117 宴会
ロイドが1年ぶりに帰ってきたその夜。
夜も遅い時間に帰ってきたロイドはゆっくりと久しぶりの自宅で休むつもりだった。
だが、そうはいかなかった。
どこからか湧いてきた領民達。その手には飯や酒が持たれており、気づけば宴会騒ぎのようになっていた。
とは言っても子供は寝ているのか大人ばかりだったが。
「『死神』さんも飲みねぇ!」
「頂こう」
そこでロイドが最初に驚いたのはレオンがすんなりと受け入れられたことだった。
今は威圧感や魔力を抑えているとはいえ、かの『死神』に酒を飲ませる領民達に思わず二度見した程である。
話を聞けば一度領内に空間魔術書を取りに来た際に面識があったという。
恐ろしい気配を感じた領民達がレオンを出迎えたという事らしいが、何故そこで逃げるという選択をしないんだこの領民達は、とロイドは呆れてしまった。
「おい!ロイドがかわいい彼女連れてきてるぞ!」
「マジかよ、やるなぁおい!」
そして次にロイドが面倒だったのはクレアについてだった。
みんなして彼女を連れて帰ってきたと大騒ぎしたのだ。
やれ不釣り合いな程かわいい子を連れてきただの、何しに外に出て行ってたんだだの、ウィンディアの血だなぁなどと言いたい放題の領民達。
だが、その声音には否定やバカにした色はない。からかう色はかなりの濃度だったが。
そしてクレアは顔を赤くし、誤魔化すように酒を飲んでそのまま倒れた。
さらには唐突にエミリーとローゼに殴られ、それをジーク達が笑い、ベルが頷いていたが、ロイドは訳が分からず対応に手を焼いた。
ロイドはクレアの介抱やエミリーとローゼによく分からないままご機嫌とりをしたりと、懐かしさに浸る事はおろか疲れをとることさえ出来ずにバタバタとしていた。
そして何より驚いた事。それは、
「しかしやるじゃねぇかロイド!よっ!『国崩し』!」
「ガキらもその話聞いてびっくりしてたぜ!もう”恥さらし”なんて誰も言わなくなっちまったな!」
そう、『国崩し』と呼ばれる事になったディンバー帝国での出来事がすでに知られていた事だ。
「なんで知ってんすか?!いくら何ヶ月か経ったとは言え他国の事だしおまけに帝国が情報も出入りも止めてたはずじゃ…」
「バカ言え、事件の数日後には知ってたっての」
あの一件により帝国の戦力は大きく減少した。
騎士団、魔法師団ともに上位陣が死亡または行方不明。兵士達もその数を大きく削られ、さらに秘匿されていたとはいえ最高戦力であるジルバもこの世から去ったのだ。
そんな状況が他国に知られるのはまずいとブロズは他国への情報流出を抑える為に箝口令が敷き、さらには流通も玄関にあたるカイセンで止めていた。
その結果もあってかエイルリアはもちろん、その他の国からも攻められたりすることなく昨日の帝城完全を迎える事が出来た。
と、思っていたが、どうやらそうではなかったようだ。
「ロイド、お前ウィンディアをまだ分かってないなぁ。そんな情報収集くらい簡単だっての」
「何を偉そーに。ほとんどドラグさんとディアモンドさんのおかげだろ!」
「あぁ?うるせーよ!」
説明を聞いていたら流れるように喧嘩を始めたので素早く撤退するロイド。
えらい喧嘩っ早い領民。これはきっと酒のせいだと思い込みつつ逃げた先にはラルフとベルが居た。
「よぉロイド、久しぶりだな」
「ロイドくん、たくましくなったねぇ」
「お久しぶりです先生、ベルさん」
あの夜から変わらぬ姿にロイドはなんだか妙な懐かしさを覚えつつ挨拶する。
「だいぶ鍛えられたようだな、今度道場来いよ。試してやる」
「お手柔らかにお願いしますね」
「野蛮だねぇ。無事で良かったよ、エミリーちゃんも心配してたんだから」
「いやいや、そんな性格じゃないですって。なんならあとちょっと遅かったらぶん殴られてましたよ」
『恥さらし』と呼ばれていた頃、他の大人達も蔑みはしないもののどこか距離を感じていたロイドだが、この2人は違った。
特にラルフの変わらない対応につい笑顔が溢れる。
「まぁ何はともあれ、明日から忙しいぞ?」
「え?何でです?」
「さぁなぁ」
ニヤリと笑うラルフにロイドは首を傾げるが、ラルフは楽しそうに笑うばかりだ。
「ま、明日からのお楽しみってことで」
何故かロイドはその言葉に嫌な予感を覚えるのだった。




