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53 別れ

 不安や恐怖を押し隠すように苦笑いを浮かべるロイド。

 その頬を細く白い指が突つく。


「逃げてもいいのよ」


 まるで見透かされているようなエミリーの言葉。

 

 顔を向けると、エミリーが真っ直ぐにこちらを見ていた。


「あんたは弱いくせに抱え込もうとする所があるからね。行かなくてもいいし、行ったとしてもしんどくなったら帰ってきなさい」

「姉さん…」

「私もお兄ちゃんも、お父さんもお母さんもローゼもいる。皆んなで助け合って、皆んなでウィンディア家として役目を果たせればいいんだから」

「……ん、ありがと姉さん」


 ロイドの枕、エミリーのタオルをそれぞれで分け合う2人。


 こうして自然と支え合い、助け合える家族が待っている。

 そう思うと、さっきまでの不安は消えていた。


「……私だって、寂しくない訳じゃないんだからね」

「…うん、ごめんね。今度帰ってきたら、寂しがりの姉さんを守れるくらいに強くなっとくよ」

「……生意気よ。それまで私が今のままなワケないでしょ」


 一拍、虚をつかれたように目を丸くしたエミリーだが、すぐに憎まれ口を返す。

 しかし、緩んだ頬に熱を帯びており、それが分かったロイドはなんとなく可笑しくて笑う。


 そうしていつものように会話をすると、とちらともなく眠ってしまった。


「ったく、元気な姉弟だな。やっと寝たか…」

「まぁあの2人の子なんだしねぇ」


 すっと目を開けて小声で話す2人。

 番の交代をしようと思って起きていたのだが、会話に割り込むのも憚られ、子供達が寝るまで待っていたのだ。


「ベルは魔力の事もあるし、先に俺が見張っとく。ある程度回復するまで休んでていいからな」

「そうかい、ならそうさせてもらおうかね。……ん?ふふっ」


 そう会話する2人だが、ふとベルが子供達に視線をやり、可笑しそうに笑った。

 それに気付いたラルフも同じく目線をやると、微笑ましそうに笑う。


「仲が良い子らだな」

「そうだねぇ。ロイドくん、こんな可愛い子達を悲しませるなんて、罪な男だねぇ」

「まぁな。……まぁルーガスの子だなと思うと納得しちまうけどな…」

「……まぁ、そうだねぇ」


 遠い目を向けるベル。

 なんだか遠くでルーガスのくしゃみが聞こえた気がする。


 そんな2人の前で、ロイドとロイドに抱きついて寝るラピスとエミリーは静かに寝息をたてるのであった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 そして翌朝。


 最初に起きたラピスが目の前にいるロイドに驚き思わず破壊魔法を発動させたり、それにいち早く気付いたラルフが大慌てで極小の”破剣”で破壊魔法を斬り飛ばして事なきを得たり、その騒ぎで起きたエミリーがロイドに抱きついている事に気付いて珍しく赤面してらしくもなくしおらしくなったり、それでも起きないロイドに呆れたラルフがデコピン(身体強化あり)で起こしたりした。


「賑やかな朝だな。ウィンディアは活気に溢れているんだろう」

「たしかに活気はあるが、こういう事ではないと言いたい」


 レオンとドラグが淡々とした口調で話す前では、真っ赤になって俯くラピスと、タオルで顔半分を隠すエミリー、額を押さえて蹲るロイド。


「全く、朝から元気だねぇ。よく寝れたかい?」

「えぇ、おかげさまで……でもこれ元気に見えます?めっちゃ痛いんすけど」

「爆睡しすぎだ。死にかけるまで寝てるお前が悪い」


 破壊魔法に襲われても寝ているロイドは、ラルフからしたら油断でしかない。

 つい指導の気持ちが入ってしまうのは仕方ないのかも知れない。


 もっとも、ロイドが安眠出来ていた理由はきっと少女2人の存在によるものだとも気付いてはいたが。


「さて、賑やかな所悪いが、結論を聞こう」


そんな中、レオンが本題を切り出した。ロイドはその言葉に体ごとレオンに向ける。


「行くよ。あんたの期待に添えられるかは分からないけど、やるだけやるつもり」

「……レオンでいい。そうか、しごいてやるから覚悟しとけ」


 それだけ言うと、準備が出来たら来い、とばかりに周りに目線を向けた後に踵を返して少し離れた所に腰かける。


 挨拶の時間をくれたのかな、と判断したロイドは目線を周りに向けた。


「ロイドくん、早めに帰ってこないと最恐夫婦が暴れるかも知れない。手早く済ませておいで」

「え、最強?…まぁ、早めに済ませるつもりで頑張りますね」


 ドラグが若干気にかかる言葉を交えながら話しかけるが、スルーして応じる。


「魔術の本も探しておくから、帰ってきたらすぐ寄るんだよ?」

「ありがとうございます。最初に寄りますね」

「おいこら、そこはウチの道場に最初に寄るべきだろ。どこまで強くなったか確かめてやるから、ちゃんと顔を出せよ」

「分かりました。本屋の後でいいですかね?」

「言うようになったなぁこら」

「ふふっ、分かってるねぇロイドくん」

「うるせえよ」


 じゃれ合うように話す師弟とラルフをからかうベル。

 寂しさからかつい会話が長引きそうになるが、ぐっと堪えて会話を切る。


「絶対1年以内に帰ってきてね。また町を見て回ろ。だから帰ってきたら最初にギルドに来てね」

「うん、また遊ぼうね。でも最初に行くとこ多くない?」

「そうよ。あんた普通に考えて家に最初に顔半分出すでしょ。さっさと寄り道しないで帰ってくるのよ」

「なんか帰った日の多忙さが今から憂鬱になってきたわ」


 "最初に行かなければならない場所"の多さにいっそ笑えてきたロイド。

しばし子供達でわいわい話していたが、待ってくれている手間あまり時間をかけるのも悪いと思い、頃合いを見てロイドが切り出した。


「んじゃ、ちょっと行ってくるね」

「ええ、さっさと行ってさっさと帰ってきなさい」

「うん、待ってるからね。気をつけてねロイドくん」


 腕を組むエミリーと微笑むラピスに手を振り、ロイドは歩き出した。


 レオンは近寄るロイドに気付くと立ち上がり、先導するよう歩き出す。


 そのまま振り返らず去っていくロイドをエミリー達はじっと見届けた。


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