それは戦略的ショートカットだろーが!」
あまりに言い返し辛い言葉に思わず雑な言い訳をするロイド。
だがふと気付いてすぐに口を開いた。
「ってなんで知ってんだ?まさかついて来てたんか?」
「ゴーレム一体の排除に何故子守をしなくてはならん。ずっとここに居た。が、聞いてはいた」
聞いていた?何を言ってるんだと言いかけ、不意に頭を過った可能性に言葉を呑み込む。
とは言え、あまりに突拍子もなく有り得ない可能性。
だがしかしそれでも色々と規格外なこの男ならやりかねないと思ってしまい、それを口をにしてみる。
「まさか、身体強化の部分強化とかで聴覚を上げて”聞いていた”……とか?」
「ほぉ、よく分かったな」
あまりにあっさりと頷かれ、ロイドは今度こそ言葉を失った。
そして、それどころではなかったので聞き流してしまっていた言葉を思い出した。
「まさかのまさかだけど、ディンバーの如月を見つけたってのも…」
「さすがにそれは無理だ。アリアが来たんだ」
さすがに納得だ。だが、続く言葉にロイドは吹き出した。
「聞く事次第は可能だが、そこまで遠いと雑音が多いから選別が追いつかん」
「は…はぁ?!……おま、マジかよ!」
なんかもう一周回って笑えてきた化け物ぶりにロイド。
一拍の後、しっかりとひとしきり笑ってしまう。
「……あー笑った…じじいのくせに地獄耳かよ。てかそーいや如月の事知ってん?」
「もともとお前をアリアから預かった時に聞いていた。もっともそちらはエルフの方に生まれたらしく、そちらの信用出来る人物に託したらしいがな」
どうやらかなり前から知っていたらしい。
それなら俺にも早く教えろや、とアリアに内心恨み言を吐き捨てる。
「それより早く休め。お前の未熟な自己治癒じゃ呑気に話しているだけでも性能が落ちかねん」
「………」
舐めんな、と返したかったが、確かに黙っていた方が集中出来るのは確かだと考えたロイド。
聞きたい事も大枠聞けたし、素直に従う事にした。
「…そうだな。そしたら回復の目処がたったら言うわ」
「そうしろ」
それきり、2人は目を閉じる。
それからロイドは自己治癒に集中した。
それから半日近く経った。
途中寝てしまったりもしたが、それにより魔力が回復したことと、ずっと自己治癒に努めていた事で少しずつ使い慣れてきた事もあり、ロイドは後半は効率良く回復させる事が出来た。
今は動くには全く問題ない程になっている。
そして、レオンに目線をやるとタイミングが分かっていたように目を開いて視線を受け止めた。
2人は言葉を交わす事なく立ち上がり、扉へと向かっていった。




