勇者トウカ、第三の迷宮を攻略す
余計な遠回りをして、更にケルベルス砦の隊長ジーンさんにご迷惑を掛けて中央の塔に戻って来た。エセルバートさんに話を聞いて見ると……何か初めからの予定だった気がする。そして更にタルシス山に一緒に付いて来ると言う。
塔はいいのかな? って聞いてみても、問題ないと話すエセルバートさんは凄く笑顔でした。ま、まあ問題なければいいのだけれど、準備をする間に翻訳の仕事を頼んでくるのは止めて欲しいのですが。
「エセルバートさん……、魔石洞窟へ行くのは構いませんか、その人たちは何をしに行くのでしょうか?」
「はい、学者たる者、調べるなら現場で実物を見ながら研究しなくてはいけないと思いまして。ああ、大丈夫です。護衛も連れて行きますから御心配なさらずに」
「はあ……」
何故か戦えなさそうな、私より背が高いのに弱々しい人たちが四名程。その手の趣味の人が見れば堪らないかも知れないけど、私は超が付くぐらいの現場主義、戦えない人はご遠慮いただきたい。エセルバートさんだけでお腹いっぱいです。
まあ、一応は護衛の人たちも来るらしいので問題ないと思っていた。が、何故か不安になってしまうんだよね。こう、訓練の時は優秀なんだけど、実戦になると萎縮して力が発揮できないって感じの人たちに見えました。
そんな考えが正しい事は、ここタルシス山の魔石洞窟に入る前に分かりました。私以外、全員洞窟に入るのは初めてらしい、何ですかこれ? エセルバートさんに聞いてもあなたの好きにしてくださいと言う嬉しくも無い答えが返って来た。
あかん。これ、私がしっかりしないとダメなパターンだ。慌てて他の人に役割を指示して、魔道具の使い方を教え、レシーバーの使い方を……え? 全員で進む? レシーバーの意味無いじゃん。エセルバートさん……院長でいいや、もう。
「皆さん、とりあえず皮翼が襲って来ないとなっていますけど、水晶玉を確認しながら気を付けて進みましょう。護衛の方々は前衛と後衛をお願いしますね、私も一緒に前に出ます。院長、よろしいでしょうか?」
「それで結構かと、何だかトウカさんが冷たい感じがしますね?」
「ハハハ、気のせいデス」
院長は飾り、院長は飾り……
今までアランさんやフレッドさんの後ろで見てて良かった。見様見真似でも何とか出来そう。とりあえず皆さんの装備と持ち物の確認をして魔石洞窟に入った。……院長の、そのわくわく顔がムカツク。
●〇●〇●〇●〇
タルシスの魔石洞窟は今までの洞窟より天井が高いらしい。クロニウスの低い坑道が信じられないくらいにここは高さがある。なるほど、上を飛び回る皮翼には住みやすい場所なのだろう。
その皮翼だけど、餌になるのは大アリとかムカデの虫がメインらしい。坑道内にいるのはもちろん夜になると外に飛び出して餌を探しに行くとか。普通の蝙蝠と同じに見えるけど、それでもやはり魔獣なのか、カラスより大きい。
「院長、皮翼の他に何がいるのか分かりませんか? 今まで何故この洞窟を開放出来なかったのか分からないんですけど」
「襲って来なくてもあの大きさですからね、恐怖を感じるのかも知れません。魔石を掘っている頭の上を飛び回っているだけでも恐ろしかったのでしょう。それに奥へ行くと皮翼の排泄物の臭いが酷いらしいです」
「……武器を振り回しても当たらないし、こんな暗い場所を飛び回っていますからねぇ」
こんな場所を飛び回っている……コウモリって、音を出して反響音を聞き分けているんだっけ? その音を邪魔すれば排除出来る? 試しに空気を細かく振動させるイメージで、その振動させた音を皮翼にぶつけてみた。
少し動きが変わったと思ったら、壁に体当たりしたみたいになって地面に落下した。ああ、何て簡単に落ちてしまうんだろう。これ本当に魔獣? さすがに申し訳なくなって攻撃は控えた。人に害になっていないと思うと攻撃出来ないね。
「えーと、とりあえずこの場所を休憩場所としましょう」
意味があるのか分からないけど、中央の坂道上り口で昼食と休憩を取る。時間が分からないのはしょうがない。あ、そういえばここの洞窟は屑魔石が光っている。アルバ山の洞窟みたいで、明るくて歩きやすい。
パテラの時に暗かったのは、やっぱり奥に大きな魔獣が居たからかな? 奥まで行かないと分からないけど、あんな怪物みたいな魔獣は居ないといいね。
「トウカさん、休憩時間中によければ、ここの翻訳を……」
「ああ! 私が食事を作りますね! 院長は座っていてください!」
ひー、隙あらば翻訳させようとする院長がコワイ。他の学者の人たちは慣れない洞窟探索に疲れて地面に座り込んでいるのに、院長は見た目よりも元気そうで近くをうろついて壁を調べていた。
保存食が中心で、それほど用意が出来た訳じゃないけれど、それなりに工夫したからか、私が作った食事は皆さんに美味しいと言ってもらえた。帰る前にはもう少し良い物が出せるといいなぁ。
それから私たちは探索を再開した。特に危険は無いし、皮翼が多いと思われた場所では軽いつむじ風を作って追い払った。最初から少し脅かす程度で良かったんだよね。ここの奥にあるはずの英雄の遺物を壊せば、皮翼も外に出て行って、その数を減らすと思う。
「!? トウカさん、水晶玉に光が現れました。その数は……凄く多いです!」
うーん、確かに私が指示しているんだけど、完全に私が隊長っぽいよね。納得いかないけど。
「多分、皮翼の寝床だと思います。天井に注意して進みましょう。そこで皮翼を驚かすと大変な事になりますよ」
大きなコウモリが頭の上に何十、何百と飛び回る想像をしてしてまう。ちょっと見たくない。
中央坂道を登りきってしばらく歩いた場所の天井、そこには想像通りに隙間が見えないくらいの数の皮翼がびっしりと釣り下がっていた。他の人の唾を飲み込む音が聞こえる。私は照明を天井に向けないように指示して出来るだけ静かにその場所を通り抜けた。
「凄い数でしたねぇ、トウカさんが攻撃魔法で一掃するかと思いましたよ」
「使った瞬間に大騒ぎになりますよ頭の上が。それより院長か他の人たちが叫ばないかと冷や冷やしましたよ」
「人を襲ってくるような魔獣だと悲鳴を上げる前に逃げ出していましたね」
「うーん、確かにそうかも」
それからしばらく歩き、皆さんの疲れが見え始めたところで第二坂道の場所へ着いた。今日はここで終わりにして、夕食にしよう。近くに居る皮翼を風で追い払って野営の準備を始める。後でお風呂も作ろう。その後で院長に翻訳を頼まれるのが今から憂鬱だった。
翌日、太陽の高さが分からないから適当な時間に朝食をとり、後片付けをして奥地へ目指して出発した。昨晩は翻訳の仕事は程々で許してもらったけど、まだ眠いよ。他の人がゆっくり休んでいるのに院長はオニだと思う。
しばらく歩くと天井付近を飛んでいる皮翼の数が増えている気がした。もしかすると目的の物が近いのかも知れない。院長にそれとなく教えておく。
「院長、もうそろそろ例の物があるかも知れません。居ないと信じたいですが、怪物みたいな魔獣が居る可能性があるので注意してください」
「分かりました。何だかわくわくしますねぇ」
えー!? 何言ってるのこの人? こっちは心配しているのにもう。ほら、他の人が院長の方を向いて真顔になっていますよ?
「院長、楽しみですね!」
「トウカ様が居れば安心ですね」
「英雄が残した物かぁ、どんな感じなんでしょうね?」
あ、あれ? 何か違う。院長の部下だから? それとも学者ってこんな感じ? それに英雄の遺物ってオリンポスの塔にもあったはずだけど、まさか見たことないとか? そんな私の思考中に水晶玉を見てた人が叫ぶ。
「凄い数の光が出ました! 大きな光が一個、他は数え切れないくらいです!」
一個だから、怪物は居ない……よね? 後は皮翼かぁ、遺物が下の方にあって、余計な作業をしなくても済めばいいなぁ。
そんな私の希望を打ち砕くように、英雄の遺物である光りが漏れてる壁は何故か天井付近にあった。




