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60 あの本は○○だったのか

 遺跡に着いたロイドとレオン。


「疲れたぁ〜」

「もう夜になる。早く飯にして今日は休むぞ」


 着いた瞬間に気が抜けたのか思わず蹲ってしまったロイド。

 レオンも疲れはともかく野営の連続でストレスが溜まっていたのかからかう事もなく、その日はすぐに食事を済ませてのんびりしていた。


 なぜか用意されていた簡易的な建物に入り、久しぶりにまともな寝床でくつろぐ。

 道中の魔物はもちろん、今回は寝ている間までレオンが存在感を隠していた為夜襲もありぐっすり寝るのは久しぶりだった。


 

 そして翌日。

 久しぶりにゆっくり出来たロイドはだいぶすっきりした様子だ。


 そしてレオンに連れられて遺跡の入り口だという場所へ向かう。


「ここだ」

「……マジ?」


 そこレオンが指差す場所はフェブル山脈にはよく見られるクレバスのような地面の裂け目だった。

 思わず聞き返すが、レオンは頷く。


「ここの下に埋もれた遺跡だ。降りたら一本道になっている。その先に遺跡があるから迷う事もない、安心しろ」

「ん?」


 その言葉に違和感を覚えるロイド。まるで、


「1人で行くみたいに聞こえるんだけど?」

「そうだ。なんだ、保護者同伴じゃないと探検も出来ないのか?」


 嫌な予感が的中した。

 さすがに命の危険を感じるが、いつものように煽られては助力を乞うのも躊躇われる。


 というかマジで乞いたくない。


「んなワケあるか!さくっと行ってきたるわ!」

「ぜひそうしてくれ。とは言え出発は明日以降だ。今日は身体魔術をひとつ教える」

「おお?」


 ロイドはあまりの驚きについ言葉が出た。

 カレンダーなど置いている訳がない為、どれだけ時間が経ったかは分からないが、この長い間に具体的な魔術の指導などされた事はない。


 これまでいつもレオンがしている事を見て模索、練習、実践の繰り返しで身につけてきたのだ。


「本当は手合わせの合間に見せてやりたかったが、実践する機会がなくてな。『自己治癒』という魔術で、損傷した箇所に魔力を留めて治癒力を向上させる魔術だ」

「…………………なるほど」


 たっぷりと間を置いての返事。

 実践する機会を作ってやれなくて悪かったなクソジジイ!という言葉を必死に飲み込む時間という事は言うまでもない。


 しかしいつもの言い合いになって有耶無耶になっては困るとロイドは必死に堪える。

 そんなロイドに気付かずーーもしくは気にせず、レオンは続ける。


「慣れれば戦闘中だろうと睡眠中だろうと出来るようになる。魔力は損傷の回復に伴って消費するから考慮しろ。一度見せるからあとは自分で感覚を掴め」


 そう言ってレオンは手の平に反対の手の指をすっと走らせる。すると手の平には切り傷が出来ていた。

 まるで指が鋭利な刃物のようになっており、そんな魔術もあるのかと頭の片隅にメモをとりながらもロイドは即座に目に『部分強化』を施す。


 『部分強化』にて強化された目は視力、動体視力の向上に加え、魔力がほんやりと視認出来るようになる。

 最初は視力向上だけだったが、使っていく内に精度が上がったからだろうか、魔力が見えるようになっていたのだ。


 その視界ではレオンの魔力が手の平に集まっていくのが分かった。


 傷を覆うように留められた魔力。

 それが体を覆うようにする『身体硬化』とは違い、傷に浸透するように微かに傷に収束しているように見えた。


 そうやって見ている内にあっという間に傷は無くなっていた。

 時間にして10秒もかかっていないだろう。


 これはかなりのアドバンテージになるな、とロイドは胸中で呟く。


「まぁ明日の昼過ぎまでは好きにしろ。それまで手合わせもなしにしてやるから、せいぜい練習しとけ」

「おー、そーさせてもらうわ」

「あとこいつにも慣れとけ」


 そう言って手渡されたのは筒状の物体の先に赤い石が嵌め込まれた物。

 その形状は前世のある物を彷彿とさせた。


「懐中電灯?」

「かい…?なんだそれは?……こいつは明かりをつける魔術具だ。中は真っ暗だからな」


 懐中電灯という名前は無いようだが、用途はまんま懐中電灯だった。

 魔力を流してみると、思ったより強い光を前方に放っている。


「おぉ、便利だなこれ」

「まぁ俺にはもう必要のない物だからな。くれてやる」


 必要ない?まぁこの男なら暗視くらいやってのけそうだと1人で納得しながらもありがたく頂戴した。

 

 先程試しに使った感じだと風の魔術具である短剣よりも簡単に扱えそうだ。

 おそらく簡易な魔術具であり、操作も明かりをつけるだけのシンプルなものだからだろう。


「ありがとな。てか遺跡の奥に行けばいいんだろーけど、身体魔術みたいな本が置いてんの?」

「ん?あぁ、いや違うな。最奥に魔法陣が直接刻まれた石版があるから、それを使って習得すればいい」

「あ、そんなパターンもあんだな。…まぁ本だと持ち出されたり破損したりしたら遺跡の意味がなくなるもんな」

「そう言う事だ。しかも本だと大体最初は暗号化も含めてバラバラにされた用紙を綴っているだけだから、繋ぎ合わせるのも時間がかかるしな」


 それは初耳だった。

 てっきり身体魔術の魔術書のように魔法陣を折りたたんでいるものだと思っていた。


「そうなんか。って事は身体魔術のやつは繋ぎ合わせてくっつけといたんか」

「そうだ。この事は覚えとけ、魔法陣の刻まれた遺跡より、魔術書の方が多く残っているはずだからな」


 カバンから身体魔術書を見せながら言うレオン。

 ふぅん、と適当な相槌を打ちながら、その黒い無地の表紙を眺めていた。


 すると、記憶の端にあった映像が思い浮かぶ。


「あ!」

「ん?どうした」

「それ、俺も持ってる!」

「……なんだと?どこにある?お前の家か?」


 珍しく真面目な表情で食いつくレオンに、ロイドはすっきりした表情で言う。


「そーそー。俺ん部屋にあるわ。しかしそーゆー事か。訳分からん記号やら線ばっかの紙が延々とある本で意味わからんかったけど、繋げたら魔法陣になったんだな」


 そう、ベルの本屋で購入した本の事である。やっと謎が解けて満足気なロイド。

 まさかこんな所で当時悩まされた本の正体を知るとは思いもしなかったが、これで帰った時の楽しみが増えたと大喜びである。


「そうか。よし、遺跡出発は延期だ。明日はその魔術書の魔術を習得するぞ」

「は?いやいや待った、結構遠いし引き返すのめんどいわ」


 ここに来るまでの道のりを思い出して辟易とするロイド。

 しかも登ってきた事を考えると完全に麓から反対に進んできたと思われる。


 かなりの距離になるだろうし、目的地の目の前まで来ておいてまた移動するのは気分的にも億劫だ。


「お前のペースならそうだろうが、俺ならすぐだ。今から俺だけ取りに行くから、お前は『自己治癒』の練習でもしておけ」


 そう言いつつ立ち上がったレオン。そして魔力を練り上げていく。

 今まで手合わせで見せていた魔力とは桁違いなそれに思わず顔を引きつらせるロイド。


 それに構う事なくレオンはどんどん魔力の大きさと密度を増していく。


「じゃあ行ってくる。しばらく魔物も寄ってこないだろうが、帰ってきて食われてたなんて事がないようにな」


 そう言うと返事もする間もなく駆け出したレオン。

 と言ってももはや駆け出したという表現では不適切な程の速度であり、発射したという方が適切だろう。


 地面が爆発したかと思うと空気を裂く音だけを残して一瞬で視界から見えなくなるレオンに、ロイドは呆然とする。


「……ドラゴン◯―ルかーい」


 残されたロイドは1人寂しく突っ込むのであった。


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