番外編・王様の贈り物
王様の小さな楽しみは忙しい合間にお茶をすることだった。お茶自体はそれほど重要ではなく、晴れた日のお茶の時間に訪ねてくる小さな客人が王様の楽しみだった。
王様は決して饒舌ではない。子供が喜ぶ御伽噺もほとんど知らない。それでも雲ヒツジに乗ってやってくる小さな娘は、畑仕事や家事の合間の散歩で必ず王様のもとへ来た。
「もうすぐ稲刈りの時期だわ。いいにおいがするもの。」
縫い針ほどの大きさの娘、スンは季節の変わり目には敏感だった。
部屋の中にこもり、窓の外を眺めることもあまりなくなると、そうした時の流れに心を惹かれることはない。けれどスンは喜びをもって新しい季節を迎える。
王様の周りにはスンのようなものはたった一人しかいなかった。それは王様の大切な友人だった。一度は別れてしまった友人だったが、スンのおかげで再びめぐり合うことができた。
王様はスンにそのお礼の贈り物をしたかった。けれど王様にはスンの喜びそうなものが分からなかった。王様には息子しかいなかったので、小さな女の子の喜びそうなものが思いつかなかったのだ。
王様は悩んだ末、二人の王子を呼び相談をした。二人の王子は小さな女の子の贈り物で困っている、立派な髭のある父親を見て、笑いをこらえるので一生懸命だった。
「あの子の友人には服屋がいるから着るものには不自由していないし、食べるものも一番すきなのは自分の庭で採れたものだ。宝石など渡して、それが人の悪心をひいてあの子がさらわれてしまっても困る。」
王様が真剣に悩んでいるのが一層可笑しくもあったが、王子達は王様が本当にスンのことを想っているのを感じて言った。
「あの娘は心のこもったものが好きな子だから、何か作ってみられてはいかがだろうか。」
王様はぽかんとした。
彼は今まで何かを作ったことはなかった。王子達の言葉は一層王様を悩ませた。
王様は頭を抱えて部屋に帰り、何をどうすればいいのかさっぱり思い浮かばなかった。スンの身体に合う服はまず無理だ。ジャムも、スンの養母が美味しく作れる。これから冬になる季節に作物を作ることも出来ない。
王様はいままでこれほど難しい状況は、王子達が生まれる前の戦の時以来だと思った。
溜息をついて、王様は机の上にあった付箋代わりの色紙を折り始めた。指先を動かしていると考えがまとまる。あの戦の時も、橋を焼き払ってダムを破壊しようなどという思い切った発想は一人で紙を折りながら考えたのだ。
端っこをまっすぐに、丁寧に折っていく。だが一向に王様の頭にはスンのための贈り物は思い浮かばなかった。小さな口をめいいっぱい広げて笑ってくれるような贈り物。豊かな国を治めるくせに、自分の心はずいぶん貧しい、と王様は思った。小さな女の子を喜ばせるようなことすらできないなんて、そんな自分が国を治められるのか。
王妃が亡くなった時以来に、王様の心は陰り始めた。
かくして、折り終わった色紙は机の上にちょこんと乗っていた。
王様はもう一枚、と紙を探した時窓が少しだけ開いていた。ふわふわの仔雲ヒツジと縫い針ほどの大きさの娘が、ちょこんとこっちを見つめていた。
「ごめんなさい。お邪魔しちゃったかしら。」
「いや、とんでもない。」
王様は慌てて机を片付けようとした。
「それ、なぁに? 」
スンが王様が払い落そうとした折紙のそばに来た。
「白鳥だ。」
スンは感激したように、口をめいいっぱい開けて笑った。
「素敵。」
スンは手を叩いた。
「紙が固いので、座っても潰れない。」
「本当? 座っていいかしら? 」
スンがそう申し出たので、王様は断る理由もなかった。スンは嬉しそうに紙でできた白鳥に座った。
「私のお尻にぴったりだわ。」
「それなら、今度からそれはお前の席にしよう。」
スンは今まで、インクの蓋や辞書の上に座っていた。王様が言うとスンは笑った。
「素敵な贈り物だわ。王様、ありがとう。」




