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12 風の妖精

ルナの治癒魔法によりロイドの傷がほぼ回復した頃。ラルフは稽古に戻っており、ルナによる回復魔法を受けながら他愛もない話をしていると、勢いよく休憩室の扉が開いた。


「ちょっとロイド!大丈夫?!」

「あ、姉さん。大丈夫だよ。今日は早かったね」

「久しぶりじゃないかエミリー、元気にしてたかい?」

「あ、姐さん!お久しぶりです!もちろん元気ですよっ!」

「姐さんはやめな」


来客はエミリーだった。しかしロイドは首を傾げた。

迎えにしてもあまりに早い時間であり、そもそもロイドを迎えに来る事などほとんどないエミリーがここに来るのは違和感がある。

 口振りからすると心配して来てくれたようにと思えるが、悲しい事にこんな事は日常茶飯事であり、ルナの治癒魔法もあるので普段はそこまで心配される事もない。

そう考えている内に思い当たったのは、


「…姉さん、もしかして逃げてきた?」

「うっ!」


まるで銃で撃ち抜かれたかのように胸を押さえる仕草をするエミリー。隠す気もないらしい。


「何してんのさ…」

「だって!あんな笑顔をキープし続けるなんて無理だもの!ほら見てよ!もう笑おうとしたらひくひくしちゃうのよ!?」


実際に笑顔を作ろうとしているエミリーの頬はこっちが笑顔になりそうなほど震えていた。やばい意外と面白い、と我慢する間もなくロイドが軽く吹き出す。


「笑い事じゃないんだから!あんたもやってみなさいよ!絶対同じ羽目に会うわ!」

「いや俺そーゆーの得意だし、姉さんより上手く出来るよ」

「言ったわね!なら明日の授業は一緒に来なさいよ!」

「いいよ。なんなら何か賭ける?」

「上等だわ!」


やんややんやと騒ぐ2人をルナは微笑ましそうな眺めていた。が、ふと休憩室の扉から気配を感じて目をやる。

そこには、生徒の何人かが覗いていた。視線の先にはエミリーがいる。ちなみにその中にはゼームズも紛れていた。


(んー、姉さんは相変わらずモテるねぇ。まぁこんなんでも「風の妖精」なんて通り名もあるくらいだし当たり前か)


 つまりはエミリーを見に来たのである。

実はロイドが同世代から嫌われているのは”恥さらし”によるものだけでなく、エミリーが素で仲良く話しているから、という点もあった。


 ウィンディア家長女の彼女は、美少女というに相応しい容姿をしている。腰まで伸ばした流れるような黒髪を靡かせ、少しつり目だが大きな瞳にすっと通った鼻筋、少し薄めな唇は年相応の可愛らしさの中に12歳にして綺麗さを持たせている。

 

 さらには基本的に礼儀良く接する為(シルビアに怒られるので)人当たりも良く、こちらまで元気をもらいそうな天真爛漫さ(ロイド的にはお転婆扱い)も兼ね備えており、ダメ押しで剣技に風魔法と火魔法を使いこなす同世代ではフィンク以外に負けなしの腕前。

 

 少年達からは「風の妖精」とまで呼称される人気があり、同世代からはアイドルのような存在なのだ。


 しかし、少年達から見て、仲良しなのは姉弟だから当たり前、とならないのは”恥さらし”である事ですでに攻撃対象である事もそうだが、自分達と話す時は他人行儀に話される事で感じる距離感を埋めれない八つ当たりからだろう。


 ルナは扉にいる彼らに気付きつつも無視する2人を見て思う。


(ロイドは精神的に早熟な所があるが、それを良く思わない子供もいる。エミリーはあれで心配性だからロイドを痛めつけてる子供らには他人行儀で接する節がある。んー、難儀だねぇ)


八つ当たりをして、よりエミリーは他人行儀になり、それにまた八つ当たりをする、と悪循環な状況ではある。さらにはロイドは泣き叫んだりもしないので溜飲も下がらない。


 といっても最初にエミリーがロイドのイジメを知った時は珍しく騒いだりせず、目のハイライトを消して無言で木刀を握りしめて駆け出そうとしたくらいだ。ロイドがなんとか宥めて、ラルフにも言ったように極力放置してもらうよう頼み込んだ結果、このような対応に落ち着いたのである。


 今もエミリーは視線に気付いているだろうが無視しているのは、冷たく接するという体現だけではなく、あまり馴れ馴れしくされるとロイドの対応への怒りが溢れ出してボコボコにしかねないから、という自制の意味もある。


 現に若干目のハイライトが消えつつあるエミリーに、ロイドは若干背中に冷たいものを感じながらエミリーと話していた。


(どうにかしてくれませんかルナさん…)

(まぁなるようになるんじゃないかい?)


ちらっちらっ!とアイコンタクトで助けを請うロイドにルナは投げやりに肩をすくめてみせる。――ロイドの次のちらっ!は責めるようなジト目だったが、やはりと言うべきかルナには効かなかった。


「――おい!いつまでサボってるんだ!早く来い!」


ロイドへの救いの手は扉の前の向こうのラルフから差し伸べられた。――少年達への救いかも知れないが。

 ロイドは心の中で感謝しつつ、この隙に!と、撤退を図る。


「ルナさん、ありがとうございます。もうすっかり治りました。今日は騒がしくしちゃったしこのまま帰りますね」

「そーだねぇ、早くから来てたし頃合いかもねぇ。旦那には言っておくからそこから出ていいよ、お疲れさん」


ちょっと早口になったロイド。その意図を悟ったルナも道場を通らず帰れるように裏口を指して帰りを許可する。


「ありがとうございます。ではまた」

「バイバイ姐さん!また遊びに来ますねっ!」

「だから姐さんは…って言い逃げかい」


ありがとうございますの部分に色んな意味を乗せ、ロイドはそそくさと退室し、エミリーも追随した。


――その様子を暗い表情で見つめるゼームズには誰も気付いていなかった。


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