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107 天を衝く二つの光

 ジルバはこうも計画を狂わせたロイドに少しでも絶望を与えたかった。

 ただ殺すだけなんて皇太子としてのプライドが許さない。


 そう思ってロイドの前で彼が守ろうとしたエルフの姫クレアを傷つけた。


 絶望に歪む表情を見せるロイドに、ジルバは鬱憤が晴れる気分だった。

 その絶望に屈辱を上塗りしたいという感情も加わり、笑いが止まらない。


 次はどうしようか、そう考えてクレアに目を向けた時。


 彼の気配が揺らいだのを感じた。


 目を向けてみると、先程まで足を踏みつけたバッタのようにもがいていた彼が立ち上がっていた。


 なんだ、鬱憤晴らしの手段なんて考えなくてもまだ直接殴っても死にそうにない。

 そう思ってジルバは挑発する。


 しかしいくら挑発してもまるで反応がない。

 つまらない、立っただけか。そう思った矢先、ロイドが顔を起こす。


 ――そこには、絶望に染まった碧の瞳はなく、虚無のような金の瞳があった。


 まるで人形のように生気のない瞳、それに相反するように底知れない”何か”を感じさせるそれに、ジルバは一瞬背筋に冷たい何かが通り抜けるのを感じた。


 ジルバははっと自らの感情に疑問を持つ。この死にかけに恐怖したのか?と。


 いやそんなはずない、と彼はその感情を否定するように、または振り切るかのように駆け出す。

 そしてまた地面に這いつくばせようと拳を彼に叩き込もうとする。


 だが、その拳は彼に当たる事はなかった。完全に捉えたと思った拳は、いつの間にか移動して躱されていた。

 それに少し苛立つも、反撃の様子すら見せない彼に気持ちを持ち直す。


 やはり所詮死にかけ。こちらは溢れんばかりの力を手に入れた。


 そう思い、いたぶろうと再び駆け出すジルバ。

 

 その瞬間

 轟、と白金が渦巻いた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「っ、なんだいこれは?」


 ジルバはその白金の光に嫌な感覚を覚える。

 それに従うように思うより先に体がそれを避けるように後ろへと跳んでいた。


 距離をとってロイドへと目を向ける。

 彼を中心に渦巻くように、波打つように、揺らめくその白金の光が漂う。


 一体何が起きている?

 ジルバの脳裏によぎる疑問。しかし、その光の中心に立つロイドは間違いなく満身創痍のはずである。はずだった。


 それを裏付けるかのように彼の瞳には何も映っていない。

 虚無のようなその瞳こそ彼に余力が無いことを示しているではないか。


 そう考えて何故か恐怖する”体”を叱咤して踏み留まらせる。

 だが、そうしてロイドの瞳を見ていると、まるで底無し沼に引きずり込まれるようななんとも言えない感覚に陥りそうだ。


「ふっ……いい加減にしたまえ!」


 それを振り払うようにジルバは一喝する。

 そしてその自らの声に押されるように駆け出した。


 一切の手加減もないその移動速度はシエルのそれよりも速く、ロイドの風魔術も放った所で追いつく事は出来ないだろう。


 その速度をそのまま運動エネルギーに変え、ジルバは拳をロイドに叩き込む。

 ただのパンチだがもはや必殺の域にあるそれ。

 

 それを、ロイドはひらりと躱した。


「な…?!っがっはぁっ!!」


 すれ違いざまに拳を腹に突き刺して。


「げほっ、ごほっ!が、ば、馬鹿な…!」


 満身創痍とは思えぬ鋭く重たい一撃にジルバは驚愕と混乱で頭が埋まる。

 

 が、すぐに次の攻撃に備えようとロイドを見る。

 だが追撃はなく、ロイドは蹲るジルバをただ見ていた。

 

 見下すでも観察するでもなく、ただ視界に収めているだけ、という瞳にジルバは背筋に冷たいものを感じる。


 ジルバはここでようやく認める事にした。これは明らかに異常であると。

 何故かは一切分からない。分からないが、今の彼は明らかに悪魔の力を上回っている。


 正攻法ではダメだ、と判断した。


「この、化け物め…!」


 側から外見だけ見ればジルバの方が化け物感は強いのだが、ジルバからすれば万感を込めた言葉である。

 

 接近戦はダメだ、と距離をとる。

 そして、それならばここ一帯ごと消し去ってやろうという考えに至った。


「ふ、ふふっ、これならどうだい!?」


 射線から外れて躱される、なんて事がないようにジルバはその身体能力をもって空へと飛び出す。

 空中に飛び上がり、ロイドがいる場所一帯に向けて両手を向けた。


「はーっはっは!もう間に合わないよ?!約束通り、クレアごと消し去ってあげよう!」

「うるせぇよ」


 両手に渾身の魔力をかきあつめ、それを放つ瞬間。

 今まで黙っていたロイドが口を開いた。

 

 ゆっくりと右手に白金の光を収束させていく。


「もういい、消えろ」


 虚無と殺意という相反する感情が入り混じる声に、ジルバは大量の虫が体を這い回るような恐怖を覚えた。


「うあぁあああ!!」


 その感情に押し出されるように放たれた黒い魔力。

 ただただ触れた物を破壊する暴力的な魔力が空より地に向けて放たれる。


 それを見据えたまま。

 ロイドはフェブル山脈で遺跡に向かう途中にレオンより授かった技、その名前を口にする。


――その瞬間、まるでその名前に呼応するかのように地下から莫大な力が地上まで響き渡る。

 

「『崩月』」


 白金の光を纏う右手を振り抜く。拳に乗せられた光は黒い魔力に拮抗するように衝突した。

 その衝撃は崩れかけた帝城を揺らし、それを囲う城壁に亀裂を作る。


「な、なんだとっ…?!」


――ロイドから見て帝城のはさんだ向こう側、その地下から"銀"に輝く凄まじい力が地上へと昇っていく。


 ジルバは渾身の一撃を押さえ込まれ、驚愕と焦燥の表情を浮かべる。

 が、ロイドはその拮抗を良しとしない。

 

 ゆるやかに集まっていた白金の光を一気にかき集めて右手から放つ光に上乗せした。


「っ!ぐ、ぅうううっ!」


 それにより急速に強まる白金の光は、黒い魔力を抵抗も許さず貫き蹴散らして天へと暴れ狂うように昇っていく。

 衝撃さえ伴うような爆発的な力の上昇に、ジルバは唸る。


――そして、その力は地盤を貫き地上まで姿を現した。

 それでも止まらない暴力的な銀色の光は天を貫いていく。



「なっ、ば、馬鹿な…!」


 白金の光はその勢いを衰えさせる事すらなく、ついにはジルバを貫いた。


「ぐぁあああ…ああ、…あ…ぁ…!」


 断末魔の叫びすらも呑みこみ、白金の光は天へと駆けていく。




 

 

 城下町、そこで巨大な音と魔力により住民は一様に帝城へと目を向けていた。その視線の先には。


 銀と白金の光が天を貫くように交差して伸びる光景があった。




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