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ものや思ふと。

作者: ゆあ

学校の、同じクラスの。部活も一緒の、席が隣の。僕が好きな女の子。

その子と話しているだけで僕は顔がいつもと違うらしい。


しのぶれど 色に出にけり わが恋は

ものや思ふと 人の問ふまで


と詠んだのは誰だったか。

確か意味は自分の気持ちを隠していたつもりだけど、人から尋ねられるくらい顔に出ている、とかそんな意味だったか。

僕の今の状況のそのままだ。案外人間は平安時代くらいから恋愛においてはあまり進歩がないのかもしれない。



知り合ったのは例年より遅咲きの桜の花びらが宙に舞う季節だった。高校に入り、初めての席替えで僕は彼女と隣の席になった。

それまで、と言っても入学してから一週間くらいだが話したことのなかった女の子が自分の席の隣なんて嫌だ、としか思わなかった。

中学生の時は女子と話す機会なんてあまりなかった。それに僕には姉がいて、その姉はいろいろうるさいのであまり女子が得意ではない。なので、憂鬱な気分で2.3日学校生活を送っていた。

良くないことに良くないことは重なるものだ。今思うとラッキーだったけど。



それはある国語の時間の前の休み時間に起こった。

…なぜか隣の席があわただしい。鞄を開いたり、机の中をのぞき込んだりしているのがうかがえる。小さな声で、え、ちゃんと入れたのに、とか、最悪、とかも聞こえてくる。

しばらくそういうことが続いた後に僕の肩が不意にたたかれた。


「ごめん、教科書忘れちゃっただけど、次の時間見せてくれない?」


僕は少し戸惑った。話したこともなかったし、いまいち名前も覚えていない。

まあでも、僕も今後忘れることがあるかもしれないし。


「いいよ。」


そっけなく言うと彼女は少し恥ずかしそうな顔で


「ありがとうっ」


僕は少しどきどきした。



授業はいつも通りに行われた。

でもいつもとは違って時々肩に触れる少し長めの髪がくすぐったかった。

あとは間近で聞く彼女が音読する声が妙に聞き心地がよく、つい聞き入ってしまったりとか。

この時にはもう好きになっていたかもしれない。


この日から僕は彼女と少しずつ話すようになっていった。くだらない話をたくさんした。好きな食べ物の話とか兄弟はいるのかとか。苦手な勉強の話とか、お互いの部活の話とか。

話すのはとても楽しくて、内容なんかどうでもよくて、ただ彼女と同じ時間を共有しているだけで僕は大げさかもしれないけど幸せだった。

多分これは恋なんだろうと思っていたけど、認めるのはなんか照れくさくて嫌だった。それにばれたくないし。

でも、周りには気づかれていたらしい。なんかあいつ、あの子と話しているときと俺たちと話すときとでなんか違わね?あこれってまさか…、とかいう話らしい。

勘弁してほしいものだ。

そうはいっても好きなことは好きなのでしょうがないというか、もうどうしようもなかった。



とまあ、とある放課後、屋上に彼女を呼び出して待っている間物思いにふけってみた。

なんか恥ずかしいな、これ。

そう考えているうちに屋上の扉が開く。一瞬で僕の心臓が飛び跳ねる。


さあ、僕。頑張れ。


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