yes I do!
【特別企画@猫が登場する小説大会】
企画応援作品です。神様のお好きな物、盛ってますー!
きらめく切っ先、僕はそれを確認する。息を飲む、鼓動の動きを止めたくなる……どきどきとする音が体の中を満ち、外に漏れでるかと思うからだ。
どくん、どきん、どきん、心拍が大きく跳ね、それから続く生者の証。ゴクリと唾液を飲み込む。どうするか?相手は大人、僕はまだ未成年に入る年齢。圧倒的な体格差がある。
力では負ける、しかし相手が今はもう、持ってない物を僕は持ち得ている。小柄で、身軽な体。それを最大限に使う方法を、全力で考える。
コンクリートの建物と建物の狭間、そこに僕は隠れている。………こちらに近づいてきている。お互い足音を立てない者同士、気配を奴はたどっている。僕はそれを読んでいる。
息を潜めてタイミングを謀っている物陰、気配がヒタヒタと近づく。足音は……この辺りを仕切ってる、と勝手に思っているオッサン『三日月のジョニー』……奴の臭いが近づいている。
体に力を込める、足に、腰に、飛び出す為の動作の準備、身を屈めて体勢をととのえる。向こうの気配が止まった、奴も僕を警戒している。
ピン、と張りつめた空気、ヒリヒリと感じる、目に、耳に、鼻に、それらは緊張と痛みになり届いてくる。僕達がお互いが放っている覇気、それがぶつかり、産み出される重い空気、既に戦いは始まっている。
どちらが出るか、ジリジリと間合いをはかる。徐々に息づかいが近づいている。はっきりとわかる、ゴクリと飲み込む……時は近い。そう思ったその時!
……カラン、空き缶が通りで転がる音が耳に響いた!それを合図に飛び出した僕、ジョニーも此方に向かってきた!
チャッ!アスファルトを蹴り、飛び上がるオッサン!鋭く尖った切っ先が、目に飛び込ん出来た!シャオウ!ウ!
スザッ!ブレーキをかけ、ステップを踏むと後ろに飛びはねそれを避ける。障害物がない通りでは、僕には不利だ!そう考えると、奴を誘うように、わざとで背を向け、隠れていた袋小路へと誘う。
ちらりと振り返る、ギラギラと目に闘志の炎を宿したジョニーが、案の定追いかけてくる。僕はほくそ笑みながら、考えていた作戦に打って出る。
それは、最初の一撃を、奴の弱点を狙う、シンプルかつ全うな計画だ。先手必勝!体力戦に持ってこられたら、僕には勝ち目がない。
ダ!ダッ!ダ!コンクリートの壁際に積み重ねてある、木箱を一気にかけ上る、奴との間合いをはかる、タイミングを逃してはならない、僕はこの一手にかけた。
三日月のジョニー、その名の通り眉間にある白い傷、そこが弱点と、おしゃべりな街雀から情報は仕入れている。
今だ!奴が間合いに入った時を狙い、切っ先に力を込め、僕は最上段から飛び降りる。上を向く奴が視界に入っている。狙うは白い三日月!
シャォォォォン!渾身の力を込め、切っ先を振り下ろす!ぼってりと大きな体躯の奴は、ブンッ!と体を、頭を反らして避ける。
チッ!奴の避けるスピードが、微妙に遅い!なので、僕の一手が避けきれず、ジョニーの三日月に僅かに切っ先が触れた。
「ふぎゃぁあ!」
奴は傷に切っ先が、僅かに触れた瞬間!叫び声と共に、来た道を一目散に逃げ出した!それを追う僕、再び通りへと出てきたその時、
「令、レイ!」
名前を呼ばれた。奴の背が遠ざかって行く、僕はそれを目の端に留めると、声の方向をゆるりと振り返る。
オフショルダーのニットのワンピース姿の、彼女の姿がそこにあった。コツコツと足早な音のヒール、それが僕の目に入ってくる。
「レイ、どうしたの?こんな処で」
甘く聞きながら、僕と視線を合わしてくる彼女。その澄んだ瞳に見られると、僕の中から闘志が、覇気がさらりと霧になり、鎮まって行く。じっと見つめてくる彼女。僕は問いかける視線に答えを返す。
「うにゃん!」
ふお!人間界の僕の声が上がった。そして小首を傾げる。売るんだ瞳で彼女を見上げる。
「ああーん!迎えに来てくれたの?」
うにゃ?喧嘩をしに来てたのだにゃ。
「怖い三日月の傷の、野良猫がこの辺りにいるのよ、危ないわ」
うにゃ?もう少しで勝てたにゃ!あと一歩だったにゃ!次は勝てるのにゃ!
「さぁ、お家に帰りましょうね。抱っこしてあげる」
うにぁぁー、疲れてたから良かったのだにゃぁ、僕はヒョイと抱き上げられると、胸に抱き締められる。うにゃ!深き渓谷がー!幸せだにゃん。喉がゴロゴロ言うにゃぁー。
「あら?足の裏が汚れてる……」
うにゃ、ゴミ箱に突っ込んだのだにゃ、ごめんなさいなのにゃ……
「帰ったらシャワーを『一緒に』浴びてから、ご飯にしましょうね」
うにゃ、それが目当てで『わざと』で、突っ込んだのは内緒にしとくにゃ、はい、一緒にシャワータイムですかにゃー、僕の飼い主の彼女は、
出るとこばーん!へっこむとこキュッ!だにゃーん!ナイスボディなのだにゃーん!
「新しいシャンプー買ったのよー、うふ、とってもいい香りなのよ、楽しみね、可愛いレイ、早くお家に帰って、お風呂で綺麗になりましょうね」
黄昏の道を連れて帰ってもらってる。柔らかい場所に体を預けて僕は、ご機嫌で喉をぐるぐる、そして……ご主人様に返事を返した。
うにゃーん=『yes!愛(I) do!』