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105 逆転、窮地

 ロイドは抉れた地面の上からジルバを見ていた。


 その目の前でジルバから魔力が溢れ出す。そしてそれが吸い込まれるように胸元へと収束していった。


 一拍の後、胸元から弾かれるように一枚の紙が飛び出して広がる。

 そこに描かれた魔法陣に魔力は収束していきーーそして黒い光が溢れ出した。


「っ!」


 ロイドはどう見ても異常な光景を前に、なけなしの魔力で小さいながらも風の刃を生成して、ジルバにトドメを刺さんとそれを放つ。


 だが、それが届く前に。

 ジルバが勢いよく上体を起こした。


 血塗れの顔、それよりも酷い状態の腕を限界までその黒い光へと必死に伸ばす。


「『略奪』っ!」


 その声はひしがれており、ロイドには聞き取れない。だが、目の前の光景は劇的なものだった。


「……!」


 黒い光がジルバの伸ばした手へと収束していく。

 音にならない凄まじく不快な音のような何かを立てて吸い込まれていく黒い光。

 まるで怨嗟の声のようなそれに思わず言葉を失うロイド。

 

 悪寒が全身を駆け巡る。

 焦るロイドは放った風の刃がかつてなく遅く感じた。


 そしてついに風の刃がジルバへと届く。

 間に合っていてくれ、というロイドの願いも虚しく。


――ぎぃんっ


 風の刃はジルバに傷一つ与える事なくあっさりと弾かれた。


 全身に走る悪寒に吐き気さえ感じるロイドの前で、ジルバはゆっくりと立ち上がった。

 

 その姿の変貌に目を話す事さえ出来ない。

 肌は黒みを帯び、目は血のような赤色になっていた。

 

 だが、そんな目に見える変化より、何か得体の知れない何かがジルバの中にいるような感覚にロイドは寒気を覚える。


 そして、立ち上がったジルバがこちらを見るや否や。


「満身創痍だね、少年」

「…!」


 視界から消え、後ろから声が聞こえてきた。


(はや…!)


 目で追えるどうこうの速度ではない。

 消えたようにしか映らない移動にそういうスキルを疑うものの、ジルバが居た場所に踏み抜かれた足跡がある事からそれが単純な身体能力だと思い知らされる。


 そう考えつつも体が動かないのは、体が限界を迎えてなのか、それとも心のどこかで諦めたからなのか。


「…どうしたんだい?向かってきなよ」


 それをジルバも感じたのか不思議そうに問いかけてくる。

 だが、ロイドは動けなかった。


 諦めたつもりはない。

 だが、体が限界を迎えているのは確かで、動かせる気がしない。


 それでも最後まで足掻かないと、と頭では思うが、気持ちも体もついて来ないのだ。


 それをジルバは数秒見下すように観察して、嘆息混じりに吐き捨てる。


「諦めたのか。所詮君はその程度なんだよ」


 ロイドに突き刺さる言葉。

 だが、言い返そうとする前に背中に強烈な衝撃が走る。


「ぐあっ…」


 抉れた地面へと投げ出され、そのまま力無く落下するロイド。

 

 奇しくも落ちた先は先程までジルバが伏せていた場所。

 ロイドが居た場所にジルバが立ち、ロイドを見下ろしていた。


 先程までとは立ち位置から何から完全に逆転した形勢。


 ロイドは伏せた状態から体を持ち上げようとするも、腕がガクガクと震えて立ち上がる事すら出来ない。

 限界を超えた魔力の使用、またその操作により体は限界だった。


 ジルバの血痕に体を埋めながら必死に立ち上がろうとするロイド。

 その背中にジルバの足が踏み抜かれる。


「かはぁっ!ごほっ、が、はぁっ…はぁ…くっそが…!」

「はっはっは、はーっはっはっは!良い気味だな少年!」


 ジルバの高笑いにロイドは顔を歪める。なんとも耳障りだが、悪態をつく体力すら残っていない。


「いっ…!」

「どうせならもっと愉快に死なせてあげようじゃないか」


 そんなロイドの頭をジルバは掴むと、そのまま引き摺って抉れた地面を登っていく。

 痛みに顔を歪めるが、抵抗する事も出来ずただされるがままだ。


 そして痛みに堪えていると、いきなり解放された。

 受け身もとれず再び地面に倒れ伏せるロイド、その真横になった視界の中央には、茫然とした様子でしゃがみ込んでいるクレアか居た。


「……!」


 ロイドはそれを見てはっとする。


(そうだ、そうだったな……如月を助けに来たんだった)


 なのに何故地面に寝転がんでいる?自分がどこか諦めていた事をここに来て自覚したロイド。


「ぐっ、く、んおお…!」


 寝転んでる場合じゃないと渾身の力で腕に力を入れて立ち上がろうとする。

 声にならない呻き声が漏れ出すが、しかし腕は震えるばかりだ。


(役に立たねぇ腕だなくそが!)


 内心で己に叱咤する。

 しかし奮起すれど力を込めようと体はそれに応えてくれない。

 ならばと魔力を込めるが、すでに枯渇寸前なのか使おうとすれば意識が遠退きそうになる。


「はははっ、頑張るね少年。だがもう終わりにしよう」


 そう言って歩き出すジルバ。

 ロイドの視界にジルバの足がクレアへと向かうのが映る。


「ま、待て…!」


 ロイドはジルバに叫ぶ。

 だが実際には呟くような声しか出ておらず、ジルバは足を止める事すらしない。


 そしてジルバはクレアの背後に立ち、クレアの頭を掴んでこちらに向ける。

 クレアのすぐ後ろでジルバの顔が醜く歪む。

 


 ロイドは血の気が引くのを感じた。

 やめろ、と口にしようとした言葉は、


「守れなかったね」


 ジルバの歪んだ口から漏れ出す言葉に掻き消され、

 気付けば伸ばしていた手。その指の隙間から、


「……せ、んぱ…」


 血とともに自分を名をこぼすクレアが映り、


「う、そ だろ …? 」


 自分の声がどこか遠くに聞こえ、


「はーっはっはっは!」


 耳障りな声に紛れて、


ぶちり

   

――何かが、外れた。


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