勇者トウカ、第三の迷宮を攻略す Side B
(アラン視点)
「おい、短槍弩でいけるか?」
「ここからだとギリギリになるかも知れやせんが、何とかやってみますぜ」
「今ならまだ数ず少ない、女王蟻を撃破後、残った戦士大顎に攻撃を集中しろ。その後は掃討戦だ、好きな獲物を狙え」
「数が多すぎて何処狙っても当たりそうですけどね」
「言うなよ……」
トウカと別れてクロニウスの砦に戻り、レナード隊長に中央の意向を伝えると隊長は溜め息交じりに魔道具の半数を送った。しばらくするとその代わりだろうか、中央から試作品となる新しい武器が二種類届いた。
筒の材質を厚くして、弾となる特殊針を長い布の様に繋げた『連射式長針弓』、弾を長い針からまるで短めの槍の様に大きくして、筒の長さもそれに合わせて長くした『短槍弩』、どちらも大量に居る大顎には持って来いの代物だった。
再びアルバの魔石洞窟へ遠征に向かう事になる。トウカの作ってくれた、残りの魔道具に合わせて分隊を作り、それぞれの隊に一丁ずつの連射式と短槍弩を持たせる。特に短槍弩は長距離から狙えて、貫通力も高い。女王蟻が居るのなら、大きな力となるだろう。
……トウカ、女王蟻は一匹だけって言わなかったか?
苦労しながらも連射式のおかげで数が多い群れに当たっても、怪我人を出すことも無く上層奥へ進めた。水晶玉に大きな光が現れた時には隊に緊張が走り、これさえ倒せば……何て思ったものだ。
物陰から見つけた女王蟻は、長さだけでも馬付きの六人乗り馬車を超えていた。それなのに高さも俺たちと同じくらいある。レナード隊長に報告して、三隊で同時に攻撃した。女王蟻はそれで倒れ伏せたが、残った蟻が大変だった。
「二番より一番へ、やっと終わりました」
『そうか、良くやった! ご苦労だったな』
「三個分隊、十五名で何とかですからねぇ」
「──こちら六番、こちらでも大きな蟻を発見したんですが……」
まさか複数居るとは思わず、それからが大変だった。再び分隊ごとに分けて、女王蟻を捜索。見つけては三分隊で攻撃、再び分かれて捜索を繰り返した。女王蟻自体はでかくて固いぐらいで問題ないのだが、その周りにいる蟻に梃子摺った。
特に、入り組んだ迷路みたいになっていた横穴の奥に三匹の女王蟻を見つけたときには、この場所にトウカが居ないのを嘆ぎたいくらいだった。奥には何故か光っている壁。捜索に当たっている全ての隊を呼び、最終決戦とばかりに攻撃を開始した。
途中で短槍弩の弾が無くなったり、連射式が壊れた時には駄目かと思ったが、怪我人を出しながらも何とか倒し尽くした。光ってる壁って中央の塔で見た魔石の塊だよな? レナード隊長に報告して皆で鶴嘴を振るい、粉々に砕いた。
これで面倒臭い事は終わったんだろうか? 遠くに居るトウカを思いながら、疲れた体を引き摺って砦に帰る。
ああ、風呂に入りたい。
●〇●〇●〇●〇
(エセルバート視点)
「それにしてもトウカさん、せっかくなのですから、もっと派手にしても良かったのではありませんか?」
「いいえ、良くありません! 地味なのがいいんです!」
洞窟の奥に見つけた光る壁、それは天井近くに存在してて、その前には天井を埋め尽くしてもまだ足りない位の皮翼の群れ、部下たちもどんな素晴らしい攻撃魔法が見られるのか楽しみにしてましたよ。
それなのにトウカさんはこっそり壁に近寄ったかと思ったら、何と壁の物質を移動させて、光る壁を下に持って来た。何と地味な! ついつい声に出したのを聞かれていたんでしょうねぇ。その光る壁を壊した後は機嫌を損ねたのか、禄に口を利いてくれません。
はぁ、部下は残念に思っているが顔に出てますし、私も溜め息が度々漏れてしまいます。トウカさんは冷たい態度を取りながらも、こちらの翻訳の仕事に付き合ってくれてますから、あまりこれ以上言うのは駄目ですよねぇ。
「トウカさん、それであの壁からは何かの『思い』が伝わりましたか?」
「ええ、まぁ……」
「是非、教えていただけませんか? お願いします」
「はぁ……、分かりましたよ、教えます。あれからは『希望』ですね」
「希望ですか? ちょっと以外でしたね。もっと恨みつらみでも言われるのかと」
「子孫に試練は与えても、滅亡を願っている訳じゃないですからね。私としてもほっとしましたよ、最後が希望でしたから」
「あはは、アルバ山の方も終わっているといいですね」
「……止めてくださいよもー、本当に行かなければならなくなったら困ります」
「大丈夫ですよ、ちゃんと新しい武器を送ってありますよ」
「本当ですか~? 嘘だったら翻訳の仕事はやりませんからね?」
「それは困ります……」
帰りの馬車の中でトウカさんと雑談を交わす、もちろん翻訳をして貰いながらですが。クロニウスの砦には群れの対策と強い個体の対策用に二種類の試作武器を送りました。それを使ってもらえれば問題無いと思いますがね。
……ちょっとの間でしたが、トウカさんとの遠征は楽しい物でしたね。翻訳の仕事は素晴らしく捗る。食事は美味しい物が食べられて、洞窟の中でも安心。この遠征の終わりにはお風呂を作って頂きました。何か特別に御礼がしたいですねぇ。
そんな事を考えながら、我らの中央の塔を目指していると、護衛の方の一人がこの道の先を指差してぽつりと一言。
「院長さん、オリンポス山の、ちょうど塔の辺りに何かでかい物が飛んでます」
慌ててそちらの方向を見ました。残念ながら私には見えませんでしたが護衛の方にはそれが見えるのでしょう。目が良いというのは素晴らしいですね、羨ましい。トウカさんは? と聴いてみると、
「えーと? コウモリの体にトカゲの首が付いた? 角があって尻尾が長い?」
おお! よく見えますね。護衛の方々も驚いています。えー、それで蝙蝠に蜥蜴の首? ちょっと記憶にありません。他の者に聞いても知らないとの答えばかり。
「んー、飛竜だったかな? ワイバーンとか。そんなお伽噺みたいな魔獣がここにはいるんですねぇ」
「そんな魔獣は居ませんよ?」
「はい?」
居ません、聞いた事もありません。これはどうした事でしょう? 今までこんな事は起きてません。一体何が……、ああ! パテラ、タルシス、そして恐らくアルバも、そこにあった魔石の壁を壊した。そしてオリンポスの洞窟にあった壁は壊さず塔の中。
「もしかすると、三つの山の魔石の壁を壊すと、予めこうなる事態になる様に仕組まれていたとか?」
「え゛っ!? わ、私のせいですか?」
「いえいえ、まぁ、何時かはこうなる予定だったという事ですね。それが少しだけ早くなっただけです」
もしもオリンポスの壁を壊しておけば……、それでもどれか残りの一ヶ所で似たような事態になっていたでしょう。これが英雄が残した最後の試練でしょうかね。本当なら我々だけで解決したかったです。
そんな私の些細な悩みも、隣に居るトウカさんの決意に満ちた横顔を見れば無駄に思えますが。




