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102 エルフ姫の猛攻

 ジルバは予想外の状況に対応を決めかねていた。


 スキル洗脳。

 対象に洗脳の魔法陣により属性変換した魔力を一定時間浴びせる事でその対象に効果をもたらすスキル。

 その後は魔力を定期的に浴びせる事で継続して効果を持続させる事が可能だ。


 もっとも、その魔力が対象の保有魔力を上回る事が条件である。

 常に対象を超える魔力を消費するのは困難と言えるが、洗脳状態であれば簡易な命令も可能である為、魔力を消費させる命令をすれば良い。


 あまり使い勝手の良いスキルではないと言えるかも知れない。

 だが、それでもジルバがこれを使用したのはそれだけクレアという存在が稀有だからに他ならない。


 そもそもエルフという種族は人族とは違い全ての種類の魔法に適正を持つ素質があり、その上比較にならない程魔法適正が高い。

 以前人族は適正が60もあれば得意な魔法だと判断出来ると述べたが、彼らエルフは苦手な属性ですら50近い適正を持ち、得意な属性ならスキルなしで90近い適正を持つ者さえ居るほどだ。


 その中でも姫を名乗るクレアは頭ひとつ抜きん出た適正を持つ。

 その上特殊なスキルを持ち合わせているのだ。


 今の彼女はそのスキルを行使したと考えられる。

 であれば制限時間まで待つか、今すぐ渾身の魔力で洗脳を再び施すか。


 しばしの黙考の後、ジルバは前者を選んだ。

 後者は負担も大きい上にもし魔力量が不足して失敗しては危険だと判断した為だ。


 時間を稼ぐ。

 そうジルバが決めた時、それに合わせるかのようにロイドとクレアがジルバに向けて1歩踏み出す。


 クレアによるものだろう、ロイドの傷はほとんど治っていた。

 もっとも、失われた魔力や体力は戻りはしない。彼の戦力では光魔法を突破出来ないのは証明済みの為、脅威にはなり得ない。


 であれば、警戒すべきはクレアだ。

 豊富すぎる魔法の選択肢を持つ彼女には一瞬たりとも気が抜けない。


 しかしその反面、彼女が魔法を使えば使うだけ洗脳解除へのカウントダウンを早める事にもなる。

 彼女もそう盛大には攻めて来れないだろうと判断したジルバ。


 まずは小手調べに光魔法を、と思った時だった。


「『炎海』『霧降』『墜天』!」

「なっ…!」


 無詠唱での三段発動。

 予想を遥かに超える魔法行使に思わず目を見開くジルバに、地面を波打つ炎の波が襲い来る。


 ジルバは即座にその場から跳び、それを追うように土魔法で地面を迫り上げて足場を作る。

 『土槍』を操作して台座のようにしたその高台の周りは、文字通り火の海と化していた。


 舌打ちをしつつジルバは光魔法で反撃を試みるも、すでに視界を覆う霧によってその光を拡散されてしまう。

 エルフの集落でも同じ魔法を使われた為、対応は思いつく。

 だが、それより今は次の魔法に対応しなければならない。


 ジルバは上へと目線を向ける。

 そこには濃い霧の中でも分かる程の巨大な影。


 『墜天』。魔力量に応じた岩石を落下させるというシンプルながらも高威力の魔法だ。


「なめないで欲しいね!」


 ジルバはその岩石を見て、逃げるでもなく魔力を練り始める。

 そしてその魔力を御光に割り振る。体を纏う朧げな光が目に見えて分かるほどの明るさに変わった。


 直後、ジルバの真上に直撃する『墜天』。

 その衝撃で火の海も消し飛び、土の台座も踏み潰される。


 クレアは油断せずその中心に目を向ける。


 地面を揺らして轟音とともに土煙を巻き上げるその中心から、ひとつの影がクレアへと飛び出してきた。


「随分と調子が悪いみたいだね!以前のような威力がないようだよ?」

「誰のせいですか」


 クレアは迫るジルバに土の壁で遮ろうとする。

 が、同じく土魔法の攻撃で相殺され、その速度を落とす事すら叶わない。


 ジルバの言う通り、クレアは魔法にあまり魔力を多く込めていない。

 魔力を消費しすぎれば洗脳状態に戻ってしまうからだ。


 ジルバはほくそ笑む。

 最初こそ驚いたが、この調子なら時間稼ぎは容易だと思ったからだ。


 このまま攻撃をし続け、反撃されればそれを防ぐ。


 それだけであっという間に洗脳状態に戻して沈静化出来る。  

 そう判断したジルバに、再びクレアの魔法が迫る。


「『巻風』!」


 周囲の風が中心であるジルバに向かって急速に集まる。

 その際に小石や枝葉などを風に乗せ、中心で円を描くように曲がりながら吹き荒れる風は、その石などを巻き込みながらジルバの周囲を埋め尽くした。


 小規模の竜巻を喚ぶ魔法である。


 その中でジルバは御光を再び強化して凌いでいた。

 ダメージ自体は無視出来るほどだが、砂や土、目を開けられない程の強風の中だと呼吸が難しい。


 うっかり大口を開けて呼吸をしようものなら喉をやられてしまう。

 詠唱が出来なくなるのは避けねばならない。


「ちっ!」


 そう思ってジルバは地味に厄介な魔法に口を腕で覆って舌打ちしつつ耐える。

 体感にして何分にも感じられる時間の後、ついにその風が弱まりそして消えていく。


 開けた視界に映るのはさすがに魔法連続行使により疲弊したのか息を切らしたクレアとーー


「はぁ、はぁっ…しぶといですね…!」

「君こそね。だが、ここまでのよ…うだ…?」


 見える程膨大な魔力をその体から溢れさせ、両手を空に掲げてそれを惜しみなく魔法陣に注ぎ込んでいくロイドの姿だった。


「これならどーよ?」


 その姿に目を瞠るジルバに向けて、ロイドは小馬鹿にするような笑みを浮かべて掲げていた両腕を振り下ろした。


 

 直後、ジルバから音が奪われた。


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