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38 対盗賊団筆頭剣士 2

「殺す」


 その声には今までのどこか抜けた感じやエミリーの言う「中途半端さ」はなかった。

 心の底からの怒りが込められた、殺意がこもった声だった。


 その左肩から先はほとんどが炭化しており動かす事は叶わないだろう。

 左の顔や左胸から脇腹にかけてもひどい火傷でその痛みは想像を絶するものと思われる。

 むしろ死なない方が不思議だとさえ思う怪我だ。


 だが、それを感じさせない鋭い殺気がロイドとエミリーを叩く。

 思わず顔を顰める2人に、アトスはこれまた重傷を思わせない動きで剣を片手で構え、即座にロイドに向かって駆け出す。


「死ねクソガキどもが!」

「ぐっ…!」


 振り抜かれた剣をどうにか短剣で受けるが、いくら片手とは言え体格差や筋力の差もあり、刹那の抵抗も出来ず勢いよく吹き飛ばされる。


「大人しくくたばりなさい!」


 その隙を逃さずエミリーは死角の左側から風の刃を放つ。

 熱量を発さず感知されにくいと判断しての風魔法だったが、すぐさま返された剣に打ち消されてしまう。


「死ねぇ!」

「死ね死ねうるさいのよ!」


 さらに追撃の刃が迫るが、エミリーは大きくバックステップし、さらに風魔法の『突風』で加速して大きく距離をとる。


 間髪入れずにエミリーに剣を叩きつけんと駆け出すアトスに、それを追いかけるように後方より風の刃が飛来した。

 

「……!」


 恐らくロイドによる攻撃だと気付いたエミリーがアトスに気付かれないよう注意を引きつける為に火魔法の『火球』を放つ。


「うぜぇんだよ!」


 だが、それらの攻撃は走りながら一回転して放たれた剣撃に掻き消された。

 そして回転の勢いを殺さずにそのままエミリーに遠心力を加えた剣が襲いかかる。


「きゃっ!」

「ちっ!」


エミリーは咄嗟に避けようとするも回避が間に合わず右腕を斬られた。

 アトスは完全に仕留めたつもりの一撃で放った攻撃が致命傷に至らず舌打ちをする。


「つっ…、ぅあ……っ!」


 大振りのその一撃により出来た隙だが、エミリーは生まれて初めての殺意のこもった攻撃による切り傷に動揺を隠せない。

 息を呑み、無意識の内に斬られた右腕を左手で押さえて後退りしてしまう。


「……ふふふ…」


 そのエミリーの怯えた表情を見てアトスは唇を歪めて嗤う。

 威圧するように高々と剣を振り上げる様子は、この剣がお前を殺す、と見せつけているかのようだ。


「良い表情だなガキ。その顔もっと歪めて、そして死ね」


 全身を叩く殺気、振り上げられた剣、痛む右腕に体が竦み上手く動けないエミリー。


 アトスは昏い笑顔を浮かべてその剣を振り下ろした。


――ぎぎぎぃいい!!


 だが、甲高い音がその剣撃を防いだ。

 思わず目を瞠って後ろを振り向くアトス。


 そこにはこちらに向かって魔術具の短剣を向けているロイドの姿があった。

 先程のアトスの一撃によるものだろう、額から血を流しながらも、その眼には鋭い眼光が宿る。


「姉さん、こっちに!」

「っ!」


 叫ぶ弟の声に、弾かれたようにエミリーは声の方に走り出した。

 『突風』はおろか『身体強化』すら使わないただの走りだが、アトスは驚いた表情のまま追撃せず固まっている。


「姉さん、大丈夫か?」

「だ、大丈夫よ…あんたは自分の心配してなさい…」


 合流したエミリーは明らかに憔悴していた。

 いつもの無愛想な言葉もどこか勢いがなく、ちらりと目線を向けると右腕を押さえている左手はかすかに震えている。


 すぐにアトスへと目線を向けるが、アトスは右手の”魔法斬り”を見つめたまま固まったままだ。

 理由は分からないが、まだ時間はありそうだと判断したロイドは目線はそのままに口を開く。


「姉さん、他に応援は来てくれてんの?」

「え、ええ…ラルフ先生にベルさん、ドラグさん、あとはラピスよ」

「え、何その組み合わせ…予想外にも程があるんだけど…」


 ラルフはともかく、他は自警団などかと思えば本屋と薬屋の店主に、その弟子の女の子。

 大丈夫なのか?と彼ら彼女らの実力を知らないロイドは思わず呻く。


「大丈夫よ、ロイドは知らないだろうけど、みんな凄く強いのよ。……ラピスちゃんは私も予想外だけど」

「そーなんだ。まぁラピスは心配だけど、姉さんがそこまで言う人達が連れてきてるならきっと大丈夫なんだろーよ」


 すごく気にはなるが今はそこを深く追求している場合ではない。

 ロイドは希望的観測も込めた言葉で無理やり納得させ、言葉を続ける。


「それなら姉さん。もうちょい俺が粘っとくから、悪いけどさくっと走って誰か応援を呼んできてくれん?」


 ロイドはエミリーより一歩前に出て、おつかいを頼むかのようにお願いした。

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