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62 死神とウィンディア

 ウィンディア領は年間を通して大きな気温の変化はない。

 しかし上着を一枚羽織るか脱ぐかの差ほどだが、少なからず変動はある。


 そして今はまさに上に1枚羽織らなければ肌寒い、という少し冷たい風が吹く季節となっていた。

 

 ウィンディア家の昼過ぎ、いつものようにフィンクはルーガスについて政務の手伝い兼勉強を。

 エミリーはシルビアによって礼儀作法と、加えて魔法の練習を行なっていた。


 フィンクは手伝いの合間に指導をするルーガスの厳つめの声に紛れるように、エミリーの悲鳴が聞こえてくるのを聞き流していた時だった。


(――っ!?)


 不意に体の芯から冷えるような悪寒に襲われた。

 若いながらも年不相応な修羅場を潜り抜けてきたフィンクをして、かつてない程の凶悪なプレッシャーに思わず身を竦める。


「……あちらからお越し頂けるとは。フィンク、仕事は中止だ。外にて出迎えるぞ」

「――っはっ!は、はい父上…」


 ルーガスのいつも通りの低い声。

 耳に馴染むその声で我に帰ったフィンクは自分が呼吸を止めていた事にやっと気付いた。


 父ルーガスの巌のような存在感。

 その側にいる事で得られる安心感を、今程心強く感じた事はない。


 ようやく落ち着いてきた事で気付いたが、そのルーガスをもってして仕事を中断してまで出迎える相手が向かっているという。


 国王以外に見た事も聞いた事もないルーガスの対応に内心驚いていると、外に出て更なる衝撃を受ける。


「これは…」

「ようフィンク、地味に久しぶりだな。元気にしてたか?」


 ウィンディア家の庭の外、塀を守るかのようによく知った背中達が並んでいた。

 その内の1人、ラルフが背を向けたまま話しかけてくる。


「え、ええ。それより何故こちらに…」

「決まってんだろ?ねぇとは思うけどもしヤツが襲撃に来たってんなら……一気に叩かねえと勝ち目なんざないしな」


 「ヤツ」。この瀑布のようなプレッシャーを放つ相手。

 それを見知ったように話すラルフに疑問を抱きつつ、目線をスライドしていく。


 ギルドマスターディアモンド。本屋店主ベル。ギルド受付カーネリア。薬師ドラグ。武器屋ロゼット。ほかにもジークをはじめとしたギルド所属メンバー達。

 そして庭には母シルビアに妹エミリー。


 多くのメンバーがどこか硬い雰囲気を放つ中、ルーガスとシルビア、エミリーはいつも通りの様子に見える。


「父上、一体これは…」

「お久しぶりです、師匠」


 フィンクの問いに被せるようにしてルーガスが口を開く。


「…?」


 思わず前方に目を向けるが、そこには誰もいない。

 が、視線の先にいるディアモンド達はこちらを見ている。


 なんでこっちを見ている?という疑問が浮かぶより先に、フィンクは思考ではなく脊椎反射で振り返った。


「師匠ってガラじゃない。まぁ久しぶりだな、またさらに強くなったようだな」


 振り返ったフィンクの目線の先、ルーガスの後ろには、背合わせのようにして立つ背の高い男。

 銀髪を風に遊ばせ、黒衣を纏う「それ」を視界に収めた瞬間、まるで竜の巣に裸で放り出されたような恐怖を覚えた。


「う、うあぁっ!」


 そして思わず放つ魔法。

 水と風を複合させた彼オリジナルの魔法、氷魔法。


 美しい見た目とは裏腹に凶悪な威力と汎用性を誇るその魔法を、「それ」はハエを払いのけるかのような気安さで腕を振るい、そして弾き飛ばした。


「いきなりだな。確か…フィンク、だったか?」

「ええ、息子のフィンクです。少々”あてられた”ようで……ご容赦下さい」

「気にするな。良い一撃だ」


 淡々と会話をする父ルーガスと「それ」。


 そこで不意にその正体に思い至る。

 この男が弟ロイドを連れ去り、そして父の古い師であるという、


「ちょっと『死神』!あんた1人なの?!ロイドはどこよ?!」


――『死神』レオン。最強と名高い父をもってして届かぬ力を持つ男。


「ロイドは留守番だ。あいつの忘れ物を取りに来ただけだし、すぐ戻る」

「気が効かないわね!ロイドも連れて来なさいよ!」


 そんな男に食ってかかる妹に思わず二度見するフィンク。

 だが、そんな会話を見てか冷静になったフィンクは『死神』に向かって頭を軽く下げる。


「先の無礼、大変失礼致しました」

「気にするなと言ったろう」


 本当になんでもないように言うレオンに、もう一度会釈だけするフィンク。

 その頭が上がりきる前に背後から声が飛んでくる。


「おい『死神』!忘れ物取りに来るだけでバカみたいに威圧してんなよ!」

「ふん、これがかの有名な『死神』か。噂はあてにならんな」

「うむ……完全に噂以上じゃ。勝てる気が全くせんわい」

「まぁ攻めに来た訳じゃないなら良かったじゃないかい。私は帰るよ」


ラルフ、ディアモンド、ロゼット、ベルは口々に話す。


「そうだな、手合わせ願いたいと思っていたが、ロイドをフェブル山脈に残してるなら待たせるのも良くない、か。…帰るとするか。皆、退散だ!」


 ベルを切っ掛けにディアモンドが退散を促し、多くのメンバーがすごすごと帰路につく。

 誰もが口を開かないのは、恐らく未だ抜けない『死神』の圧力による恐怖故だろう。


「立ち話もなんです。お茶でも用意致しますわ。どうぞ中へ」

「…頂こう」


 それを待っていたかのようなタイミングでシルビアが一歩前に出る。

 レオンもそれに素直に従い、ウィンディア家へと足を進めた。


 そしてリビングにて。


「師匠、今度お時間があればぜひ手合わせを」

「…今度な」


「レオンさん、ロイドは元気にやってますか?あ、これお土産にどうぞ、美味しいんですよ。2人で仲良く食べて下さいね」

「…あぁ、頂いておく」


「ローゼ、レオンさんに挨拶なさい。うふふ、可愛いでしょう?大きくなったらまた会いに来て下さいませ」

「あうー、えおん?えおん!」

「……こ、こんにちわ…」


「『死神』!あんた早くロイドを解放しなさいよ!もう1年までそんなにないんだからね!」

「……はぁ、それはあいつ次第でだな…」


 すっかり打ち解けた(?)家族に群がられ、珍しく疲れ気味で引いたレオンがいたりいなかったり。


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