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52 星空の下で

「ラピス?」

「嫌だよっ!いくら安全だとしても、魔物がいっぱいいる中に1年もいて、ずっと会えないなんて!」


 頑なに俯いたままのラピスに、ロイドは困ったように頬をかきながら言う。


「大丈夫だって。あっという間だよ」

「そんなワケない!嫌だもん!」


 駄々っ子のようなラピスに、ロイドは苦笑いを浮かべる。

 ロイドは剣の先生を説き伏せられてもラピスは無理だったようだ。


「あー、ごめんなラピス。でもウィンディア家にいる身としては、この機会は逃す訳にはいかんくてね」

「…………」


 ロイドに折れる気がない事に気付いてか、ラピスは俯いたままだんまりを決め込んだ。

 沈黙を貫くラピスに、掛ける言葉もなく気まずそうに頬をかくロイド。


 どことなく言葉を発しにくい沈黙の中、今まで黙っていたレオンが口を開いた。


「とりあえずお前達は疲れているだろう。番は俺がするから、もう寝ろ。明日朝に結論をくれ」


 そう言って立ち上がるレオンをなんとなく見送っていると、ベルが口を開く。


「まぁ気休め程度だけど、ないよりはいいだろうしねぇ」


 その言葉の直後、周囲の地面が盛り上がり、簡易的な防壁のように周囲を囲った。

 そして、ドラグが無言で薬を入れていた袋を漁り、そこからバスタオル程度の布を子供達に1枚ずつ放り投げる。


「使うといい。……一応俺も番をしておく」


 後半の言葉はラルフとベルに向けてだ。ラルフ達は頷き、途中で替ると返して適当な壁に背を預けて目を閉じた。


そして残された子供達だが、会話はなかった。

 俯いたまま投げられたタオルをそのまま頭に被るようにしているラピスと、なんとなく怒っている様子のエミリー。


(んー…気まずい。……よしもう寝ちまおう)


 ロイドはしばし声を掛けるべきか考えたが、あっさりと諦めてタオルを丸めて枕にすると、そこに頭を置いて横になった。


 遠くからいや羽織れよとドラグの声が聞こえてきそうだが、ロイドは枕がないと寝れない派だ、と内心でひとりごちる。


 横になったロイドは、視界に広がる夜空を見ながら今日を振り返っていた。


(ラピスと領内回って、ギルドでゼームズと決闘して、誘拐されて盗賊と戦って、その後はなんか頂上決戦みたいな化け物達の戦いを見て、最後は長期の強化遠征のお誘いか。濃い1日だったな)


さすがに呆れてしまう密度の1日にロイドは思わず苦笑いになる。


 だが、得られたものも多い。


(なんとしても魔術はモノにしときたいな。魔術具がないと何も出来ないってのはしんどい)


 そんな事を考えていると、もぞもぞと隣に這い寄る姿が視界に映る。

 首を動かしてそちらを見ると、ラピスがタオルを頭に被ったまますぐ隣に来ていた。


「どした?」

「……う、いっ……ねて……」


 周囲へ配慮して小声で問いかけると、ラピスは聞き取れない程の小声で返す。

 ごめんもっかい言って、と返すと、ラピスは返事はせずにばっと動いた。


 タオルを頭から剥がしてロイドのすぐ隣に寝転がり、タオルをまた頭まで被り、そのまま固まる事数秒。


「一緒に寝てくれたら、許してあげる…」


 ぼそっと呟かれた言葉に、ロイドは一瞬目を丸くして、そして肩を竦めて小さく笑いながら言う。


「許してくれてありがとね。はい、枕ないと辛くね?粗末なもんだけど良ければ使っていーよ」


 そう言って腕枕を差し出すロイドに、ラピスはタオルで顔を隠したまま無言で頭を乗せる。


 そのまま数秒の後、体をこちらに向けて遠慮がちにロイドの服を掴んできた。


 ん?と顔を向けたロイドの視界に、こちらに向いた際に頭に乗っていたタオルが落ちたのだろう、ラピスの顔が映った。


 焚火の光か恥ずかしさによるものか、顔を真っ赤にさせたラピス。

 なんとなく可笑しくなり、ロイドは腕枕した手でラピスの頭を撫でた。


「…ん……」


 しばし大人しく撫でられていたラピスだが、やはり疲れていたのか、それとも安心してか。ラピスは撫でている内に寝息をたて始めた。


 やはり子供だもんな、と自分を棚上げして内心呟くロイド。


「あんた、タオルの使い方変よ」


 そろそろ俺も寝るかと目を閉じたロイドに声とタオルが掛けられた。

 ラピスの反対側の隣にエミリーが横になり、タオルを自分とロイドに掛かるように広げている。


「枕の方が大事じゃね?ほら」

「…分からなくもないわね」


 そう言うエミリーに、ロイドは丸めたタオルをずらしてエミリーの方に伸ばすと、エミリーはそれに頭を乗せた。

 至近距離にロイドの顔を眺めたまま、感覚を確かめるようにポスポスと頭を動かす。


「……そうね、悪くないわ」

「だろ?」


 枕の重要性に納得してくれたか、とロイドは満足そうに笑った。


「……ロイド、ほんとに行くつもりなの?」

「ん?さっき話したろ。こんな機会逃すワケにはいかんしな」

「ふぅん…」


 そのまま黙ってしまったエミリー。

 ロイドは視界を夜空に戻してしばらくそれを見ていた。


 不安がないか、と言えば嘘になる。

 ラルフには安全だと言ったが、確証はない上に家族や知人から1年も離れてかの『死神』と一緒に居る。

 不安も恐怖もやはりある。


 だが、"ウィンディア家の恥さらし"のままで居る方が嫌だった。

 もちろん、もしかしたら領内で魔術の情報を集めていつか会得出来るかも知れない。


 だが、そうではない可能性も勿論ある。


 そうなってしまっては自分は恥さらしのままだと思うと、やはりここで魔術の技術や情報を手に入れるべきだと思うのだ。


 だが、理屈抜きで怖いものは怖い。

 それを紛らわせる為に満天の星空を眺めるものの、星の小さな光を覆う黒い空が自らの不安のように思えてしまい、つい苦笑いを浮かべてしまうのであった。


 そんなロイドの耳に、エミリーの声が響く。


「逃げてもいいのよ」

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