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50 バーベキュー

 その日、仕留めた魔物を焼きながら夕飯の準備をしている時。

 後ろの空間から光と魔力が現れる。


「やっほーレオン!久しぶり!」

「あぁ?アリアか、また面倒なこと持ってきたか?」


 本当は魔力だけで分かっていたが、なんとなく声を聞いてから返す。

 たまに現れては面倒事を押し付ける彼女への抵抗を表す意味もあるが、それは効果は薄い事も分かっていた。


「ひどい!そんなひどい事言うレオンにはこの子を預けます!」

「やっぱ面倒事じゃないか。却下だ、子守が出来る状況だとでも?」

「とりあえずどこかに預けてもいいから!それに、この子はレオンに必要なスキルを持ってるよ?」

「あ?俺に?」

「うん、この子のスキルはなんと!魔術適正だよ」


 思わぬ言葉に、ついにレオンは振り返った。

 その目に映るのは黒髪の乳児を抱える金髪の美女が微笑む姿。


 いつもならその昔から変わらぬ姿に、そしてその目に映る変わらない自分の姿に嫌気がさすが、今はそれより驚きが勝った。


「……本当か?まさか付与出来たのか?」

「本当だよ。まぁ私なりに加護とか付与とかはしたけど、それは別の力になっちゃった。でも魔術適正は本人の資質だし、ちゃんと使いこなせるはずだよ」

「……分かった。そのガキは預かる」

「ガキじゃなく、名前つけたげてね」

「それは預ける先に任せる」

「あ、やっぱ預けるんだ。まぁいいや、よろしくね!」


 言うだけ言う光と共にあっさりと消えるアリア。

 残ったレオンは自分でも気付かない内にひとりごちる。


「魔術適正…初代魔王以来か、ついに……」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ラルフとベルは迷っていた。


 現状の結果だけ見れば、目の前の男は黒竜を倒してくれた味方なのだろう。

 

 だが、その男が纏う雰囲気や威圧感などが明らかに普通の人間とは違っていたのだ。


「まぁ警戒するなってのが無理か」


 レオンはひとりごちり、考え込むように顎に手を当てて黙り込む。

 その様子を見ていたラルフは、緊張した顔のまま問いかける。


「子供を連れてきたとして、一体何をするつもりなんだ?」

「あー……話をしたいのと…まぁ危害は加えない、じゃダメか?」


 内容を伏せるレオンに、より警戒と緊張を高めるラルフ。

 しかしレオンはそれを気にした様子を見せることなく言う。


「あ、もしなんかするつもりなら、さっきの黒トカゲと一緒に斬ってたぞ」

「……」


 確かにそうなのだ。

 更に言えばわざわざ黒竜と戦わずに真っ直ぐ子供達の所に向かう事も出来たはず。


 それなのにわざわざ自分達の所に現れ、敵を倒し、そして許可を得ようとしている。


「…分かった。信じよう。ただし、危害が及びそうなら即座に斬るからな」

「すまない。ありがとう」


 剣神の「斬る」というなんとも本来なら恐ろしい言葉にもまるで動じない。

 軽く頭を下げるレオンを尻目に、ベルにアイコンタクトを送る。


 ベルは頷く事で返すと、踵を返してドラグ達の下へと歩き出した。


 


 そしてしばらくして。


 ロイド達を含めた全員で、黒竜の焼肉を頬張っていた。


「うまい…!」

「こんな高級食材を丸焼きとは…なんつー贅沢な」

「久しぶりに食べたねぇ。えらく強い個体だったからか以前食べたのより美味しいわ」

「新鮮な内に食うのが一番だろ。ほらこれも焼けたぞ」


 先程までの警戒を忘れたかのように焼けた肉を頬張るドラグ、ラルフ、ベルにレオンは追加の肉を手渡す。

 まだ手に肉を持つ3人は反対の手でそれを受け取る。


 そんなまるで空腹の子供のような姿を子供達は呆れた目で見るーーという事はなく、目線を寄こすどころか言葉すら発さず一心不乱に肉を食べていた。


「おかわりぃ!」

「よく食うのは良い事だな。でかくなれる。ほら追加」


 ロイドの言葉に手放しに褒めつつ、レオンは追加の肉を手渡した。


 すっかり夜になり、そんな中で火を起こしている一行。

 ここがキャンプ場などなら問題ないのだろうが、ここは大陸でも有数の危険区域であるフェブル山脈。


 夜行性の魔物も多く、そんな中でこのような事をしていればあっという間に魔物の襲撃に遭うのが普通だ。


 勿論、その指摘はラルフたちによってされていたが、それはレオンによって解決された。


「俺に襲い掛かる魔物はほぼいないし、問題ないぞ」


 言われてみれば確かにあの戦闘体勢だった黒竜でさえレオンには襲撃どころか撤退しわうとしていた。


 それを思い出したラルフとベル。

 そうなると一気に空腹を思い出した一行は、嬉々とした様子で焼肉の準備を始め、そして今に至る。


「しかし、かの『死神』が本当に居るとは。なるほど、勝てる気がしないな」


 ドラグや子供達をベルが呼びに来た際、ドラグは反対して撤退を推した。

 だが、ベルやラルフをして「逃げようがない」「害意は感じないなら、目的を把握する方が対策しやすい」と判断したと言われたのだ。


 ベルの額に浮かぶ冷や汗を見たドラグは、息を呑んで渋々頷いて踵を返すベルに追随した。


 そして、『死神』を見て、全てを納得した。


「勝つ必要はない。戦う気はないからな」

「それなら良かった。んで、子供に何の用なんだ?」


 ラルフは肉にかぶりつきながらさらりと本題を口にする。

 緊張感も警戒もないように立ち振る舞うその姿は、しかし獲物を狙うネコ科の大型獣のような巧妙に隠された敵意と警戒心を内包していた。


 もっとも、『死神』にはバレていたようだが。


「警戒するな…って言うのは無理があるか。用というのは、そこの男児をしばし借り受けたいというものだ」


 その瞬間。

 ラルフが音もなく、されど目にも止まらぬ速さで剣を抜き、真っ直ぐにレオンはと振り抜く。

 

 誰もがまるで気付いてないかのように反応が出来ない。

 まるで時が止まったかのような中――レオンだけはその剣を目で追っていた。


 それに当然気付いているラルフは不意打ちの失敗に舌打ちをしつつ、それでもと剣を振り抜きーーあっさりとレオンの首を刎ねた。


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