ヴァルキュリヤ、英雄の苦しみを知る Side B
中央のお偉いさんと言うから、どれだけ威張っているのかと思ったら拍子抜けするくらい友好的だった。ウチの隊長の報告書と手紙を読み、トウカの勇者的な力で協力を仰ぐような事もせずに元の場所に帰すという話をしている。
裏で何か別のことを考えているのか? と思っていると同じ事を考えたのかトウカが院長に質問すると昔の英雄たちが理由らしい。ウチの隊長も何か知っているみたいだが、トウカを利用……じゃない、協力を欲していたのに。
「その英雄たちは過去、自分たちの祖先が、何が理由で『火の星』に送られたのかは分からなかったみたいです。それでも同じ種族でありながら、半数近い同士をかの星に送り、その星の劣悪な環境より大半を死亡させたとあります」
「……それでも子孫を残せるくらいは生き残ったのは奇跡に近いです」
「そうみたいですね。『火の星』に送られた時に、何も力が無ければ全滅してたでしょう。彼らはトウカさんと同じく、送られた時に勇者、またはそれに近い力を付与されて、その力を何とか活用して生き残ったらしいです」
話の内容は俺にはよく理解できないが、トウカと院長とで難しい話し合いをしてた。院長の話をトウカが理解出来ているって事だよな。頭良かったんだ……。
「それから長い年月の後に、この星が危機を迎えるくらいの大厄災があり、『見守りの女神』により、その子孫たちは『火の星』から呼び戻されたと手記にあります」
「その女神様って本当にいらしゃるのですか? 見たことはありますか?」
「実はその存在の証明は出来ていません。恐らく今、この星で見たことがある人間は居ないのではないでしょうか? トウカさんが見てないのであれば尚更ですね」
「えーと、やはりそれも英雄の方々が見たとか?」
「そうですね、それこそ地獄のような場所から助けられたと思ったと記されています。それから勇者の力により大厄災を収め、『火の星』に戻る事なくここに留まったからこそ、その子孫である我らがいる訳です」
それから院長は俺たちを昔の記述やら勇者の手記やらが保管されている倉庫に案内して、実物を見せた。それは獣の皮だったり石の表面を削ったりした物が多くて俺が見ても分からない文字ばかりだった。
院長が説明しながら書いてある内容を話しているとトウカは何故かじっとそれらを見てた。まるで書いてある文字が読めるみたいだ。
「もしかして、トウカさんは読めているのではないのですか?」
「え? あ、不思議なんですけど、読めると言うか分かっちゃうと言うか」
「ほほー、出来ればトウカさんが帰る前に読み取って欲しい物が沢山ありますね」
「院長、それはさすがに……」
「大丈夫ですよ。難しい場所だけ数点ですから」
「ハハハ……」
最初に会ったときも勇者の力で会話が出来たんだ、文字を読めるのも同じなのだろう。院長に何ヶ所か聞かれるままにトウカが翻訳して、院長は書き留めている。
「ああ、翻訳してもらって嬉しかったので忘れていましたが、トウカさんを元の場所に送る魔法をお見せしましょう」
「ええっ!? 何であるんですか? 作るのが早くありませんか?」
「先程、英雄たちの話をしたのは単に昔話だけじゃありません。英雄たちが二度と不幸な事が起こらないようにと、昔から用意されてあったのですよ。私たちでは発動出来ないと思いますが、魔力使用量が多いトウカさんなら使えるでしょう」
俺も驚いた、そんな物が昔から存在していたとは。それは魔石の結晶に掘られた何かの模様みたいだった。院長の話では複雑な魔法を組み合わせて使う魔法だそうで、覚えれば使えることはもちろん、その結晶に多くの魔力を流し込んでも使えるらしい。
「これは……色々な元素の力を組み合わせて、別の力を生み出す?」
「よく分かりましたね。これ程複雑で大量の魔力を使うような物は勇者以外では無理です。これをそのまま使っても構いませんが、紙に書き写してよく覚えておくのをお勧めしますよ」
「それは万が一、間違った場所に行った時のためですか?」
「その通りです」
院長の忠告に、トウカはぶるりと身を震わせた。間違った場所へ……トウカならありえると思ってしまうのは何故だろう?
●〇●〇●〇●〇
その後は院長から結晶の魔法を書き写すのを助言してもらったり、少しの休憩時間に今までに分からなかった古い文章をトウカが翻訳したりしてた。
まさかこんなに早く帰れる目処が付くとはな……、こんな事なら早く塔に連れて来れば良かった。少し可哀相な事をしてしまったのを悔やんだ。結局、俺たち砦の人間はトウカを利用したのに過ぎない。レナード隊長、恨みますよ。
「このお金は返した方がいいみたいですね」
トウカが俺の所に来たと思ったら、ここに来る前に渡した硬貨が入った小袋を差し出した。
「いや、ちゃんとした報酬だから返さなくていいぞ。 ああ、それとも向こうでは使えないかな?」
「いえいえ! 十分使えます! でも、約束を全部果たしてないのに貰っていいのかな? って思いまして」
「……最初からここに来てれば直ぐに帰れたんだ、約束とかの前に、散々トウカを利用したに過ぎない。済まなかった」
「やめてください! アランさんがいなかったら、私は野垂れ死んでたと思いますよ? こちらこそありがとうございました」
ああ、もうちょっと背が高かったら、俺の嫁になってここで暮らさないか? って言えたのになぁ。見た目がこれだから、そんな気持ちになりにくいって言うか。
「あれ? アランさん、何か変な事を考えていませんか?」
「そんなことない」
……こんな小さくても女か、よく分かったな。
●〇●〇●〇●〇
魔法を書き写して、準備が出来たなら、いつでも帰れる。そんな時にトウカが院長にある質問をした。
「ところで、何故魔獣は魔石洞窟に集まって来るのでしょう?」
俺は漠然と何となくそんなものだと思っていた。たまたま条件が重なって、魔獣の住処にちょうどいいとか、魔石に引き寄せられるとか。今まで何故? なんて考えたことは無かった。
「……すぐにでも帰れるトウカさんは別に考えなくてもいいと思いますが」
「ここも魔石洞窟だったと聞いてます。最初に魔獣の襲撃があった場所だとも。私がアルバの洞窟に入っている時、魔獣は魔石に反応しているように見えなかったのです。もしかして、魔獣がいないこの場所なら何か分かるんじゃないか? って」
「私はいきなりこの星に呼び寄せられて、それでも協力していただいたトウカさんにはこれ以上、迷惑を掛けたくないと思っています。それでも隠し事や騙すような事はしたくない、出来れば知らずにいて欲しい。それでもその原因を知りたいですか?」
「──教えていただけませんか?」
「はぁ、分かりました。それではこちらへどうぞ」
院長の態度を不思議に思った。何故だかトウカに知られたくないような感じだ。しかし、魔獣が寄ってくる原因を知っている? 今までそんな話は出た事なかったのに。トウカ以外の他の人間にも黙っているような事なのか?
最初に昇降器を使って一番上へ、そこから更に階段を登って上へ向かう。そこからの場所には人が少なくなった。その代わりに門番というべき見張りの兵が何ヶ所かで立っていた。
「この場所で最初に魔獣が確認された時、その数は少ないけれど魔獣が進む方向に気付いた者がおりました。その方向にはただの岩壁、それでも何かあるのかと掘り進めてみたら岩の中から現れた物があります」
階段を登りながら、院長はまるで独り言でも話すみたいに俺たちに語りかけた。進む先はこの塔の最上階、そこにはまるで記念碑のごとく台座に鎮座した石。それも固定された大きな魔石の塊。
「トウカさん、貴女には分かるかも知れませんが、これに触れてみていただけませんか?」
「これに触ればいいんですね?」
トウカがそっと触れると、みるみるトウカの顔つきが変わっていく。まるで酷く悲しい事があったかの様に。




