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4 ○女神

視界いっぱいに広がる光、船酔いのような気持ち悪さに襲われていたが、不意にその両方が収まり、視界の焦点が合っていく。どうやらいつの間にか俯いていたらしく、立ち上がろうとしてーーここが知らない場所だと気付いた。


「ここは…?」


夢かなんかか?と思いつつ辺りを見回すが、遠近感が狂うような純白の空間が見渡す限り続くばかりである。

見ようによっては綺麗な空間と言えるだろう。――涼にはそうは思えず、どこか寂しい景色にしか思えなかったが…


そうして見回していると不意に、真っ白な空間に金色が混じっている事に気付く。訝しげに涼は目を細めて見ると、長い金髪が某呪いのビデオの女性のように垂れているのだと分かる。思わずビクッとしてしまう涼に、さらに追いうちのように、


「この度は申し訳ない事をしてしまいました」


 喋りかけてきた。またしてもビクッとした涼だが、意外にも透き通るような声だ。よくよく見ると同系色で見え辛いが、純白のゆったりとした服装を着た人が土下座のように頭を下げているのだと気付いた。


「この不始末、出来る事に限りはありますが、出来る限りの謝罪をさせて頂きます」


顔を起こして言葉を続ける金髪貞○。髪の隙間から覗く顔は、まるで意匠を凝らした彫像のように整っていた。印象的な透き通る空色の瞳は、まるで吸い込まれるような錯覚さえ起こす程だ。


「とは言え、涼さんは現状の把握すら出来ていないでしょう。まずは説明をさせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」


色素の薄い肌は顔と手先しか露出していないが、薄手の白い服装は起伏に富んだ体型を隠し切れておらず、思わず目を奪われる魅力がある。


「あの、すみません、聞こえていますか…?」

「あ、悪い…じゃない、失礼しました。こんな美人は初めて見たのでつい」


 見惚れて呆けていたので思わず素で返しかけて、すぐに敬語に切り替える。初対面の人には敬語だ、社会人の基本である、と初対面の女性をジロジロ見ていた自分を叱咤する。


「それで、現状を教えて下さるとの事ですよね?ぜひお願いします」

「はい、では簡潔に申し上げますと、涼さん…あなたは私のせいで地球で存在が消失し、現在魂の状態です」

「何してくれてんだおいコラ」


一転、敬語を彼方に投げ捨てる涼。殺人犯にくれてやる敬語はねえ!とばかりにまるでチンピラのように詰め寄りヤンキー座りで目線を合わせつつ睨みつけた。


 女性はびくっと震え、うっすら目に涙を浮かべる。先程までの神々しい雰囲気は消え去り、拾ってきた子猫のように縮こまる。


「ぇっ、こわっ、す、すみませんでした…!」

「すみませんで済むならクレーマーに苦労なんてしねえんだよ。今すぐ地球に戻せや」


月に1、2回は出てくるクレーマー対応に辟易としている涼は万感の思いを込めつつ吐き捨てるように言う。

 もっとも、側から見れば言い回しはその人達と変わらない涼である。


「さ、さしあたり、今の話を詳しく話したいと思いますが…」

「いや、とりあえず俺が死んだ原因と地球に戻れないかだけ教えてくれ」

「えっ、いや、えっと…」


涼とてこういう小説は見た事があった。転生物のストーリーの酷似した展開であり、先の簡潔な説明とやらで大体分かる。この女性は女神かなんかで俺は死んだのだろう、とあたりをつけた。

が、そんな事は露ほども知らない女性からすれば言葉に詰まる程驚きであった。しかし一転して納得したような様子を見せ、さらに優しげな表情を作る。


「なるほど、理解を諦めたんですね?ですが安心して下さい。私としては例えどんなおバカさんだろうと分かるまできちんとした説明をしたいと…」

「誰がバカだ!あんたがやらかしたせいで俺が地球から消えてここに飛ばされて死ぬか転生させられるんだろ!あんたがやらかしたせいで!」

「う、うぅっ、その通りです…すみません…」


額に青筋を浮かべてしつこめに責める涼に、再び縮こまる女性。完全に涙目だ。涼は溜飲が下がったのか、それはそれは大きな溜息をつき、切り替える。

 と、思いきや今度は女神が目を吊り上げた。美人の怒った顔は迫力があった。――涙目でさえなければ。


「で、でもあなただって悪いんですからねっ!確かに穴を塞ぐ前に寝落ちしちゃったのは悪かったですけど、通り抜けた水龍を釣ろうなんてするから!」


反撃する女性。だが、反撃内容にか反撃された事自体にか、涼は再びヒートアップ。


「はぁ?!寝落ちぃ?!あんた職務怠慢すぎんだろ!大体かかったものを釣ろうとするのは釣り人の性だ!女神かなんだか知らんがそれくらい知っとけ!」

「はいぃ?!女神じゃないですぅー!アリアって名前がありますぅー!いうかそんな釣り人の性聞いた事ないですし!そんな釣り人は涼さんだけです!涼さんが悪いんですぅー!」

「寝落ちに言われたくねーよ!この駄女神!」

「駄女神?!変な造語作らないで下さいよ!」

「寝落ちで事件起こす女神なんざ駄女神で十分だろ!ちょっと大物が来て嬉しかったのに期待させやがって!」

「だから女神じゃないです!ふんっ!どうせ普段から大した魚が釣れてなかったんじゃないですかこのエセ釣り人!」

「おまっ、言ってはいけないことを…!この寝落ちバカ!」

「バカ?!釣れない八つ当たりをしないでくれませんかこのアホーっ!」


至近距離で睨み合いながら、本題を段々と大きく逸れてぎゃーぎゃーと騒ぐ2人であった。




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