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→ハジメカラ←  作者: 肉山
4/6

現状確認

 直道が新たにジルヴァとして産まれたここは、ヤトゥカ村という。バルグート領という開拓領地の一角にある小さな農村だ。兼業民宿がひとつに、商店がふたつ、他は民家と農地が広がる。

 特産物を買い取りに定期的に商人が来るので、文化レベルは高くはないが、他の農村に比べれば豊である。


 村の周りにはそう広くない平原と、山へと続く1本道、あとは森しかない。

 山を越え、街道に出てからさらに東へ進むとようやくバルグート領主城壁都市の門がみえる。村をでてから街道まで、徒歩で1週間ほどかかる。

 短縮するのに森を抜けるルートもあるにはあるが、森には獣だけでなくモンスターも湧く。山越えするよりよっぽど危険だし、運が悪ければさらに日数が必要となるので選択する人間は多くない。冒険者ならともかく、少なくとも一般人の中にはいない。

 むろんヤトゥカ村付近にもモンスターが現れる事があるが、どんなに小さな村でも領主の指示で少人数の護衛が置かれているため、被害がゼロとは言わないが大抵の事は大丈夫だ。とくに、ポポタン草の供給源であるこの村は他の地域より手厚い保護を受けている。


 ただし、超大型モンスターやスタンピートである場合は話が別だ。

 そういった場合は領主の要請で最寄ギルドから実力のある冒険者が派遣される。このヤトゥカ村であれば、領主城壁都市内にある冒険者ギルド・バルグート支部だ。

 モンスター災害が起こったとして、冒険者が到着するのは数日後。それまでにこの村が無事で残っているかどうかは、火を見るより明らかである。

 とはいえ、この何十年かはその兆候もなく、人々は穏やかに平和を謳歌しているが。


 ◆◇◆


 命の危機がないという事は、素晴らしい事だ。


 ジルヴァは唐突にそう思った。

 覚醒したときはなぜ赤ん坊なのかと文句を言ったりしていたが、瞬間で考えを改めた。


(ゲームスタート時には必ずある、そう、現状はいわばプロローグの時。この世界の一般常識も無い、金もない、力もない、そんな無い無い尽くしの状態で放り出されるような事が無くて良かったと考えるべきだわ。赤ん坊から冒険者になるまでの間に色々勉強しとけって訳ね。イージーモード、素晴らしいです。初心者に優しい世界。まったくありがてぇ話だよ)


 ――1周目のプロローグはスキップできない。

 わりと長い時間赤ちゃん人間生活を送っているジルヴァは、この世界がゲームであるという感覚が薄れていた。ただ、考えを改める事によって、再度ゲーム感覚との擦り合わせが始まった。

 無論この世界はリアルであり、女神の説明不足であったり、おもしろ半分に作ったプロモーションビデオが感覚の誤認を引き起こしている事は言うまでもない。


 それはともかく。

 赤ん坊のうちにやれる事といえば、情報収集くらいしかない。

 ジルヴァは両親や兄姉の話を聞き、母の背から村の様子を見(美形100%の世界かと思ったが、この家族が特殊なだけであって顔面偏差値は様々であった)、とにかくいろいろな情報を拾っていく。冒険者という職業があるとしったときは赤ん坊ながらに歓喜したものだ。

 残念なことにアウトプットさせる術が出来ないので、ひたすらインプット、忘却、インプットを繰り返す。

 それは食べ物や土地、人の名前であったり、季節の話だったり。

 中でもこれは完璧に覚えねばなるまいと躍起になったのが通貨だ。


 バルグート領の属するリズヴェント王国の通貨記号は“P”と書き、読み方は“ポイント”。・・・・・・ではなく“ポッキリ”という。


「このペクチーの実はいくらかしら」


「あい、53ポッキリでさぁ」


 なんていう会話を初めて聞いた日には、元日本人としてジルヴァはいささかの気色悪さを感じたりもした。

 ポッキリといえば端数カット、安さアピールのイメージがあるわけで。この国の通貨なので仕方ないのだが、上の会話なら3P余分な感じがするし、極端に言えば“100億ポッキリ”という場合もあるのだ。高い値段のものにポッキリという言葉はあまり使わないだろう。

 ジルヴァはなんだかなーという気持ちを堪えながら、貨幣の種類を頭に叩き込んでいく。


 リズヴェント王国で流通している貨幣は7種類の硬貨。

 石貨から始まり白金貨まであるが、一般家庭で見られるのは銀貨までだ。そこそこの冒険者であったり、商人ならば金貨、貴族や富裕層になれば白金貨を見る事もあるだろう。


 石貨 =1P

 大石貨=10P

 鉄貨 =100P

 銅貨 =1,000P

 銀貨 =10,000P

 金貨 =100,000P

 白金貨=1,000,000P


 1Pが日本円にして、おおよそ10円。


 大人2人と子供1人の3人家族であれば、1ヶ月50,000P稼ぐ事が出来れば王都の中心部で暮らす事が出来る。ただし、それだけの金を稼ぐのは一般人には難しい。技能や地位を持たない人間が、身を粉にして働いて月10,000Pも稼げれば上々といわれている。

 王都に住む大抵の人間は貴族や大商人、上級冒険者などの上流階級ばかりだ。あとはそれに連なる店子や奴隷。

 王都の、それも中心部に住むと言う事は、一種のステータスのようなものだ。


 ちなみにバルグート領主城壁都市のような開拓都市は、他の都市に比べ安く生活する事が出来るのが魅力だ。栄えさせるために、税金が少しばかり低いのだ。場所を選ばず、都市の中心部から離れれば、さらに安く上がる。

 田舎には住みたくないが、かといって王都や都会では生活できない、そんな人間に人気のある地域である。


 ちなみにバルグート領主城壁都市のような開拓都市は、他の都市に比べ安く生活する事が出来るのが魅力だ。栄えさせるために、税金が少しばかり低いのだ。場所を選ばず、都市の中心部から離れれば、さらに安く上がる。

 田舎には住みたくないが、かといって王都や都会では生活できない、そんな人間に人気のある地域である。


 ジルヴァの住むような、小さな村であれば月7,000P以下で生活できる。というのも、大抵の村人は畑を持っているので不作でもないかぎり野菜を買うことは少ないし、肉類も狩りや酪農分で補う事が出来る。村人同士で物々交換なんて事もザラだ。見栄をはる必要もないので品質にも拘らない。

 つまり、食費にかかる金が都会に比べれば随分少ないのだ。その分、都会から仕入れる必要のあるものは非常に高価ではあるが。


 とくに、薬や本が高い。

 薬草という状態であればどこの家庭にもある物だが、精製された良質な薬品となると村長の家にあるかどうか。

 とにかくポーションにも様々な種類、品質がある。

 通常の回復薬は低品質でも1つ300Pはするし、状態異常回復薬なら、最低でも500P。異常の種類によって値段が異なる。最低価格の500Pで買えるのは麻痺解除薬だ。ただし、麻痺は時間経過で回復するので、買えないことはないが、手が出しやすいものではないのだ。

 本はさらに高価で、田舎では滅多に見る事はないだろう。少なくともヤトゥカ村には1冊もない。

 村単位での教育機関は無く、学校は王都にあるだけだ。

 そのため国内の認字率は非常に低く、本は富裕層の娯楽として認識されているということもひとつの要因だろう。

 そもそも、この世界には活版印刷の技術がまだ無い。よって、現存している本は全て手書きによるものだ。紙自体も高価な物であるし、裕福でなければ手を出す事ができない代物なのは間違いない。

 字の読み書きが出来るというだけで就職先に困る事のない世界だ。文化レベルは、日本には遠く及ばない。



 ――ただし、前世には無かった<魔法>が、この世界には存在している。



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