辛くて愉快な珍道中 ※ 山中で
ドサドサ。
数体の頭と身体が離れた鬼の亡骸を崖から蹴落とす。
「こんなもんだろ。」
パンパンと埃を払い一息ついたサルの頭にモモからのゲンコツが落ちた。
「ぬぁにが 『こんなもんだろ。』だ、この馬鹿!お前の大声で浮遊鬼と遭遇する羽目になったんだぞ!もうすぐ目的地だ。村付近に鬼を誘うんじゃねぇ!」
浮遊鬼とは山を当てもなく彷徨う鬼たちの事だ。鬼は戦の時にワラワラと大群で出てくるが、その時に逸れただろう鬼達が浮遊鬼になると考えられている。彼らは人間の声や気配を感知すると殺しにやってくるのだ。
いだだ、、と頭を抑えながらサルはモモに上目遣いで弁明をする。
「よく考えて?今回は比較的人里の近くで遭遇した。見方によってはむしろ此処で退治出来て良かったかも知れないぜ!」
「自分の都合の良いように解釈するな!」
もも兄の音量も中々デカイけどな、とは今のモモには言えないサルの上をツイーッと横切る橙色の鳥リト。
チョウの肩に留まると足元をツンツンと突く。そしてまた空に羽ばたいて行った。
「もういない。行こう。」
チョウに促されチョウ、サル、モモの順にまた山道を急ぐ。
「しっかし、あのヒゲの爺さんはタヌキだよなぁ〜。」
歩くのを再開して暫く、サルが思い出したように呟いた。
「タヌキ?人間じゃないのか?」
【3人とも良く来たのぉ。此方のキラキラと輝く様な爽やかなイケメンが金さん。此方のいぶし銀を放つ落ち着いたイケメンが銀さん。そしてこの豊かな髭のジジイのワシがノナーガ区長じゃ!因みに2人の字名の名付け親はこのワシじゃ!以後宜しくの。】
記憶にある、バッチンとお茶目に片目を瞑って笑った髭のお爺さんはやはり人間に見える。モモは首を傾げた。、
「腹に一物抱えた、相手を化かすのが得意な人間の事をタヌキっていうの。」
サルの説明に「分からない」と言う顔をするモモにチョウが補足をする。
「ノナーガ区長は俺たちの話を信じていない。ニコニコと頷いてはいたもののその後すぐに俺たちは視察という名で区を出された。」
「まぁ俺たちの本来の目的と被って楽だけどよ?」
サルは手を握ったり開いたりして
「様子見とかお手並み拝見とかそんなのだろーよ?
まぁ山の一族なんて絶滅危惧種だし?俺もこの麦色の髪を見せてないし?
そこら辺に監視がいたりして?」
とニヤリと口角を上げて辺りを見渡す。頭に巻いてる白い布を2人に向かって少し上げれば見えるのは黒色の髪。否、良く良く見ればその黒髪の生え際は色が無い。木漏れ日から光を受けた所だけキラ、キラと輝く。
「信じて貰えないのも仕方ない。サルは伝説を語ったのだから。因みにモモ。監視役は今はいない。」
慌ててサルの頭を隠そうとするモモにチョウが告げる。
「こんの馬鹿!からかったな!」
「俺が周りも見ずにそんなアホな事する訳ないだろ。ウキャキャ、、」
初めは確かに跡をつける者の気配を感じていた。それをあえて撒いた訳ではない。この山道に、この速さに付いてこれなくなった、ただそれだけである。
グリグリグリグリ。。。
「ぎゃー!!!!」
グリグリするモモと悲鳴を上げるサルを横切って、
チョウの元に空から橙色の鳥が降りてきた。そのまま餌をねだる鳥に「異常無しか。ありがとう、リト。」とチョウが干し肉を一切れ渡している。
(わあい、ありがとう、)
と言う様にスリスリと橙色の鳥リトはチョウの頬に近づき、
(わぁい!わぁい!)
というように髪の毛をハムハムと口にくわえた。リトにとって最大限の感謝の仕草の様だ。しかしチョウは
気持ちは嬉しいけど、今度からハムハムは無しで。
と断っていた。ハムハムされた頭髪の部分がテカテカとしていた。
(お風呂で髪、洗わなきゃ)
チョウは心の中で呟く。
【山の一族の者です。日の国に危機が迫っていると馳せ参じました。】
「本当のことなのになぁ。俺超真面目に言ったんに。」
サルは信じてもらえないのに納得半分、不満半分有るようだ。
「それよりチョウ兄の正体みたアイツラの顔!!口を閉じるのも忘れてて!スカッとしたね!」
不満顔は一瞬の事。
思い出したのかニヨニヨ笑う。あの場を通れたのはチョウのおかげだろう。この森には自分達しか居ないとサルは理解している上で先程から言いたい放題だ。
「チョウ兄俺たちの前ではいつも顔だして良いんだぜ?」
「断る。何度も言うが探し人に会えるまで、顔は出さない。」
「ふうん。美人なんに。俺にも『ごめんなさい許してぇ』ってやって?」
サルの軽口にチョウ本人は片眉を上げただけだったが、リトが反応した。
橙色の鳥がサルを容赦なく突つき
「わ!冗談だって!悪かった悪かったから!」
サルが慌てて逃げ惑う。
そんな2人と1羽をよそに
サルとチョウの説明に衝撃を受けたのかモモは目を開き固まり続けていた。
リトが離れたサルはモモに近づいた。
最後まで自分達の話しを聞いてくれのですっかりヒゲの爺さんの事を信用していたのだろう。モモは見た目とは裏腹に世間知らずな所があるのだ。きっと山の一族が巷では伝説の一族だと言われていても信じて貰えると思っていたに違いない。誰もがモモの様ではない事をまだモモは気付いていない節がある。
ただ真実は出自を隠して活動しているだけで一族は結構いるのだが、わざわざチョウ相手でも訂正しない。だってめんどーだから。髪が麦色だけが山の一族じゃないのよ?金髪の者も外で活動する時は俺みたいに染めるし。モモは山の一族にしばらく滞在したから知っているだろう。今度チョウも連れて行けば良いだけの話だ。百聞は一文にしかず。その目で見て知って貰えれば其れこそが良い。
「うん、モモ兄はそのままでいーから。騙されそうになっても俺たちがいるから。」
とサルが声を掛けたがモモは動かない。
「あれ?まだ固まってる?」
おーいと目の前で手をひらひらさせても微動だにしないモモは相当衝撃が強かったようだ。
試しに鼻の下にヒゲを描いてみる。
両鼻の穴の下に三本ずつ
キュッキュッキュッっとな。
「バカンボのパパみたいだ。」
チョウがよく分からない感想を言うがまぁこんなもんだろ。
ホイと桃の前に鏡を出せば
「こんのバカザるー!」
グリグリグリ
「あだだだだ!」
無事に石化は溶けたようだ。
鼻の穴から黒い直線が何本も出ているムキムキ兄さんを
両耳の少し上をグリグリされながら下から見たサルはプッと吹き出し、グリグリの時間は普段より長くなった。
目指すはノナーガ区内、最も西の町。鬼に占領された土地にとても近く、しかし近隣では1番豊かな町だ。
モモ、サル、チョウの3人は
(鬼による影響、鬼による影響!)
(飯!飯!メシ!)
(お風呂。)
それぞれ期待を胸に足を動かした。




