66 幻の魔術と約束
「ところで、なんでアリアは声だけなんだ?出て来たらいいのに」
しばらくして気を取り直したロイドは質問の続きを促す。
“そうはいかなんです。前にも言った通り、私はこの空間から出る事は許されません”
「ふーん」
許されない。
出来ない、ではない事にロイドは引っかかりを覚えつつも、続きを促す為に沈黙を維持する。
“ですが、空間を繋ぐ事で声のやりとりくらいは問題ないです。とは言え今回は空間魔術の発動場所を目印に繋ぎましたが、本来はこのようにピンポイントで涼さんの近くに繋ぐ事は難しいんですけどね”
空間そのものが違う場所に繋ぐことは目隠しをした状態で3Pシュートを決めるようなものである。
そもそも空間魔術の発動を察知する事、そしてそこにピンポイントで空間を繋ぐ事も超絶技巧であり、アリア以外になし得る者はいないだろう。
「そうなんか。まぁしゃーないか。んで、アリアとじじいは知り合いなん?」
“ぶふっ!”
ロイドの質問にアリアが吹き出す。
レオンはロイドを睨む。
思う対応と違う2人にロイドは首を傾げる。
“じ、じじい!レオンがじじい!もうムリっ!ふふっ、あははっ!”
「うるせえ!ったくずっとツッコまねぇと思ったらここでかよ!おいロイド!今すぐじじいやめろ!」
見た目若いんだし今更気にすんなよ、ロイドは内心呟き、溜息をつく。
「そこかよ。全人類最年長が孫が生まれた婦人みたいな事言ってんじゃねーよ」
“ぶぶっ!あっはっはっは!あははははっ!”
「てめぇ…フォローとかオブラートとか知らねえのか…?」
「え、ん?あ、間違えた。えっと…見た目若いんだし、今更気にすんなよ!」
「遅えよ!そしてなんだその取ってつけた感!」
アリアがひーひー笑う声をBGMに言い合う2人。
質問進まねえな、とロイドは内心呆れるのであった。
それからしばらく経ち落ち着いた3人はやっとロイドの問いに答える。
「昔の仲間だったんだよ。こいつがグループのリーダーで、俺が剣士だった」
「遠い、遠い昔の話?」
「じじいに繋げようとすんな」
“ぷぷっ”
軽口を叩き合う2人に吹き出すアリア。
だがとうとうレオンが反撃に出る。
「それ言ったらお前もばばあだろうがアリア!」
“な、なんですって!私は違うわ!め、女神らしいし?!”
「女神?ばばあより恥ずかしいわそんなの!」
“くっ、言い返し辛いところをっ!女性にそんなの言っちゃダメなんだよ!だからレオンはモテないんだわ!”
「余計なお世話だエセ女神!」
「いや落ち着け」
溜息混じりに止めるロイド。
人類最年長であろう2人に見た目子供が仲裁する姿はなんともシュールである。
あまりに進まない問いにもう諦めたのか嫌気が差したのか、ロイドは強引に進めることにした。
「とりあえず2人は仲間だったんだな、よく分かったわ。んで、幻の魔術って?」
「それか。ちょっと前くらいからそう呼ばれてるんだ。アリア以降に使えるヤツも魔法陣もいなかったからな」
“あまりに危険な魔術でしたので、私がこちらの空間に入る際に空間魔術に関する情報は消しましたから”
だから、歴史にあっても実在しない魔術としてそう呼ばれてるらしい、とレオンが続ける。
なるほど、と名前の理由は理解したものの、同時に疑問が湧く。
「んじゃなんで本屋に普通に売ってたんだ?」
至極当然の疑問に、レオンはニヤニヤし、アリアは沈黙する。
そう言えば2人が言い争ってる際に似た会話をしていたような、と思い当たる。
「いやなんか言ってたな。なんだっけ?」
「それな、寂しがりな女神様のプレゼントだろ」
「は?何じじいらしくねー似合わん事言って……ってそれだ、思い出した」
「なんだとクソガキ」
俺に習得させる為に復活させたとか言ってたな、と記憶の復元に成功するロイド。
納得してうんうん頷くロイド。
“女性をあまり待たせるものじゃありませんよ。早めにお越し下さいね、涼さん”
ロイドの軽口に青筋を浮かべたレオンのデコピンが炸裂してロイドが涙目になっている中、アリアの声が響く。
それは、先程まで軽口や言い争いをしていたような気安くも温かみのある声。
最初のような女神と勘違いしたような美しい声音ではなかった。
だが、そこに込められた想いだろうか。
寂しさや切望、期待が入り混じったような、それでいてそれらを必死に隠しているような、そんな声。
ロイドの脳裏に真っ白な、それでいて何もない空間が過ぎる。
あの時交わした約束。自分はどんな気持ちで言ったのだったか。
正直に言えばそれは思い出せない。しかし、
「当たり前だろ。まぁ今すぐは無理だから、もーちょい待っといて。それまでに欲しい土産でも考えといてくれい」
今は必ず守るという気持ちもあるし、どちらにせよ約束を破る気などない。
ロイドは虚空に向かって笑いかけるのであった。




