ヴァルキュリヤ、蠱毒の魔獣と戦う
確かにヘビの魔獣は大きかったけど、特に苦労する事無く倒せていた。どうやら寒さに弱いらしくて、頭を凍らせると眠ってしまうみたいだった。止めは他の隊員の人がやってくれている。こんなんでいいのかな?
フレッドさんがドミニク隊長さんに報告すると、私がいる隊でどんどん上に進めと仰る。まあ、アルバ山の時みたいに、アリの魔獣が何百匹といる訳じゃないので問題無く進めているし、どうもここの魔獣自体の数が少ないみたいなんだよね。
中継地点の斜面から登り始め、下に比べれば大きい個体はいるけれど、やはりその数は少ない。ここは一匹一匹は強いけど、数が少ない場所なのかな? そんな感じで二番目の斜面を登り終わる直前、水晶玉に変化があった。
現れたのは、何と言うか私ぐらいの明るさの光。この反応を聞いた時、私の中でピンときた。これはアレだ、英雄の遺物に違いない。そんな物の反応が二個あるのが気になったけど、ぜひ確認して出来ればここで処理したい。
そんな私の願い出もドミニク隊長さんに却下された。うう、確かに強い魔獣が居る可能性があるなんてなったら、身の安全を優先したくなるよね。でも、このままだと一旦砦に帰ってから改めてってなっちゃう。
んー、何か理由を付けて、現場に行ってみたい。あ、そうだ。前にアランさんから魔石洞窟を埋めるという計画があって、それを学者の人の強い反対により、計画が取り消された事があったと聞いた。よし、この話を使おう。
「……という訳で、魔獣の共食いの可能性があり、あまり時間を掛けると後でとんでもない事が起きるかも知れません。そうなる前にぜひ、私をあの場所に行かせてください。お願いします」
『昔からバテラの魔石洞窟で魔獣の数が少ないのは、魔獣一匹が強いからと思ってたんだが、そういう理由があるのか。共食いにより強くなる魔獣か……』
「一旦砦に戻り、装備を整えてから。それが一番いいのでしょうが、時間が経つごとに強くなって、その内に我らの手に負えなくなる可能性があるというのは困りましたね」
「逆に言うと今が好機かも知れませんね、トウカのような上級魔道士が居て、他の魔獣の数も少ない、そしてその一番奥にいると見られる魔獣の場所も分かる。ドミニク隊長、トウカの申し出は悪く無いですよ」
よしっ! 何となくいけそうな雰囲気になったと思う。ドミニクさんは黙ってしばらく考え込んでいるみたい。
『……トウカが来たのも何かの思し召しかも知れないな。こんな機会はめったに無いだろう。よし分かった、許可しよう』
「ありがとうございます」
『ただし、第一に安全な場所から姿を確認すること。危険な様だったら即退却する事。第二に確認したら、通話栓によって報告して計画を立てる事。第三に何かあった時にはフレッドの命令を守り、自分の命を最優先にする事。いいかね?』
「はい……、了承しました」
私だって自分の命は大事だし、他の人にまで迷惑を掛けようなんて思ってないからね。退却路には石柱をいっぱい立てておくよ。
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私たちは一個小隊の十六人で向かう事になった。まず最初に私は坑道の途中で、石で出来た柱を立てて見せた。これを退却路に立て、もしも危険だと判断したら、石の柱を盾にして逃げると説明する。
フレッドさんを始め、他の人も納得してくれた。少しでも生存率が高いほうがいいからね。念のためにそんな石柱林を、目的地まで三ヶ所に作っておく。必要なくなったら後で消してしまればいい。
時々現れる魔獣を処理しながら目的地近くまで来た。とりあえずフレッドさんが魔獣がいると思われる場所の周辺を別の道が無いかを調べていた。逃げる時に回り込まれる事を考えての行動らしい。そんな事に気を回すなんてさすが経験者だね。
特に迂回路は見つからず、もう少しで反応が現れる辺りに来たら入念に石柱を立てる。人が通れるくらいだと、大口? ぐらいは楽に通り抜けてくるかも知れないけど、それより大きい魔獣なら引っ掛かるはず。
……その時、私はほんの少しだけ嫌な予感がした。もしも、相手に離れた場所を攻撃する手段があったら……、物語では火を吐いたとか、飛礫で攻撃してきたとかあるじゃない。隊員の皆さんは盾を持っている訳じゃないし。
魔法で攻撃する時は石で壁でも作っておこうと思う。
「反応ありました。やはり二個あります。……ちょっと移動しているのか?」
「よし、照明持ちは布を被せて、光が遠くに漏れないようにしろ。そして隊の後ろに付け。周りから他の魔獣が来ないか注意しろよ」
「了解!」
「トウカは俺の後ろに付いて来い。絶対指示するまで勝手な行動は取るな」
「わ、分かりました!」
ああ、そういえばここは屑魔石が光ってない。アルバ山の時には照明が要らない程の光源があったのに、ここでは違うのかな? 前よりちょっと暗いと思ってたんだよね。ここは魔力が薄いとか。
水晶持ちの人がもう少しで見えると注意してくる。それを聞いて更にゆっくりと慎重に歩き進める。そろそろ見えるはず……
「!? 何だあれは? 壁一面が光っている?」
フレッドさんの言葉に、背中からそーっと覗いて見ると、奥の壁が一面広い範囲で光っている。その光の色は照明と同じような色、魔石で間違いない。そして私の目標である英雄の遺物だ。
そっちに気を取られて一瞬だけ気が付かなかったけど、光る壁の前、五メートル程離れた場所に太い綱の束で出来た小山、そんな見た目の怪物が居た。綱の束に見えたのは一本一本が大蛇の首で、それらが更に太い胴体に繋がっている。
あれは……神話に出てくるような、ヤマタとかヒドラとか言われるもの。黙ってフレッドさんの肩を叩き、ゆっくり後ろに下がるように手振りで合図する。さすがにあんな怪物を見たフレッドさんたちも驚いたようで、茫然自失になっていたみたい。
じりじりと下がる。お願いしますから、こっちに気が付きませんように!
「何だあれは! あんな化け物、今まで聞いた事が無いぞ!」
『三番、落ち着いて報告しろ、何があった?』
「ブレッドさんの代わりに報告します。一番奥だと思われる場所に魔石で出来たような壁があり、その手前に首が何本もあるヘビがいました」
『大きさは?』
「えーと、馬車二台が縦に並んだより長くて、胴の太さは馬一頭より大きかったです」
『想像が難しいな、それだけデカイ怪物と言う訳か。トウカ、君なら何とか出来そうかね?』
そんな言葉に少し悩んでしまう。ここでダメなんて言ったら砦まで引き返して、中央に報告してから大掛かりな作戦になってしまいそう。でも、あんな怪物だと氷結なんて使っている間に襲い掛かって来るかも。
石柱もあれだとすぐに折られてしまう。ま、まさか神話みたいに首が再生してくるとか無いよね? うーん、どうしよう。神話だとお酒で酔わす? でもあれは本当に共食いしてきて強くなった感じだった。お酒とか毒とかは効きそうに無い。
雷なんて、坑道内で使えないし、炎はアランさんにダメって言われてた……、あれ? そういえば炎に噛み付いていたよね? 最初に倒した魔獣は。それなら炎を囮にして、その間に回りを囲っちゃう? それから、うーん?
『さすがにトウカでも難しいか。中央に連絡して何か考えてもらわないと駄目か』
中央……、エセルバートさんには魔道具を作るなと……、魔道具? 長針弓の破裂体は……、火と水で爆発。うん、やってみるしかない。
「すいません、戻る前に一回だけ試させてください。それでダメなら諦めます」
『……いいだろう、細心の注意を払ってやってみろ』
「ありがとうございます」
エセルバートさんに人前で魔道具を作るのは控えるように注意されてたけど、やれるだけやってみるつもり、上手くいきますように。




