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54 魔術とは

 エミリー達と別れたロイドは、黙々と歩くレオンにひたすらついて歩いていた。

 山を登る形で進むレオンに追随しながら、ロイドは周りを見回しながら歩く。


(ほんとに魔物が出ないな…どんだけ強いんだこの人)


 最も気になったのはやはりそこだ。

 数多の魔物がひしめく魔境と名高いフェブル山脈をかれこれ一時間は歩いたが、魔物はおろか動物1匹すら遭遇する事すらなかった。


 銀髪を揺らしながら歩くレオンの背中に視線を映して歩いていると、不意にレオンが振り返った。


 着いたのか?と思って足を止めるが、ただ木々が生い茂っているだけで何かあるようには思えない。


 そんな事を考えているとレオンが口を開いた。


「どれほど体力があるか知りたい。ここからは軽く走るから、遅れず着いてこい」

「いいけど…ってちょっ」


 そう言うや否や走り出すレオンを慌てて追い掛けるロイド。


「いきなりだなおい…」

 

 走るペース自体は結構速いが、着いていけない程ではない。

 おまけに兄弟での鬼ごっこもあり森を走る事にも慣れている。


 そうしてしばらく足音もなく走るレオンに追随していく。

 が、終わりが分からないというのは精神的にもきつい。というよりすでに結構な距離を走破しており息も上がっていた。


 そして段々と距離が離れてきた時だった。

 強烈な悪寒を覚え、背後を慌てて見ると、狼のような魔物がこちらを睨むように見ていた。


(やべっ!)


 その威圧感に焦りを覚えたロイドは、腰の短剣を抜いて風の魔術を発動。

 追い風を発生させて走る速度を跳ね上げる。


 再びレオンの近くまで駆けつけると、狼は諦めたのか姿や気配を消していた。


(マジか……これ実は命懸けのマラソンじゃねーか…)


 離されすぎたら死ぬ。

 

 そう痛感したロイドは、魔術の補助を使いながら走る事にした。


 レオンからも何も言われないので、体力ついでに魔力の持久力も見るつもりかも知れない。


 それから数時間、太陽が頭上に来る頃にやっと立ち止まったレオン。

 魔力も体力も底をついていたロイドは、レオンの言葉を待たずに倒れ込んだ。


「ふむ、魔力量は悪くはないな。体力は少ないが、これから鍛えるとしよう」


 レオンの言葉に返す余裕もなく息を荒げているロイドに、レオンは構わず言葉を続ける。


「当面ここが拠点になる。魔物は出ないから安心しろ。立てるようになったら入ってこい」


 そう言うとレオンは建物へと入っていった。

 ばたん、と言う音がして、ロイドはやっとそちらに顔を向ける。


 そこにはレンガ造りのシンプルな家があった。

 見た感じだと平家と思われる作りは、歴史を感じさせる蔦や傷みがあり、どこかアンティーク風な印象を受ける。


 しばらく倒れ込んだままその拠点となる家を眺めている内に息が整ってきたロイドは、やっと体を起こして立ち上がる。


 棒になったように重たい足を動かし、レオンが入っていった扉を開くと、そこには広間があった。

 視界の端にはいくつかの部屋があるようで扉が見える。


 そして、その中央にある机には一冊の本があり、椅子にレオンが腰掛けていた。


「やっと来たか。とりあえず座れ」

「ういーす」


 なんだかどうにも敬語を使う気になれないロイドは、前世のような緩い言葉遣いで返す。

 それにレオンは咎める事もなくロイドが座るのを待ち、座った所に手に持つ本を差し出してきた。


「これが身体魔術だ」

「は?……ん?え、これが?」


 なんともあっさり伝えられた言葉に、思わず聞き返すロイド。

 表紙には何も書かれておらず、なんともシンプルなそれを受け取り、開こうとする。


「ん?本じゃない?」


だが、開こうとするとそこには紙がパラパラとめくれる事はなく、折りたたまれたように折り目や谷目が連なっていた。


「広げてみろ」

「へーい」


 レオンに言われる前から広げ始めていたロイドは気の抜けた返事をしつつ本のようなものを広げていく。

 もうこれ同じように戻せる気しねえ、と思いながらこれでもかと広がっていく用紙を広げていくと、そこには魔法陣が描かれていた。


「魔術の会得とは、魔法陣を体内に刻む事だ」


 おもむろに話し始めたレオンに目を向けるロイド。

 こちらに意識が向いた事を確かめたレオンは言葉を続ける。


「魔法陣に魔力を注ぎ、その魔力を再び自分に戻す。そうする事で己の体内に魔法陣を刻む事が出来る。あとはその魔法陣を通して発動するだけだ」

「…なんか、えらい簡単なんだな。適正率とかもあんの?」

「ない。会得した魔術の扱い方や魔力量によって熟練度に差は出るが、魔法のような魔力変換の過程によるロス、つまり適正率というものはない」


 魔法とは魔力変換した属性魔力を魔法陣や詠唱により発現させる技術だ。

 その魔力変換にあたり、人によって属性魔力に対して必要な魔力が違う。


 1の属性魔力を生むのに、1の魔力で済む者も居れば2の魔力が必要な者もいる。

 その差が適正率という訳だ。


 なら魔術とはどういうものか。

 レオンいわく、魔法陣に魔力を通す事で、対象に干渉して操作するという技術である。

 干渉するまでの魔力にロスなどはなく、後は干渉した対象を操る技術や、流した魔力量により対象をどれだけ多く操れるかといった差しかない。


 例えばロイドが使用している風の魔術。

 ロイドは魔力を魔法陣ーーこの場合は魔術具ーーに魔力を通す事で、風に干渉して操作しているのだ。

 その魔力量が多い程操れる風も増え、強力になり、その風の扱い方次第で効率や効果も上がる。


「ふーん、結構シンプルなんだな。誰でも扱えそー」


 ロイドはこれまで追いかけてきた魔術の実態が想像以上にシンプルなものだという事に拍子抜けしてしまう。


 だが、レオンは横に首を振った。


「そんな訳あるか。まずもって魔法はほとんどの者が扱える技術だが、魔術は違う。使えるか、使えないかだ」

「ん?どゆこと?」

「あー、魔法は適正率なんて誤差はあるが、0でもない限り基本誰でも使える。が、魔術は1か0だ」

「へぇー、てことは人によって適正自体はあるんか」

「そうだ。そして、使える者も1つかせいぜい2つ。更には使えたとしても魔法のように魔力を流して発動するだけで定型の動きを見せる訳ではない」

「はぁ…」

「魔術は干渉した対象を全て自分でコントロールする。魔法に比べてかなり高度な技術が必要だ」


 ちなみに、体内に魔法陣を刻む事は誰でも出来るが、それに魔力を通そうとすると、適正がなければ弾かれてしまい、発動すら出来ないのだという。


 ロイドは情報を頭の中でまとめようと黙り込む。

 イメージとしては魔術の操作は魔法が自動操作とするなら魔術は手動だと判断した。 


 全ての操作を自分の意思で行う必要がある為、魔法より使いこなすのに多くの時間が必要になるのは必然と言えるだろう。


「んじゃ魔術って魔法より弱いんじゃ?」

「それは違う。魔法は習得した魔法の型にしか現象を起こせない。精々軌道や規模を多少操作するのが関の山で、本質は変わらない。だが、魔術は干渉した対象が破壊されるか魔力が消されない限り、多種多様な操作が出来る」


 魔術は一度発動すれば、その魔力が続く限り自由な動きが出来る。それに対し、魔法は一度の発動で1つの動きしか出来ない。


 例えば、土の壁を作り、さらに石を飛ばす攻撃を行うとしよう。魔法ならば土の壁を作る魔法、石を飛ばす魔法を別々に発動する必要があるのに対し、魔術なら土に干渉して土の壁を作って、さらに操作してその壁から石を飛ばす事が出来る。

 結果、発動の継ぎ目というタイムラグもなく、魔力も節約出来ることになる。


「分かったか?」

「まぁ…なんとなく?要は会得は簡単で、だけど扱うのは難しい分便利ってことだろ?」

「だいぶざっくりしてるが…そうだな、今はそれでいい。追々理解も深まるだろう。とりあえず身体魔術の魔法陣を身体に取り込んでみろ」

「ういっす」


 ロイドは魔法陣を見やる。

 

 これまでずっと練習してきて出来なかった身体強化。それを魔術としてついに習得出来る。

 言葉は軽いながらもロイドの心は緊張と期待で一杯だった。


 そして少し震える手を伸ばし、ロイドは目の前に広がる魔法陣に魔力を流し始めた。


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