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111 約束

 ロイドを治療した男性はニューマンという名前で、第二王子にあたるブロズの付き人である。

 そのニューマンに着いていく道中でボロボロになったギラン達と合流したクレア達は、城壁内の端にある離宮に案内された。


「ずいぶん質素な建物だなぁ」

「そうだな。と言っても帝城のキラキラしたのよりはこっちのが良いけどな」


 合流したギランとグランは不躾に建物を見回して言う。

 あまりにストレートな物言いにキースやシエルは苦笑いを浮かべるも、ニューマンが何も言わずにいる為止めはしなかったが。


 そして歩く事数分、ニューマンは扉をノックして声をかけ、返事を受けてから振り返る。 


「こちらが我が主人であるブロズ様の部屋でございます。どうぞお入り下さい」


 そう言うなり扉を開けて脇に寄り頭を下げるニューマン。

 洗練された動きにクレアは感心するも、他のメンツは気にもかけずに部屋へと踏み入れていく。

 

「お待ちしてました」

「あんたがブロズか」


 入るなり目に入るのは青が混じったような茶髪の男だ。男性、という年齢には見えず、むしろ少年といった年頃だろうか。


 そんな彼に敵意を隠す事なく向けるのはキース。

 革命軍リーダーとして、最後の皇族であるブロズはキースにとって殺害対象でしかない。


「はい。あなたは革命軍リーダーキースさんですね。お会い出来て嬉しく思います」

「嬉しく、ね。どういうつもりだ?」


 含みを持たせた問いに、ブロズは微笑みを浮かべて口を開く。


「そのままですよ。あなたを討てる事が、説得する事が、捕虜とする事が、などの邪推は必要ありません」

「それを信用しろと?」


 鋭い視線を向けるキースに、しかしブロズは微笑みを崩さない。


「可能であればそうして頂けると嬉しいですが、そのような事を言うつもりはありません。あなたからすれば私も殺しておきたいのも理解出来ます」

「なら何故呼んだ?」

「現皇帝、ならびに帝国最高戦力たる兄を討ち取ったあなた方へ感謝をする為にです」


 そう言ってブロズは頭を下げる。

 それにキースだけでなく革命軍達は瞠目した。


 この帝国において皇族は頭を下げる事はない。

 絶対君主として君臨し、皇族の判断は絶対だからだ。

 勿論それ故に一挙手一投足に重たい責任があるのだが、それを皇帝達がどう受け止めていたかはーー想像に難くないが。


 しかし目の前の第二王子は頭を下げたのだ。これにはキース達も驚きを隠せない。

 

「現皇帝はエイルリア王国を侵略することばかり考え、肝心な民の生活を困窮させてしまいました。民あっての私達であるというのに、このやり方ではいつか国そのものが破綻してしまう」


 頭を起こして言葉を続けるブロズ。


「しかし私は戦闘の実力至上主義の帝国において無力です。その為、私の進言は届かないどころか離宮に追いやられる始末」


 ここでレオンがふと手元を見る。抱えてきた者の様子に気付いた為だ。


「そんな中あなたがたによりそれが崩れた。現皇帝だけでなくスキルに愛された帝国最強ジルバも討ち取り、皇族は私と妹だけとなりました」


 レオンの手から離れた彼は、ふらふらと歩き出す。


「ここが国の分岐点なのです。このような事がいえる資格はないのは重々承知です。ですが…願わくば新体制を実現すべく、私に時間をくれませんか!?」

「……時間?」

「ええ、民に謝る、寄り添う統治をする、この国を変える時間をです!それに見込みがない、至らないと思えばいつでも殺してくれて構いません」

「エイルリアへの侵攻は?」

「あり得ません。そもそもあれは自殺行為でしかない。父達はエイルリアを、そもそもウィンディアを分かっていない。私は可能なら和解の道を選びたい」


 話の途中から割り込んだ彼に、しかしブロズもニューマンも何も言わない。

 彼は覚束ない足取りでブロズの前まで進み出ると、ブロズの手をとる。


「んじゃそれで頼む。ここの人達みんな大変そうなんよね。しっかり楽させてやってくれ」

「え……」

「え、って。なんだよ、ウソだったんか?」


 あまりにあっさりと出てきた言葉にブロズは思わず言葉を失う。

 それに彼は訝し気に問い詰めるが、ブロズは慌てたように首を振った。


「い、いやっ、そう言う事ではなく、そんな簡単にお決めになっても…」

「いんだよ。多分本気で言ってるだろーし、違えばそん時は文句言いに来るし」

「えっと…」


 後ろを見るとキースやギランも何も言わない。

 その表情は反対も賛成もなく、ただ確かめるかのように彼と自分を見ていた。


「でも、みんなを楽にしてくれたら父さんにも話を通しとく。和解したいって」

「それは…願ってもありませんが。しかし良いのですが?もしかしたら再び侵攻をするかも知れないとは考えないのでーー」

「そん時はまず俺が相手するよ」


 ブロズの言葉を遮るように浴びせられた言葉。

 思わず彼の目を見ると、深い碧の瞳の奥に、微かに金の煌めきを放っている。

 

 それに圧されるようにブロズは息を呑む。


「もし俺が負けても父さんがいるしな」


 しかしその圧力も一瞬のこと。すぐにへらりと笑う彼に、なんだかブロズもつられてしまいつい笑ってしまった。


「……ふふっ、それは怖い。これは死に物狂いで国をよくしないといけませんね」

「そりゃそーだ。むしろちゃんとやらんとウィンディアより先に後ろの怖い人達が乗り込んでくるし」

「そうですね。彼らには父達から民を守ってくれた恩があります。必ずや報いないと」

「だなー」


 何やら緩い雰囲気で話す2人。

 そして、少しの沈黙の後、ブロズはとられた手をしっかりと握る。


「あなたには感謝してます。ロイド・ウィンディア様」

「いらんから、しっかり頑張ってくれ。頼りにしてるわ」

「………はい…ありがとう、ございます…!」


 その手を握り返すロイド。


 そんな投げやりな感じのロイドの言葉に、ブロズは顔を伏せて涙をこぼした。


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