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プロローグ

 地元の中堅会社で働き始めて3年が過ぎた。少し前から店長を任されている。

 最初は不慣れな事もあり慌ただしくしていたものの、今では慣れたものだ。


「黒川先輩、そろそろお昼ゴハン食べに行きませんか?」

「おー、んじゃ今持ってる荷物出したら行こうで」


 2年目社員の後輩にあたる女性社員が声を掛けてきた。黒川涼は腕時計を見て短針がほぼ真上を向いているのを見て頷く。


 新入社員研修を終えてすぐにこの店に配属された後輩――如月愛は、この1年程の間に当時の店長や黒川の教えを漏らす事なく吸収し、目を瞠る成長をしている。

黒川自身も店長になってすぐはてんやわんやだったが、如月のおかげで店長業務に追われた際、通常業務を任せて店長業務に専念出来ていた。


 まだ危なかっかしい所はあるが、頑張り屋であり、その頑張りに助けてられた。涼はなんとなしにお礼をしようかなと思い、提案してみる。


「今日は奢ってやるで。どっか行きたいとこある?」

「おっ!いいんですかー?!それじゃちょっと行ったとこの回らない寿司をーー」

「待てこら」


 容赦のないリクエストに被せ気味に返す涼。かつての店長に連れられて行った寿司屋、金額に仰天しつつも遠慮なしに食べた記憶を掘り起こしながら、その横で同じく遠慮なしに食べていた愛を思い出しストップをかける。

――ちなみに、その店長はそれ以降昼食を誘ってくれなくなった。


「冗談ですよー。私の行きつけの店にしましょ!今日の日替わりランチが美味しそうなんですよ!」

「まぁそれならいいけど、いつも行ってるとこでもいいんか?」

「全然大丈夫です!先輩もハマると思いますよ、とっても美味しいですから!」


 行く前から二度と誘わないようにしようとか考え始めていた涼。

 だが愛の提案にそれなら財布にも優しいし、愛も良いと言ってるならと涼は頷きながらんじゃそこにしよう、と返しつつタイムカードを切って休憩に入る。愛も続いてタイムカードを切り、軽い足取りで先導するように歩き出した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 向かった先は居酒屋だった。昼は定食を提供しているようで、店外に出ているボードに「本日の日替わりランチ アボガドと海鮮丼」と書かれている。

 入ってみるとなかなか繁盛しているが、13時すぎという事もあってか空席はいくつかあった。


「いらっしゃいませー!…って愛ちゃんか!いつもありがとね、好きなとこ座っていいよ」

「うん、ありがと!今日は先輩もいるからテーブルに座らせてもらいます!」


 行きつけというだけあって店員とも顔見知りのようで、砕けた口調で会話していた。熊のようにがっしりした体型にオールバックのように緩く後ろになでつけられた髪と鋭い目つきと威圧感あふれる容姿の店員。しかし笑うと愛嬌もあり、存外柔らかい雰囲気を醸し出している。


 そんな店員――胸元の名札を見ると店長のようだーーが、黒川を見て目を丸くし数秒固まり、次いで面白いものを見たかのように口元を緩めて話し掛ける。


「いらっしゃいませ。はじめまして、ですよね。いつも愛ちゃんにはお世話になってます。店長の武田です」

「はじめまして、如月の先輩の黒川と申します。如月が美味しいと絶賛してたんで、楽しみにしてますね」

「今日は良い魚が入りましたし、期待してて下さい。気に入られましたら、ぜひ夜の居酒屋の方にも愛ちゃんと2人きりで来てくださいね。サービスしますよ」

「た、武田さんっ!」

「ありがとうございます。ぜひそうさせてもらいます」

「えっ?!せせ先輩っ?!」


 何やら横で愛が騒ぐが、社会人として挨拶は大事だとスルー。むしろ何を騒いでいるのか。そして武田はなぜ愛にサムズアップしているのか。

 涼達は空いている席が近くにあったのでそこに座り、メニューを見ながら口を開いた。


「如月、挨拶してるのに騒がしくて…なんか問題でもあったか?」


 急に挙動不審な後輩に店長の謎の反応もある。無難な挨拶のつもりだったが何か知らない内に失礼があったかと涼は聞くが、愛は俯いており聞いてる様子はない。


 涼は訝しげに首を傾げるが、まぁいいやとメニューに目を向ける。魚介類が豊富だがリーズナブルで、他のメニューも充実している。


「如月?夜もここに来た事あるん?」

「えっ、あ、はい!刺身と唐揚げが美味しいですよ」

「そっか。確かに美味そうだし、割と安いな。よっしゃ今度夜来てみよ」

「ほ、ホントですかっ?!いいですね、私いつでもいいですよ!」


 食い気味に返され少し仰け反る涼。そんなに美味しいのかと楽しみな気持ちが増しつつ、こう見えてこいつ食いしん坊なんだと意外な一面になんとなく笑いがこみ上げる。


 愛は背は高くない上に細身な方だ。容姿も整っており、大きな瞳と流れるような黒髪が印象的で、社内でも人気がある。たまに客から連絡先を聞かれる程だ。

 そんないかにも食の細そうなイメージだったが、どうやらそうでもないらしい。


「なら近々来てみよか。それよりとりあえず注文しよっか。俺も日替わりランチにする」

「了解です!すみまーん!日替わり2つお願いしまーす!」


 如月が頼んでくれ、そこまで待つ事なく日替わりランチは提供された。

 予想を上回る美味しさに涼はこれはハマると内心で愛に同意した。武田店長にまた来ますと伝えつつ、店を後ににして午後の業務に戻るのであった。


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