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勇者がお手伝い  作者: こたつねこ
ヴァルキュリヤ、行動する
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ヴァルキュリヤ、国をめぐる旅に出る

 最初に何があったかなんて、私はもちろん、今のこの国の人々も過去の英雄さんたちでさえ分からなかった。一つの種族の半数というからには何らかの犯罪を犯したために流刑された訳ではないだろう。

 見たことも無い場所に飛ばされるのだ、自ら好んで向かったとは考えにくい。考えたくは無いが、何かの実験によって言葉巧みに騙されて飛ばされた……、そんな恐ろしいことを同じ人間がやったのだろうか?

 

 エセルバートさんに頼んで魔獣が集まる原因を教えてもらおうと、その時に見せられたのは魔石の岩。言われるままに触ってみると、そこから伝わってきたのは、怒り、苦しみ、悲しみ、そして妬みだった。


 月の女神様? に呼び寄せてもらって、その願いにより厄災を鎮めたのはいいけど、その後に心に浮かんだのはこの星に住む者に対する激しい嫉妬、自分たちが苦しい思いをして何とか生き永らえていたのに、この星に住んでた者はどうだ?

 豊かな自然、困ることの無い水や食料、心地よい気候、美しい風景、厄災だってこの星の者では解決できず、苦労したのは自分たちばかり、それを終わらせたからと言って今までと同じように生きていこうなんて虫が良すぎる。

 

 ──それでも女神様には恩を感じていたのか、他の人間たちとは敵対行動はとらずに北と南に大地を分けた、その境に巨大な海の結界も作って。そして外からの交流を拒み、この国を『箱庭の国』とした。

 

 大地を分ける直前に、仲間の中には自分たちの祖先と同じ種族と一緒になろうと言っていた者もいたが、とても許せなかった大半の者と袂を分かった。その者たちの子孫が今でも南の大陸で生き残っているかも知れない。

 そしてこの国で生きていくと決めた時に、自分達の苦しみを少しでも理解させるためか、子孫に試練を残した。魔獣を生み出すように作られた魔石の岩、自分たちが生み出した火山の中枢に同じ物が埋まっている。

 

 私が触れたのは英雄たちの苦難の記憶と、子孫に対する試練という名の呪い。その呪いとなる岩はこの国に三つ、南の大陸には二つあるらしい。南にはとても行けそうにないので自分たちで何とかして欲しい。

 

 私はどうしようかと迷ったけど、試練というにはつらすぎる過去の英雄たちの苦しみから、この国の人たちを解放することに決めた。エセルバートさんは苦しそうな表情を浮かべていた。すぐに帰してくれると言うのに我侭言ってゴメンなさい。

 どうやらこの情報は中央の人たちや一部の人しか知らないみたい。急にしばらく帰るのを止めて、魔石洞窟の解放をして回ると言った私に、アランさんは驚いていた。

 

 魔石洞窟は三つ、その内一つはいい所まで進んでいる、はず? なので、それほど時間が掛からないと思う。エセルバートさんに他の山二つの担当になっている部隊への紹介状を書いてもらった。

 最初に向かうのは北西に駐留する『エリダニア』の砦の部隊。そこまでは一つの街を経由して行く事になる。エセルバートさんにこの国の地図をもらってすぐにでも出発することにする。

 

 ここまで付いてきてもらったアランさんとは残念ながら、ここでお別れすることになる。アランさんだって、自分たちの部隊でアルバ山の魔石洞窟の攻略を続けないといけないもんね。

 

「アランさんには最初から色々お世話になりました。今までありがとうございました。どうかお元気で」

「……もう一度、クロニウスまで来られないのか?」

「はい……、自分のやる事が終わり次第、帰るつもりですので……」

「そうか、いや悪い、こちらこそ世話になったな、礼を言うよ」


 残念ながら、アルバ山で作った通話の魔道具は、あそこからここまでの距離では使い物にならなかった。空気の状況が違うもんね。そんな事を考えながら、目が潤んでどうしてもアランさんの顔が見れない。そんな私の頭をアランさんがぽんぽんと優しく叩いていた。



  ●〇●〇●〇●〇



 その日一日だけ塔で宿泊した次の朝、エセルバートさんとアランさんと笑顔で別れた。アランさんはまだ少し用事があるから塔に残るそうで、エセルバートさんとは三つ目の魔石洞窟を開放した後にもう一度、塔で再会することになっている。

 

 そして乗合馬車から二人が小さくなるまで手を振り続けていた。ちょっと寂しいけど、アランさんたちへの恩返しと思って頑張ろうと思う。次へ向かうのはこの馬車で二日の距離にある『キンメリア』の街だ。

 

 

 道中の昼や野営の時の食事は乗り合い馬車の御者が用意してくれる。最初は私を子供だと思っていたのか、訝しそうに見ていたけれど、食事の手伝いの時に魔法で水を出したら驚いていた。

 街を過ぎて砦まで向かうと言うと、軍の関係者と勘違いしたのか、あからさまに態度が変わった。うーむ、子供で軍人? どんな人間なんだろう。まあいいか。説明も出来ないし。

 

 そういえばアランさんから長針弓は渡されなかったけど、大型ナイフは餞別に頂いた。何かあった時に、これがあれば魔法を使う時間ぐらい稼げるからと。ありがたく頂戴した。こんど身分を説明する時には、これを見せてみよう。

 それからは特に問題もなく、キンメリアの街に着く。私が向かうエリダニアの塔までは馬車で昼間の内に着くらしい。しかし、塔に向かう乗り合い馬車なんて無いそうで、馬車一台を借りなくてはならない。

 うろうろしながら馬車が多く集まっている場所で探していると、その場の責任者みたいな人が私に寄って来た。

 

「嬢ちゃん、何か用かい? さっきから馬車を探しているみたいだったが」

「えーと、すいません、エルダニアの塔へ行く馬車を借りようと思ってまして」


 そう言いながら、腰に下げていた大型ナイフを鞘ごと引き抜いて見せる。

 

「こりゃあ、軍の特殊半剣じゃないか。まさか嬢ちゃんが軍人とはねぇ」


 どうやらナイフを見せたのは正解みたいで、わざわざ私のために一台の馬車を用意してくれた。金額は? と聞くと、砦までの料金は後でまとめて軍の方からもらえるらしい。証明になる割符を渡されてその場を後にした。

 その馬車の乗り場からあまり離れていない場所で、少し綺麗に見える宿をとる。金額を聞くと、腰のナイフが目に入ったのか、軍人さん? と聞かれ、関係者だと答えた。するとやはり後で軍からまとめてもらうみたい話をされた。


 前にアランさんが、私がお金を使う事は無いだろうと言ってたのを思いだす。こういう事だったのか。誰か悪用する人がいないのか? と心配になるけど、この国では悪いことを考える人は少ないかもと思い当たった。

 露店でも回って買い物でもしようと思っていたのだけれど、何か変な予感がして諦めることにする。私物まで軍のお金になんかなったら申し訳無いよね。



  ●〇●〇●〇●〇



 翌日、朝早くに人々が街中に出始めたのを見ながら馬車に乗り、目的のエルダニアの砦に向う。馬車の御者をしている人は優しい感じのおじいさん、私に合わせて選んでもらえたのかも知れない。おじいさんの家族の話を聞きながら風景を見る。

 この辺りはクロニウスの砦よりも森が深そう。おじいさんに聞いてみると鹿が獲れるらしい。そしてたまに熊が出て、それを狩りに来る狩人たちを乗せる事があると教えてくれた。

 

 まだ日が高い内に砦に着き、そのまま街に帰っていくおじいさんに手を振って見送る。私は緊張しながら砦の前にある柵の入り口に立っている門番に人に手紙を渡した。一人で来た私を変な子供と思っているのか、じろじろと見てくる。

 

「ここの人間の家族の者か?」

「え? いえいえ、ここの隊長さんに手紙をお渡しください。それで分かると思います」

「……少し待っていてくれ」


 そう言って、その人が建物に入ってしばらく待っていると私を呼びに来た。隊長が会うそうだと。あー、せっかくだから魔道具を作ってくれば良かったかな? それともいっそ、攻撃魔法をばーんと見せれば……。

 

「──ようこそ、私がここの責任者でドミニク・イーストンだ」

「トウカ・サツキです、よろしくお願いします」

「うん、それで中央からの手紙には『上級魔道士』となっているのだが……」

「ええっ!?」

「ん?」

「こほん、いえ、その通りです」


 エセルバートさん、何て事を書いてくれますか! もしかして、勇者が云々と言うより、魔法を使うのが上手な人間と思わせた方が楽だと判断した? ぬぅ、でもそっちの方がいいかも、その話にのっておこう。

 

「そ、それで他には何て書いてありましたか?」

「出来るだけ便宜を図って欲しいという事と、魔法の力は強いが女性と言うことで極力、危険に晒さないようにしてもらいたいとなっている」

 

 ちょっと過保護のような気もするけど、でもエセルバートさんの心遣いが嬉しいよね。あまり心配掛けないように頑張ろう。

 

 

 

 

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