勇者トウカ、楽園より故郷へ帰る Side B
(エセルバート視点)
私が人々からの追及を逃れ、この街に辿り着いたのはトウカさんが彼女の故郷へ帰還された後だったようです。一応、まだ残っているのではないか? と探した見ましたが、何処にも姿は見当たりませんでした。
今のこの国の者、私のような一部の人間以外では、大昔の詳しい事情を知りうる者は居ないでしょう。トウカさんに翻訳して頂いた記録の中にも最初に何があったかまでは書いてありません。
それが悪意が無い、純粋な興味からだったのか、あるいは何かの罪を犯して、流刑に処されたのかは分かりません。『火の星』と言う地獄の場所に送られて、何とか生き延びた一部の、更にその僅かな子孫がここへ戻って来た。それだけです。
トウカさんはこの街を見て、何かを感じ取ってもらえたでしょうかね? あの人は優しい、もしかするとこのままこの地に残ると選択もあったかも知れません。しかし、トウカさんがこの星に呼ばれたのは、誰かの意思により起こった事。。
今はまだ、魔獣の存在を除けば平穏な時間を過ごしていますが、私にはいつか南からの使者がやって来るという予感がします。その時に平和的な交流が出来ればいいのですが、もしかすると侵略を目的とした争いという、悲惨な出会いになるかも知れません。
恐らく平和な場所で生きてきたであろうトウカさん、彼女には人々の醜い争いは見て欲しくありません。最悪、同じ星から呼ばれた勇者が相手になる、そんな事は決してあってはならない事です。
出来ればもう少し話をしたかったんですが……、この街の壁の意味を知って頂き、早めに帰るように誘導してしまいました。最後に僅かな御礼と感謝を伝えれなかった事が残念でなりません。
さて、これからの魔獣対策は、今までの苦労を考えれば楽になる事は予想出来ますが、その先の事、後何年か何十年後に南の国家からの人間がやって来る事を踏まえて、その対応を考えなければなりませんね。
それもトウカさんに早く帰ってもらった理由。魔獣を討伐するために開発した武器が人間相手の兵器になるところなんて、とても見せられません。はあ……、私が生きている間に人間同士の争いが起きないことを祈ります。
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(アラン視点)
アルバ山の魔石洞窟の開放が、怪我人を出しながらも成功してしばらく後、中央のオリンポス山付近を今まで見た事が無いくらいの、大きくて内部で稲光が光っている雷雲が覆っていた。何事? と思ってすぐに理解した。
トウカのヤツ、本気で魔法を使ったのか。こんな遠くからでも見えるくらいの黒い雲だ、あっという間に山を覆ったと思ったら、まるで雷が何十本も降り注ぐ、アルバの時とは比べ物にならない、正に雷の嵐が遠くで発生した。
ウチの隊長も確認のために中央へ人を向かわせた。どうやら国中の者が見てたらしい。帰ってきた者の話によると、クロニウスの隊の者はトウカの事を話してはいけない、勇者の存在も外部に漏らしてはいけない。そんな通知を中央から寄越された。
エセルバート院長からは手紙も来ていて、レナード隊長がそれを俺たち部隊の人間に読んで聞かせた。ほとんど一人で塔に現れた魔獣、『飛竜』を倒した。そしてトウカはあと僅かで帰る。面倒事を避けるために院長がやった事にする。そんな内容が書かれていた。
そのトウカは南のユートピアの街へ行き、少し見て回った後に帰還するらしい。その手紙を読んだレナード隊長は一言、
「なるほど」
とだけ呟いた後、一人で何かを納得しているようだった。
残念ながら、まだまだ仕事は残っている。残りの魔獣の殲滅、魔石掘りの者を呼んで、それらの護衛、掘り出した魔石の運び出し。あれ? 俺はいつから魔石掘りに転職したんだっけ? と思えるくらい魔石に関係した仕事だらけ。
トウカの見送りが出来ないのが残念でならない。いや、その場に居たら、もしかするとトウカの故郷に付いて行ってしまうかも知れん。それは決して魔石掘りの仕事が嫌だからとか、そんな事は断じて無い、はず。
「よし、トウカの無事を祈って、本人は居ないが送別会をやるか」
「え? 珍しいですね、隊長がそんな事をやるなんて」
「トウカに感謝しているのはお前たちだけでは無いぞ、もう少し早くアルバの件が片付いていたら、見送りに行きたかったくらいだ」
「おお……」
「まあ、そんな訳だ、料理と酒の手配を俺がやっておくから、風呂の準備を頼む」
「それが一番、大変じゃないですか!」
「ははは、撒き割りの仕事が日課になったからな!」
撒き割り、水汲みと風呂焚き、人の手でやると、何でこんな苦労をするんだ? と言わんばかりに重労働になるからなぁ、トウカのありがたみを感じたのは、風呂が一番かも知れない。
トウカはもう帰っただろうか? まだ南の街で土産でも買い物でもしているのだろうか? どうか自分の星へ無事に帰ってくれることを祈る。
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(どこかの女神)
うん? 召還門は閉じたはずなのに、誰かの力によって再び開かれた? まさかそんな! そんな事を出来る者はもう居ないはず……。ああ、よく見れば、彼女は二人目の……。なるほど、過去の勇者たちが保険として魔法印を残してあったのですか。
まさか元の場所に帰れるとは思ってませんでしたが、自分の力で帰るのでしたら問題はありませんね。彼女が帰った後に、送還門を再び閉じておきましょう。三人目の者には残念ですが、帰れるだけの力はありませんからね。
残りの一人は……、今の時点では特に問題にもならない。そのまま、力を振るう事なく、穏かに暮らしてもらえるといいんですが……。
現在投稿15分前、ギリギリです。今回の作品は大体こんな感じでした。
あと1話で終わりになります。今まで読んでいただいた皆様に感謝を。
そして、全ての投稿が終わったあと、最後の悪足掻きにタイトルを変更しようと思います。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。




