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61 高難度パズルと手紙

「マジかよ…」


 驚いた事に、レオンはその日の夕暮れ時には戻ってきた。

 その手には記憶にも残っている黒い表紙の本と、腕で抱える程度の袋が握られている。


 ロイドはと言うとそれまで『自己治癒』の練習に充てていた。

 レオンのようにすぐに傷が完治するまではいかないまでも、軽い傷なら数分で塞がる程度にはなっていた。


 そしてその間、これまた驚いた事に魔物は一切襲って来なかった。

 調達の際もそうだが、いつもならレオンの気配が消えた瞬間に動き出す魔物達だが、今日は半日もの間一切それがなかった。

 

 余程「発射」の最初の魔力が大きく恐れられたのか、それとも警戒心が強い魔物が周辺に多かったのかは分からないが、結果オーライだと喜んでおく事にした。


「戻ったぞ。食われてなかったんだな」

「おかげさんでな。さすがの魔物も人間ロケットの発射痕には近寄りたくなかったんだろ」


 顔を見合わせるなり軽口を叩く2人。

 いつもなら煽ってくるレオンだが、今回は手に持った荷物を手渡すだけに留まる。


「マジで行って帰ってきたんだな…アマ◯ンもびっくりの早さだわ」

「誰かは知らんが、俺より速い奴なんざほとんどいない。……それより、お前の家族から土産だ」


 違う、人じゃない。そう思いつつ手渡されたのは袋を開けると、大量の瓶やお菓子など色々と入っていた。


「家族、ね…」


 レオンにも聞き取れない声で呟き、物色していく。

 どうやら瓶は薬のようで、おそらくドラグ作の魔力回復薬だろう。

 お菓子はフィンクやエミリーだろうか、よく3人でつまんでいたお菓子だった。


「これは…?」


 次に出てきたのはロープだった。

 その先には三又のフックのようなものが取り付けられており、そこには魔法陣が刻まれている。


「魔術具だ。お前がここにいる間にルーガスとシルビアが集めてきた物だ。昔は生活用品としても使われていたもので、フックの魔法陣は『刺突』、ロープは『硬化』だ」


 説明を受けつつ魔力を流してみるとロープがまるで鋼鉄で編んだワイヤーのように硬くなった。

 さらにフックを地面に当ててみると、驚く程抵抗が少なく地面に突き刺さる。


 これは便利そうだなととロイドは魔力を解いて脇に置いた。

 そして再び袋の中を見る。


「……手紙?」


 そこには一枚の紙が入っていた。

 疑問形になったのは便箋などではなく普通の用紙が折り畳まれていただけのものだったからだ。

 

 開いてみると、まるで色紙の寄せ書きのように書き込まれた4つの筆跡。


『レオン師匠の訓練は必ずお前を強くする。帰ってくるのを楽しみにしている』と力強くも整った文字。

 ルーガスの筆跡だ。簡潔ながらも温かみのある言葉に思わず頬が緩む。

 師匠、のところはあとでレオンに問い詰めよう。


『ちゃんと元気にしてるかしら?無理しないように、体に気をつけるのよ。いざとなればレオンさんを盾にしなさいね』と綺麗な文字はシルビアだ。

 さらっと地上最強の死神を盾扱いするあたりはさすが母さんだと思わず苦笑してしまう。


『ロイドの事だから大丈夫だろうけど、エミリーが心配そうにしてるから早く帰っておいで。帰ってきたら手合わせしよう、楽しみにしてるよ』と達筆な文字はフィンク。

 兄としての気遣いに紛れた戦闘狂の一面に笑いがこみ上げてきた。


『遅刻したら許さないからね』と殴り書きのように書かれたのはエミリー。

 話したい事はあの満天の星空の下で話した。あとは念押しだけ、といったとこだろう。

 意地を張って何も書かないと言い張るエミリーを周りが宥め、仕方なしに書き込んだという光景が浮かび、とうとう笑いが出てしまう。


「家族は心配していたぞ。早く遺跡をクリアするんだな」


 読み終えた事に気付いたのか、レオンが口を開いた。

 ロイドは笑いの余韻に浸りながら手紙を折り畳み、ポケットに入れながら言う。


「言われなくても。急がないと叱られそうだしな」

「そうか。ならそれを早める為にもこれを早く習得しとけ」


 そう言って目の前に置かれたのは以前ベルの本屋で購入した本――魔術書だ。

 開いてみるとレオンがやったのか、以前は綴じられていたページが綺麗に切り取られており、表紙で挟んだだけの状態になっている。


「せいぜい急いで完成させるんだな。とは言え魔術適正があるお前なら早いだろう」

「いやそれ関係あんの?」

「あると言われている。どうも導かれるように出来ていく、と聞いた。適正がない魔術書だったりするとなかなか出来ないとも聞いた事がある。本当かは知らんがな」


冗談だと思って適当に聞いただけだったのだが思ったよりちゃんとした内容が帰ってきて逆に驚いてしまった。


 まぁどーでもいいや、とロイドは魔術書を広げていく。

 さくっと作れるならラッキー、でなけりゃ頑張る、そんだけだ、と内心で呟きつつ、用紙を適当に広げていく。


 そうしていく内に本は表紙だけになり、目の前のスペースには400枚、縦20枚の横20枚の用紙が広がっていた。

 ――はっきり言うと、先程までのやる気は消えていた。


「マジかこれ、めんどくっさ…」

「遺跡に潜るより何倍も楽だ」


レオンの言う通りなのかも知れない。だがそう言う問題ではない。


「俺パズルとか苦手なんだよな…すぐ飽きるし」

「知るか。遺跡に潜る前に戦力が増える事を喜ぶ所だろう」

「まぁそーなんだけどな…」


 そう言いつつ手前の用紙を一枚とって見てみる。

 そこには隣のページに繋がるであろう線も何もない、◯が書かれただけの紙。いや分かるかこんなん。


「まぁいい。明日でも一週間後でも好きなタイミングで遺跡に潜れ。遺跡から帰ってくるまで自由時間だ」


 レオンはそう吐き捨てるように告げると、寝床に近寄りそのまま横になる。

 珍しく疲れているような雰囲気にロイドは目を丸くした。


「どーしたじじい。年が祟って疲れたんか?」

「黙れガキ。お前んとこの家族に群がられたせいだ」


 どうやらかなり絡まれたらしい。

 エミリーは面識があったとは言え、『死神』相手にさすがだな、とロイドは苦笑する。


「まぁとりあえずこの魔術書を完成させたらある程度慣れさせて、そんで遺跡に潜るわ。慣れさせる時は少し手合わせもお願いしたいんだけど」

「その時は声を掛けろ」


 目を閉じたまま簡潔ながらも了承の言葉をもらったロイド。

 なんだかんだで面倒見良いな、と思いながらロイドは返事はせずに魔術書に目を向ける。


(笑えるくらいやる気起きねーけど、やるしかないもんな…)


立ち上がったロイドは、とりあえず外枠から!と外枠の円の線と思われる用紙を並べ始めたのだった。




 ちなみに、結果として魔術書を完成させるのに一週間近くかかった。

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