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辛くて愉快な道中記 区長視点

ハイこんばんは。ワシはノナーガ区長。

この日の本の国のちょっとした肩書きがある国民の1人じゃ。豊かなヒゲがチャームポイントの小太り爺さんじゃ。

ワシは今天幕におる。外では今日の戦勝祝いで皆んな飲めや歌えと騒がしい。ええのぅ、ワシも参加したいのう。


そんな気持ちが出てくるのは仕方ない。だって人間じゃからの。


いくらちょっと大きめので少し高級な家具が置かれようとも所詮、天幕は天幕。ワシだってドンチャンしたい。

しかし、チラッと横目で見たら銀さんが厳しい顔で首を横に振った。金さんも眉を下げて右に同じ。

分かっておるって。


そして前には昼間の戦いで大活躍した3人が縛られて座っておった。先ほどの自己紹介で名前はモモとサルとチョウだと言うのは分かったが、一体お前らは何をやっておるんじゃ。ご馳走も酒もお互い食べられないのは悲しくないか?ワシは悲しい。あーひもじい。


「それで、どうしてこうなってんの?」



サルと言った少年がモモと云う美丈夫を軽く睨んでいる。身動き出来ないのでせめてもの仕草だろう。今のサルは戦の時にあった頭に巻いている白い布はあるものの小さな六角の帽子は無く、装束類も取り外した戦の時とは違ってとてもラフな格好をしていた。声変わりする前だろうか?少し高めの声は見た目の幼さに拍車を掛け、あどけなさをより一層感じさせた。表情も豊かで此処に連れられてきた時には驚いた様に目を丸くし、名を聞かれた時は緊張し、今は怒っている。目鼻立ちのはっきりした整っている顔だけに怒ったり睨んだりするとまだ小僧っ子でも迫力がある。


同じく身動き出来ないモモと呼ばれた彼も洋袴に襯衣と昼間では考えられない格好だ。丁度寝る所だったのだろう、腹巻が彼のムキムキのラインに沿っていて目立つ。屈強な肉体に太い首、黒髪短髪の切れ長の目。美丈夫の名に相応しい彼は眉間に皺を寄せて不機嫌そうにしている。ん?今欠伸した?したよな?不機嫌では無く眠いのかの?中々の大物臭が漂ってくる。

ワシからの視線を気まずく感じたのかモモは視線を横にする。


その視線の先、チョウと言った1番小さい少年はサルとは反対側で静かに座っていた。

チョウだけは昼間の戦闘と変わらない装備で今も表情は分からない。が縛られながらもこの表情と云うか目、この落ち着き具合、異様だ。声も「チョウです。」しか聞いておらん。くぐもってて聞き取りづらかった。しかも良く見ればなんか小綺麗になっとるし。昼間闘っておったよな?ツヤツヤの明るい髪か逆に不気味よな。


「曰く、褒美をもらえるらしい。」

「本気で思ってる?」

「やはり違うか。」


サルは盛大にため息を吐いた。ちょっとお主ら自分たちの状況分かっとる?いくら小声でも地獄耳のワシには筒抜けなのじゃよ?地獄耳でないと区長なんてなかなかワシには務まらんけどな?とかなんとか言い訳っぽくしてワシは3人の内緒話を聞く。


「縛られて褒美って何だと思う?」

「しらん。」

「チョウ兄、男でもイケる人間っているんだぜ?」

「何処に行くんだ?」


何て緊張感が無い会話だろう。あ、金さん銀さんはちょっとそのまま静かに。



「てかなんでモモ兄はこの状態を甘んじて受け入れてんだよ?」

本当なにやってんの?

サルが避難を小声でモモに言う。

(ほう、モモは此処を出ようと思えば出られたと。)


「お前が静かにしてろって言ったんじゃないか。」

眉間に皺を寄せてこちらも不機嫌を隠さずモモが返す。


(サルはモモが暴れたら嫌だと事前に止めていた?)


サルはチョウとの会話を思い出そうとしたのか僅かに視線を上にずらし

「あー、言ったわ俺。」

ガクリと肩を落とした。


「ここに来てモモ兄が大人しく縛られている事が1番驚いたわ」


ボソッと聞こえた一言をさらに注意してワシの耳は拾う。


「まぁモモ兄が暴れたら何人も死ぬからそれよりマシだけど」

(ナニソレ怖いんじゃが!)


「うーん、、これで良かったかも!でも、もっと他にやりようが、うーんうーん、、」


音量!音量下げて!うーんがでかいんじゃよ!止められたら盗み聞き出来ないじゃろが!

ワシは心の中でしか注意出来ない老いぼれです。


サルが周りに隠さずに唸ってると、


《ドン!》

ワシの後ろで控えていた銀さんが鞘に入った刀を床に叩きつけるように置いた。唸り声を聞いて我慢出来なくなったらしい。


けど

銀さん待ってー!!こいつら怖いから刺激しないで!!

と真っ青になって叫ぶのは心の中で、決して表情を変えたりはしない。


そうして目線を彼等に合わせる銀さん。さすがよな。この後目が泳いだりしたら一発よ。ただ、もう少しコソコソ話し聞きたかった!この3人、見かけよりもずっとヤバそうなのじゃよ!!


「お前達2人は何処に行っていた!」

「だから風呂だって!」

「風呂が何処にある!鬼のスパイが!」

「誰が?」

「だからお前達がだ!」

「はあ?俺たちはこの国を守りたくて参加したの!それに嘘偽りは断じてない!」

「なら正直に言え!」

感情的な2人のポンポンとした言葉の応酬が始まる。


「待て待て、銀さん」

そこを落ち着かせるのがワシの役目。こんなに早く受け答え出来るなら、今の言葉は信じよう。急いては事を仕損じる。この危ない3人組には慎重にしようとワシも話に入った。相手に警戒されない様に努めて穏やかに。


「気になる噂があってな?此方側で鬼に通じいている者がいるらしい。それでの。」

「戦の後お前達2人が何処を探しても居なかった。怪しすぎる。チョウとサル!何処に行っていた!」


だから銀さん待ってってば!普段のいぶし銀の輝きを放つ冷静沈着な対応はどうしたのよ!?内心冷や汗ダラダラじゃわ。わしの心臓にすごく悪い。


が、表では

【また銀さんはせっかちなんじゃから。】

と穏やかな表情は崩さずに銀さんを諌める。


「鬼のスパイってそもそも鬼とは意思疎通出来ないだろ!」

サルが断定するが

「どうかの?」

ワシははぐらかした。「鬼と話そうとした事もワシたちは無いんでの?」

とカマをかければ

「確かに!試した事なかったな。」

とはモモ。ポンと手を打ちそうなぐらい目をまん丸にして納得!みたいな顔しておるけれど、違う!なんか求めていた答えと違う。イヤ良いのだけど。

うん、モモ君は見た目1番年上でシッカリしている様に見えるが1番のアホの子だと認定しよう。ムキムキマッチョのアホの子じゃな。


「もう一度聞こう。

何処に行っていた?」


金さんがワシの斜め後ろから横を通り過ぎて少し前に出る。金さんは質問の返答によっては、この状況が変わる何かが起きると感じているのかもしれない。


その問いに1番反応したのはサルだ。上を見て暫し考える様に目を閉じだ後今度は目を開いて真っ直ぐこっちを見た。


「温泉に行っていた。それは本当だ。何も言わずに行ったのは悪かった。」


そして頭を下げた。頭に巻かれた白い布がワシの前面に見える。

そして意を決した様に顔を上げた。一呼吸置いて


「驚くかもしれないが俺は、、」


今度は顔を上げたまま少し間が空いた。わしとサルは目を合わせたまま引くことはしなかった。此処でワシが目を逸らせば彼は話すのを止めるだろう。彼が目を逸らせばその次からの言葉は信用しない。

ーー大丈夫話してみるのじゃ。

ワシは出来るだけ穏やかな顔を心がけ続けた。


「俺は、、山の一族なんだ!!」

「「は?」」


今度はワシらの時が止まる。流石金さん銀さん息ぴったり。

「俺たちは山の一族の者です。日の国に危機が迫っていると馳せ参じました。」

なんかサルが言っておるが先ずはさっきの整理をしよう。

山の一族って、、あの?アレじゃろ?

山にいる天狗とか妖精とか川の河童とかの類じゃろ?


悪い子には麦色の髪した山の一族が連れ去りに来るぞ〜。

てワシも子供の頃言われたし、息子達にも言ったやつよな?


金さんも銀さんもポカンと口を開けている。2人とも種類は違うが容姿端麗である。だけどもポカンとするとずいぶん間抜けに見えるのぉ。


と、いかんいかん!今余りの驚きに思考があらぬ方へ飛んで行っておった。戻って来いワシ。戻って来い金さん銀さん。


しかしサルは見た目は大真面目な顔をして頭の白い布を外した。って、小僧縄は?そんな事を聞く前に現れたのは黒い髪。大事な事だからもう一度。


現れたのは 黒い髪。

山の一族は麦色の髪。


「サル、お前黒いだろうが。」

「ぬぁぁぁー!そうだったぁ!!!」


モモの容赦ない一言にサルは地に崩れ落ちた。

何をやっておるんじゃお前は。此奴は戦場の策士なんかではない。唯のホラ吹きよな。


というかサルはどうやって縄から抜け出した?それを自然にやってのける事の方が怖い!


金さんと銀さんが慌てて


「俺のバカ。まだ伸びてないし、、ホントばか。」


とかブツブツ言う床に崩れたままのサルを捕獲に向かう。


その時にスクっとチョウが立ち上がってサルの前に出た。まるでサルを庇うかの様に金さんと銀さんの前に縛られたままで立ち塞がる。

はたから見ると子供のチョウをいじめている大人の金さんと銀さんの様な構図だった。


「どけ。俺は顔すら見せずに偽ろうとする奴は信用せん。」

あ、銀さんがやけに突っかかるなと思っておったのは理由があったのじゃな。


それでもチョウは一歩も動かない。


「チョウ兄?」

サルが下だけだった視線を上に向ける。


ハラリと縄が足元に落ちた。

ーーチョウ!お前もか!

「チョウ!」

焦ったようなモモの声が響くがワシの2人の側近もあわてて刀を抜いた。

チョウは何も言わずに顔の布を首まで下げ、上着を脱ぎすてた。上半身にある晒しを隠すこともせず後ろ髪から髪留めを出すとハラリと明るい茶色の髪の毛が肩の上に落ちる。


「え?、あ、れ、、お、お、、、、」

ワシ達がハクハクとする中


「あー、あ。」

と天を仰ぐ2人の青少年達。


ーーお主らが隠してたのはコレでおったか!

確かに此れなら風呂に入りたいと思うし顔も隠す。また戦場と言う殺伐とした空間の中でチョウの姿が知れたら大問題だろう。


「ごめんなさい!私が温泉に入りたいって言ったんです!」


チョウは腰を45度に曲げて謝った。

その姿は紛れもなく


『女の子』


であった。



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