ヴァルキュリヤ、蠱毒の魔獣と戦う Side B
(フレッド視点)
トウカの話では、あの光っている壁は魔石で出来ているらしい。あの壁があるからあんな怪物がいるのだ、中央でも問題視されている、即座に壊さなければならない。って妙に早口で言われた。良く分からなかったがその通りなんだろう。多分。
ドミニク隊長に攻撃の許可をもらい、あの二股大口がデカくなったような魔獣を倒すために目的地へ進む。あの見た目もそうだし、我らが持っている長針弓では倒せないだろうと、人数を六人に絞り、トウカの攻撃魔法だけで試すことになった。
しかし、魔獣の共食いなんて、全く考えて無かった。その実物があれ程の怪物になろうとは、俺たちの隊でパテラ洞窟を攻略してたら時間が掛かっただろう、そしてあの奥地に居た怪物が更に共食いし、どれ程の力を付けたか分からない。
ドミニク隊長も言っていたが、トウカがここに来たのは何かの、もしかしたら女神様の導きでも有ったのではないか? と思ってしまう。せっかく大きな怪我人も無くここまでやって来れたのだ、怪物の討伐に成功したい。
「あ、フレッドさん、ちょっと待ってくださいね」
そう言って、トウカが壁に向かって何かぶつぶつ言っている。坑道の壁からも石柱を生やすつもりか? としばらく様子を見ていた。何か壁から丸い、柱を輪切りにしたような物を取り出し、それを手で挟みこんで唸っている。
「トウカ、何を取り出したんだ? そんな的みたいな物を何に使うんだ?」
「えーと、これは長針弓で使っている破裂体を大きくしたもので……」
「なぁー!?」
おい、うそだろ? おい。何で壁から破裂体だ出て来るんだよ。それって、中央とか魔道具の一部の職人が苦労して、工房で作る物だろう。何でこんな坑道でそんな物が作れるんだよ! あれか? やっぱり上級魔道士だからか?
「うーん、そうだ! これは中央の秘密事項になっているのデス」
今、そうだって言ったな? あからさまに適当な事を言っているのが分かる。しかし、確かに素人にほいほい教えていい物では無いだろう。トウカの態度が怪しいと言ってもだ。くそぅ、ヘタクソな嘘をつきやがって。
「……まあいい、そんな大きな破裂体をどうするんだ? まさか大きな筒でも作って、巨大な針でも飛ばすとか? まさかな、ハハハ……」
「それもいいですね! あ、でも針の強度がぼろぼろだから……」
いいのかよ! トウカ怖いなぁ、そんな事態になったら、何か俺の責任にされそうだなぁ。その後、俺はトウカに今のは冗談だと告げ、その計画を止めさせた。トウカも針の強度が足りなくて残念です、と言ってた。
どこからそんな巨大な針を持ってくるんだとか、一瞬だけ考えたが、そんな思考を頭から追い払う。下手に考えない方がいい。改めてトウカにその破裂体をどうするのかと尋ねてみると、これをあの怪物に食わせて、体内から破裂させると言ってい。
──よし、それでいいよもう。
それから現場に向かう前に何ヶ所かで立ち止まり、トウカがその大きな破裂体を何個か作っていった。
●〇●〇●〇●〇
間もなく作戦の目的地点に辿りつく、前に来た時に作った石柱はそのまま残っている。トウカはこれだと心細いと言って、追加の柱を出した。確かに、あの怪物の巨体で襲い掛かって来たらこの柱では一溜まりも無いだろう。
「反応そのまま、移動していません。……あっ、新しい反応が一つ、あの魔獣の方へ向かっています!」
水晶持ちの声を聞いて、俺が壁から奥の方をそっと覗く。まさか、別の怪物がいる訳じゃないよな? 見ていると光る壁に二股大口が向かっているのが見えた。あの光る壁に引き寄せられている? あの壁は一体何なのだ?
そのまま見ていたら、そこから少し離れてじっととしていた怪物が、その巨体に似合わない俊敏な動きを見せ、二股に襲い掛かる。そのまま噛み付くかと思っていると、十本近くあると思われる首の一つから何かを吐き出し、二股大口に飛ばした。
「何!? 口から液体を飛ばしただと?」
その液体を吹き付けられた二股大口は表面が少し解けた様に見え、その表面から煙が上がっている。毒? まさか、毒液を飛ばすとは思わなかったな……、いや、トウカがその可能性を前に言っていた。俺たちが知らずに攻撃していたらと思うと冷や汗が吹き出る。
もがき苦しんでいる二股大口を、想像以上に大きな口を開いた一つの首が丸呑みにしていく。その光景を見た後、目の前で起きた事をトウカに言っておこうと後方に下がる。そこには石柱以外に壁が出来ていた。
「これは……、毒を飛ばすって分かっていたのか?」
「あー、いえ、最初から壁は作っておこうと思っていました。その様子だとフレッドさんは実際に飛ばすところを見たのですね」
「ああ、その通りだ。知らずに攻撃していたらと思うとぞっとする」
トウカは俺の言葉に頬を引き攣らせて、今作った壁を更に大きく、厚い物に変えいた。
しばらくして防御と退却用の準備が出来ると、トウカは四人に先程の巨大破裂体を渡す。俺にも一個寄越して説明を始める。
「今、お渡ししました破裂体を私の合図と共にあの魔獣の方へ転がして下さい。間違っても投げないで下さいね?」
そしてトウカは水晶玉が小さくなった様な物を持っていた。
「準備は出来たのか?」
「はい、大丈夫です。でも、失敗したらすぐに逃げましょうね」
そんな事を言ってるトウカ本人が緊張しているのか、ぶるぶる震えている。やはり怖いのは間違いない。俺だってあんな怪物は普段なら相手にしたくない。それでもトウカは壁からそっと覗き、魔獣の方に向かって魔法を行使した。
この隊と反対方向、魔獣の奥に突然炎が上がった。何をする気だ? 見ていると怪物はその炎に反応したのか、そちらに全部の首が向く。なるほど、最初の時のように炎を囮に使ったのか。
「今の内に破裂体を転がして下さい!」
怪物が炎に向かって、毒を吐き出しているのが見える。何もしないで破裂体を転がしていたら、俺たちにも毒が来たかもな。三個は怪物の手前に、二個は途中で光る壁に当たって止まってしまう。トウカの玉はその中央辺りだ。
それでもトウカは気にせず、破裂体の少し上の空中に先程より小さな炎を生み出した。毒で炎を消した怪物は、新しい炎に気付き振り向く。俺たちは転がし終わった後は防壁の後ろに隠れて様子を伺っている。
また毒を吹き付けるかと思った怪物は、炎に小ささに余計な事は手間を省くつもりか、そのまま噛み付いた。それと一緒に破裂体も咥え、そのまま四つ飲み込んでいった。それを見たトウカは最後に残った小さい玉の上にも炎を作り出した。
「皆さん、防壁にちゃんと隠れて! 絶対顔を出さないで下さいね」
全員が慌てて顔を引っ込める。その数瞬後、バリバリッ! と言う、家屋の中から聴いたような雷の音がしたと思ったら、連続した破裂音が響く。辺りにはびちゃびちゃという湿った音が広がり、盾にしていた壁にも何回か音がした。
「──やったのか?」
「まだ分かりません、慎重に確認しましょう」
防壁から顔を覗かせようとするトウカや他の者をを押し止め、俺が代表してゆっくり壁から怪物を盗み見る。……その巨体には大穴がいくつか開き、周りは体液と肉片、それから毒液のためかじゅうじゅうと音を立てている。
それでも首の何本かはまだ生きていて、胴体の事を考えてないみたいにどこかに逃げるようとしている。しばらくしたら空全に死ぬだろう。それをトウカや他の者に伝えて、ドミニク隊長に報告した。
「三番から一番へ、無事、魔獣の討伐が終わりました。後処理が終わり次第、中継地点に戻ります」
『こちら一番、ご苦労だった。トウカも良くやったな』
「はい? あ、ありがとうございます!」
ふー、何とかなったな。




