勇者トウカ、走馬灯を見る
うぇぇぇ! 良く見なくても飛竜が大きいのが分かるよ! 考えたくも無いけれどアレを倒さないとダメかな? どちらかと言うと逃げたい、今すぐ回れ右して逃げ出したい。何て言って逃げようかと、真剣に悩んでる私の横顔をを院長がじっと見てる気配がする。
え? 何だろう? でも目を合わせちゃいけないような気がする。だけど院長に言わなきゃ、早く逃げましょうって言わないと何かとんでもない事態になる予感がするんだよね。
「院長、い」
「分かってますよ、トウカさん」
あれ~? さすがに飛竜を見学している暇も、アレと戦って勝てる訳無いのも理解しているかな?
「私たちは邪魔しませんから、存分に戦って下さい」
「何でそんな話になるのっ!?」
「え? アルバ山で使った『雷の雨』であの魔獣を倒すつもりだったのでは?」
「いえいえいえ! 見てくださいあの大きさを! 塔の三分の一ぐらいの大きさがありますよ! 私の魔法なんて効きません、ここは逃げるべきです」
「それは……、申し訳ありません。私はこれでも一応塔の責任者、危険だからと言われて逃げ出す訳にはいかないのですよ」
うぬぬ、こんな時だけ格好いい事言っちゃって……、私一人だけ、逃げられないじゃないの。確かに塔に居る人たちも助けたいから、何とかしたいけどね。
どうも見てるとあの飛竜は塔の天辺を飛び回っているみたい。やっぱりあの魔石の塊が原因だよね? あー、魔石が置いてある場所が高い所にあったから、魔獣は近寄って来ないと思ってたよ。こんな事なら壊しておけばよかった。
とりあえず今はどうするか考えないと。パテラの時みたいに破裂体を飲み込ませて内部から爆破って、出来ないよね……。あの様子だと近寄っただけでも襲って来そうで怖い。第一、雷を使っても飛び回っているから当たらない気がする。
オリンポス山の麓まで行けばエレベーターに乗って、塔の近くまで行ける。タイミングを計れば塔に飛び込んで、一番上の階にある魔石の塊を壊せるかな? それであの飛竜がどこかへ行ってくれるといいんだけど、もしかすると今度は人間を狙い襲ってくるかも。
それにそんな戦い方だと英雄さんたちが納得しなさそう。今更ながら私に関係は無いのに、余計な事しちゃったかなぁと、軽く後悔してしまう。まあ、でもここまで手伝ったんだから、最後までキッチリ終わらせて気持ちよく帰りたいよね。
「恐らく、塔にある魔石に気をとられていて、私たちの方まで目が行かないと思います。今の内に山の麓まで行って昇降機に乗りましょう」
「大丈夫ですかね?」
「多分……」
私の自信の無い返事に他の人は躊躇してたけど、院長が元気付けてオリンポスの山を目指した。幸いな事に飛竜は今の所、他の物には目もくれずに塔の上を飛び回ったり、天辺に止まって建物を突いたりしてた。
ああ……、中に居る人たちには怖いだろうなぁ。そのまましばらくして麓に着き次第、私と院長だけで昇降機に乗る。本当なら院長は下で待っていて欲しかったのだけれど、結構強引に乗り込んできた。
「院長、出来れば他の人と一緒に待機して欲しいんですけど」
「塔に残っている者が心配ですからね。それに倉庫の事も……」
あ、そっちなんだ、やっぱりね。さすが院長と妙な事で納得した。
●〇●〇●〇●〇
しばらく、思ったより長い時間、昇降機に乗っていた気がする。それでも良いアイデアは浮かんで来ない。雷だと時間差で逃げられそう、風や竜巻でもあの大きさでは大した効果は望めないだろう。火は……避けられて終わり?
悩んでいる内に昇降機は上まで来て、塔が目の前にある。二人で空を見上げながら入り口に飛び込む。塔の中、下の階にどうやら学者の人や護衛の人たちが皆、集まっていたようで、院長の顔を見ると安心したのか涙を流しながら集まって来た。
「皆は怪我はありませんでしたか? 上を飛んでる飛竜? と言うらしい魔獣は今の所、襲っては来ません。今の内に昇降機で麓まで逃げて下さい」
「い、院長はどうするのですか? 上の階は魔獣の攻撃で物が散乱してますし、建物が揺れて怖いですよ?」
「大丈夫、私には強い味方が付いてますから」
……一体、誰の事を言っているんでしょうか? 危なかったら直ぐに逃げちゃいますからね?
他の職員の人たちが昇降機へ向かって逃げて行くのを見送る。何人かは重要そうな書物を持っているのが見えた。さすが、院長の部下だよね……。
さて、どうしようか。このまま上に行って魔石を壊すのは無し。だとしたら飛竜を何とかしてからになるのだけれど、その方法が思いつかない。院長は……無駄だと思いながらも、一応何か考えがあるのか聞いてみよう。
「院長、何か良い考えは思いつきませんか? 私ではどうしたらいいか分かりません」
「うん、それなら試作武器を使ってみるというのは?」
「ええ? あ、クロニウスに送ったとか言っていたあの?」
「そうです、こちらに付いて来て下さい」
そう言うと院長は先頭になって、上の階に上っていく。慌てて付いていった先はどうやら何かの研究室、魔道具とか武器を作り出す場所のようだった。そして奥の棚から何やら長い筒のような物、ライフル? みたいな形の武器を取り出した。
「一応、強い魔獣が出た時に、硬い皮や甲羅を打ち抜く目的のために作られた試作品です。これに使う弾はこれになります」
「長っ! これって槍みたいですねぇ」
「そう、そのまま『短槍弩』と言います。遠くまで飛ばせる様に改良してありますが、トウカさんに使えるでしょうか?」
「……ちょっと持ってみますね」
差し出されたその短槍弩を持ってみる。使ってみないと分からないけど、これなら少しは効果があるかも。でも、これだけだと何か一つ足りない気がする。あ、そうだ、この槍を改良して、刺さった後に爆発するようにしたら……。
うう、自分が怖い考えしているのが分かって気が滅入るね。でも、ここでやらないと終わらないんだから頑張ろう。院長にお願いして、この槍用の破裂体を見せてもらう。さすがに実物はしっかりとした構造になっていて職人の技を感じた。
「それをどうするのですか?」
「えーと、これを中間に組み入れて、魔獣の内部で破裂させようかと……」
「おおお、素晴らしい……」
変な賞賛をもらっても嬉しくないよ! とりあえず院長は無視して、槍を改良していく。中間から少し先に破裂体と電撃玉を、今、後部に付いている破裂体に更に追加してより強く飛ぶようにする。念のために改良槍を六本作った。
筒の方も壊れないように、筒自体を厚くして、破裂する部分も厚く重ねて補強しておく。うーん、ま、やってみよう。
「やるだけやってみます。失敗したら直ぐに中に逃げ込みますから、院長は離れていてください」
「残念ですが、トウカさん言うとおりにするしかありませんねぇ」
「……まさか見学するつもりだったとか……」
残念そうな院長をほっといて、塔の上層を目指した。さすがに出入り口から外に出て、高い所を飛んでいる飛竜は狙えない。少しでも近づくために、上の階の窓から狙うつもりだった。
上では飛竜が掴まったり、突いたりするたびに塔が揺れて細かい石ががぱらぱらと落ちてくる。まさか倒壊しないよね……? ちょっと心配になってきた。それでも窓の外に飛竜が見え始めると覚悟を決める。
どこを狙おうか? って言うか私、何でこの短槍弩の使い方が分かるんだろう? うーん、とりあえず余計な事は考えないで、飛竜を射落とす事だけを考える。首を狙えれば一番かな? 次は胴体で、最悪でも翼を使えなくしたい。
飛べなくなって、地面に落ちたら後は雷でも炎でも全力で魔法をを使って、終わりにしよう。悠々と飛んでるから狙いは付けやすい。こっちにも気が付いてないみたいだし、慎重に首を狙って……。
ボォッシュンッ!!
わっ!? 思った以上に反動が大きくて、狙いがブレた!
長針弓より遅い速度で弾である槍が飛んでいった。首を狙ったつもりが横にズレ、翼に当たって穴を開けながら貫通し、そのまま少し先で高い破裂音を出しながら槍が砕ける。最悪の結果だ、更に飛竜が私に気付いて、窓を目掛けて突っ込んで来る。
あ、ダメかも。




