村の子供たちと少しの魔法
年齢が上がるにつれ、ジルヴァの交友関係が広がっていく。
大抵の子供は扱いやすく、同い年の子供達とは良い縁を結んでいったが、中には困った子供も居た。
「やい、ぶりっこジルヴィー! 女と一緒にままごと遊びなんて、男のくせにはずかしくないのかお前!」
ジルヴァより2歳年上のガキ大将、マッドだ。それに2人の金魚のフン、ビークスとマルク。
なにが気に触るのか、マッドはこうして度々ジルヴァに絡む。それに、女の子のような渾名で呼ぶのを止めようとしない。
ジルヴァは気にもとめていないが、正義感ある女の子のちくり行為によってマッドは今日も怒られる事になるだろう。
「やぁマッド、ビークス、マルク。おままごとも、結構楽しいもんだよ? 恥ずかしいなんて思わないね」
たしかにある程度の年齢になれば気恥ずかしさを感じる物なのだろうが、前世でもよく妹の相手をしていたジルヴァは慣れた物だ。
余裕の表情で笑うジルヴァに、マッドは腹立たしげな視線を
送る。が、次の瞬間「いいこと思いついた!」とでもいうようにニヤリと笑う。
「あ」という間もなく、ジルヴァの目の前に並べられたドロ団子を踏みつけ、蹴散らした。
せっかく作ったのにと女の子の目にはみるみるうちに涙がたまっていく。
「あー、泣かないでマリー。……なあマッド、どうしてそんな意地悪ばかりするんだよ」
「別に理由なんかねーよ!」
「嘘よ! かまって貰えないからあたるなんて、バカみたい! むこうへ行ってよ、いじけ虫のマッド!」
「なんだとこのブス!」
「なによ!」
売り言葉に買い言葉がジルヴァの頭上で飛び交う。
マリーは涙目のまま声高にマッドを罵倒し続け、マッドもむきになってそれに応戦する。ビークスとマルクは野次を飛ばすだけ。
こんなやりとりを今まで何度も見てきたジルヴァは、困ったように笑いながら静観していた。
さすがに、マリーがマッドを叩こうとしたときは止めにはいったが。
この村の女性陣は、意外と手が早いようだ。過激派が多い。
「はい、喧嘩は終わり。マッドは言い過ぎだし、マリーも叩こうとしちゃ駄目だ」
「……わかったわ」
「お、俺に指図するんじゃねーよチビ! ジルヴィーのくせに生意気だぞ!」
「マッド、あんたって本当にバカね」
「お前は黙ってろよブス!」
「ブスブスうるさいのよ! もういい、ラシルお姉ちゃんに言いつけてやるわ!」
「ね、姉ちゃんは関係ねーだろ!! くっそ、逃げるなマリー! ビークス、マルク、あのブスが姉ちゃんにチクる前に捕まえろ! ……おぼえてろよジルヴィー!」
嵐のような騒々しさだ。
◆◇◆◇◆
「さてと」
子供たちの面倒から解放された後は、スキルアップの時間にあてている。
準備を終えてから適当な木の陰に腰を下ろすと、瞑想体制にはいる。
前にこの村に来た冒険者が言っていたことを思い出す。
「まずは気の巡りを感じる……。その後詠唱し魔法は発動」
魔法には向き不向きがあるらしく、例えば単体の魔法しかできないものもいれば複数使用できる者もいるという。ジルヴァは神の加護のおかげか後者であった。
また上記とは異なるが、生活魔法というものも普及している。例えば浄化・火種・コップ一杯分程度の水を出す程度ならば完全なる“魔無し”以外ほぼ全員が使える。
ジルヴァも使えることは公言していないが生活魔法は覚えているのだ。(使えると言うにはまだ齢が若すぎるせいだ)
大抵の家庭では10歳を超えるあたりで生活魔法の詠唱を教える。
生活魔法以外の、つまり攻撃魔法については謎も多くいまだ解明されていない部分も多いという。神殿で魔法診断をしてもらえば自分に合った魔法を教えてもらえるらしい。
イメージ力が物を言うようで、アニメや漫画、映画などのフィクションに囲まれた21世紀を生きた人間としては発想力などほぼ無限に湧き出る。
だからここで練習しているのは主に水と風と土の魔法だ。火の魔法は派手だし、内密に特訓するには目立ちすぎるからだ。そして今日は水の訓練日だった。
「“ウォーターボール”」
大きな塊を作ると目立つので、逆に小さく圧縮していく。
「“ショット”」
あらかじめ用意していた木の板でできた的を目掛けて発射すると、的の隅に小さな穴が開いた。
「だー! 形を保ったまま投げるってのも中々難しいもんだな! でも前と違って穴は開いたし一歩前進だ」
大きなウォーターボールなら制御も難しくなく簡単に的を屠れる(とジルヴァは思っているが、実際は的が濡れて終わる人間の方が多い)のだが、圧縮することによってそちらに気を取られて思うように飛んで行かない。
これが上達すれば遠方からの攻撃がしやすいのになぁ、とジルヴァは考えていた。狙うは大抵の敵の弱点である頭、心臓、肺だ。
剣もはやく覚えて練習したい。そして魔法を付与して魔法剣とかやってみたい!! と夢は膨らむ一方だ。
残念なことに本格的に剣を師事できる人間がこの村にはいないのでそれまでは猟師スキルを磨くことにしている。
なんという運命の巡りあわせか、父ラルガはこの村一番の猟師である。山の入り方、獲物の取り方(罠に弓)、捌き方、全てがパーフェクトな教師となりえる人物である。
そんなことを考えながらもウォーターボールとショットの手は止めない。
MPが空になったところで帰路につくことにした。