ヴァルキュリヤ、第二の迷宮を攻略す Side B
(ドミニク視点)
中央より魔道具が届いた。魔石洞窟の探索に有効的な物だ。どうやら中央は、トウカの派遣に合わせて、本格的な攻略を目指すつもりで魔道具を送ってきたと俺は考えた。地図作りの補助、魔獣索敵、遠距離通話と、どれをとっても素晴らしい。
トウカも良く知っているようで、使い方も本人の言うように完璧だった。これなら近いうちに洞窟の全開放も夢では無いだろう。後はトウカがどれくらいの戦力になるかだが……。
『フレッド……三番より一番へ』
「こちら一番、どうした?」
『隊長! トウカはすごいですよ! 今まで出てきた魔獣は、ほぼ一撃です』
「──そうか」
いや、最初に見た時に、強力な攻撃魔法を使えるのは分かっていた。あれさえ使えれば、並みの魔獣じゃ相手にならないのは目に見えている。
「やはり、雷の魔法で倒しているのか?」
『いえ、魔獣の頭を凍らせて? その後に我々他の隊員が魔獣の死亡を確認しているくらいで』
「うん? 凍らせるのか、それで効き目があると?」
『はい、大口だろうが二股だろうが、動きを止めて終わりです』
他にも色々魔法が使えるのは話にあった通りだ、、確かに最初だけ見て終わりにしたからな。効果的な魔法があればそれでいいだろうが、それにしても想像以上の力だな。これならもしかするかもな。
「三番へ、最初の予定を変更して、上の階層への斜面へ向かい、出来るだけ戦果を上げろ。別の隊に補給物資を持たせて後を追わせる」
『了承しました』
さて、どこまでやれるかな。
●〇●〇●〇●〇
(フレッド視点)
この隊を当初、トウカの魔法を試しながら、この層をある程度、奥に回って中央斜面に向かう予定だった。隊長にトウカの戦績を報告したところ、こちらは補給を気にせずに上を目指せと言われた。最大戦力で行けって事だな。
「トウカも聞いてたと思うが、我々は一番で上を目指す。トウカはその力を存分に振るってくれ」
「はひっ!」
いきなり先頭に立てと言われて怖気付いた? まあ、確かに今までが楽に行き過ぎたのかもな。こちらは半剣で頭を突き刺していただけだったから。
「水晶玉の光を見落とすなよ! ただでさえ楽しているんだから、雑用はウチらの仕事だぞ」
「ははは、確かに楽過ぎましたな。了解です、見落としはしません!」
先行した隊が何組か、中央斜面付近で野営の準備をしていた。数人ほど怪我を負ったのか、包帯を巻いているのが見える。ああ、確かに俺たちはもう少し苦労しなければならないだろう。実際大変なのはトウカばかりなのだが。
設営用の物資をここに残し、必要最低限の荷物を持って上に登る。補給物資は後に続くらしいから、俺たちは気にしなくていい。
「フレッド隊長、我々はどう向かいますか? このまま斜面の一番上まで行けますかね?」
「普通なら退路を確保しながら行くのだが……、この通話栓もあるし、何かあれば戻ればいいからな、水晶玉の索敵を密にしながら行ってみるか」
強い力を持つというのはこんな気分かも知れない。トウカという強力な存在が俺の気持ちを油断させようとする。これで何かあったら軍をクビになってしまう。今までの戦いの経験があればこそ、自分の気を引き締める。
それに水晶玉は魔獣以外の獣に反応しない、物陰から現れた普通の蛇を見て、トウカが悲鳴を上げた時にはこちらが驚いた。普通は魔獣の方が怖いものじゃないのか? まあ、そんな事があったからこそ、油断しないように出来たのだが。
「さすがに反応が多いですねぇ。この反応の大きさは恐らく二股だと思いますが」
「いつもなら一匹だと言っても、四人掛かりで必死になっているからな」
「噛まれないようにするのに苦労しますね」
「あのー、『二股大口』の他にはどんな種類がいるのですか?」
「え? いやー、見たことないな」
「俺らいつものならこの辺までしか来ないよな」
「毒を飛ばす個体って居ますかね?」
「……そんなヤツ見たこと無いが……」
トウカは恐ろしい事を考えるのだな。
しばらく斜面を登りきった辺りで補給部隊を待った。ここを仮の補給所として次の層へ向かうつもりだ。
「そちらの隊はここで待っていてくれ、何か危険があれば即時退却、物資は捨て置いたままで良し」
「了解です」
ここからは次の斜面までの道は分かるが、それからの坑道がどうなっているのか分からない。これからが水晶玉の本当の使い所だろう。道も記録出来て、魔獣も分かる。ドミニク隊長がもっと欲しがるはずだ。
時々現れる二股大口を、トウカが行動不能にしていく。俺たちは止めを差すだけだ。しばらく歩いていくと現れた斜面、地図を確認しながら登る事にする。ここからは未知の場所だ。ここが昔の人間が掘った所とは思えない。
特殊針の消耗もほとんど無し、携帯食はとりあえず大丈夫、水だって随時トウカが補給してくれている。トウカの魔法で壁を作れば、最悪この場で身を守りながら助けだって呼べる。
少し気が緩んでいるかなと思いながらも斜面を登る。水晶玉には反応は無し、この辺りでは魔獣以外の獣も蛇もいないようだ。後もう少しで斜面を登りきると思われていた時、水晶玉持ちが驚愕しながら報告する。
「たった今、強い光が一つ、いや二つ現れました。一つは水晶玉の中央で光っているくらいの強さです」
「それはつまり、その魔獣が強いって事か?」
「少なくとも魔力を使う力が強い魔獣って事ですね」
「──他に魔獣の反応はあるか?」
「いえ、今見えるのは二つだけです」
どうするか? しかし、さすがに隊を危険に晒す訳にはいかないだろう。
「三番から一番へ」
『こちら一番、どうした何かあったか?』
「二番斜面の一番上で、坑道奥にどうやら強い魔獣を発見したもよう。念のために隊を後退させますが、よろしいでしょうか?」
『了解した。中継地点まで注意して戻れ』
「ちょっと待って下さい。出来ればその魔獣の姿を確認したいのですが」
『駄目だ、許可出来ない。問題無く排除出来るかも知れないが、ここは最悪の事態を考えて、今は戻るべきだ』
「……分かりました。無茶を言ってすいませんでした」
『まあいい、これから他の者の事を考えて行動してくれ』
「はい」
怒られたのが効いたのか、さすがに肩を落として歩くトウカ。ドミニク隊長は他の者と言うよりも、トウカの身の安全をを優先しての判断だと思う。万が一の事が起きた時には、軍だけでもとんでもない損失となるだろう。
「トウカがあんな事を言うのは珍しいな、もしかして、自分の魔法なら問題ないと思ったか?」
「いえ違います! あのー、フレッドさんは魔石洞窟を、魔獣諸共埋めるという話を聞いた事がありますか?」
「確か……、中央の次にそれぞれの山の魔石洞窟に魔獣が現れた時に、殲滅出来ずにそんな話が出たんだったかな? それが?」
「中央の学者の人が、そんな事をすると生き残った魔獣同士で共食いが起きて、より強い魔獣が現れる恐れがあって、その計画は中止になったと聞いてます」
「……まさか」
「先程の強い魔獣の周りに、他の魔獣が居なかったのが気になりまして」
とりあえず、中継地点まで戻ったら小隊長を集めてドミニク隊長とも話し合いをしなければならないな。




