ヴァルキュリヤ、英雄の苦しみを知る
この塔へ来る途中に私が成人してると知ったアランさんたちの態度が変わった。
子供じゃなかったのかとか、子供じゃ無いのならそんな格好するなとか、髪を短く切っちゃダメだとか、嫁に欲しいとか、最後はともかく今までどんな目で見てたんですか!? うぬぬ、残念ながらもう背は伸びないんだよ……
休暇を取って街に遊びに来るついでで、馬車に一緒になった失礼極まりない隊員の人たちと別れてアランさんと一緒に塔までの馬車を探す。その後に服装が良くないから言って、どこかの歌劇団のようなしっかりとした服を買っていた。
もちろん私には大き過ぎるので店の人に無理を言って翌朝までに調整をしてもらうみたい。ついでに髪の毛が短いから何かの装飾品でカバーしないとダメらしく、銀のサークレットを買って私の頭に載せてくれた。ちょっと嬉しくて照れる。
翌日は朝から出発して夕方頃に目的地に着いた。塔なんて言ってたから大きなお城みたいな建物を想像してたら、高い山の更にその中腹から時計が無いビックベンをもっと大きくしたような建物が建っていた。
この山も昔は魔石洞窟だったらしい。それに魔獣が一番最初に襲って来た場所みたいで、それからここが魔獣対策の研究や武器開発をしたり、今までの記録や英雄の書き残した物を保存してる所らしい。なるほど、それで私が呼ばれたのかな?
アランさん曰く、私とレナード隊長の約束通りに、ここの魔道技術院の責任者に私を元の場所に帰してもらえるように頼むつもりと教えてもらった。まだあの山は攻略途中だったのだけれど、それは良いのかな? 楽なのはいいけれど。
でも、そう言ってもらえて嬉しい。もしかして私は良い様に使われているだけなんじゃないかな? とかちょっとだけ思っていたんだよね。それからこれと言って革製の小さい巾着袋みたいなのを渡された。ちょっと重くて覗くと金と銀のコインがいっぱい。
「アランさんこれって……、こんなに良いんですか?」
「街に行く暇がなかったから渡せなかったけど、今までの給金分だとさ。どちらかと言うと魔道具の分がほとんどだと思うけどな」
「ありがとうございます!」
もらった金のコインが何万円くらいになるか分からなかったけど、一枚で十万円以上とかしそうだよ。うう、目がくらむ、ぜひ持って帰りたい。
金のコイン……金貨の下は銀貨、半銀、銅貨と続いていて、金貨一枚で十銀貨、銀貨一枚で半銀二個、半銀一個で五十銅貨と説明される。でもトウカは店で使う事はほとんど無いかも、と変な予言をされた。
山の麓から登山するのかな? 馬車はどうするの? と思っていると塔の下の方に魔石洞窟より大きな穴がある。綺麗に整備され、光の証明も沢山使われているその場所に入ると馬車から降りた。
不思議に思っていると壁の一部分に引き戸? がある。アランはさんは何も言わずにその引き戸を開けるとただの四角の空間。アランさんにここに乗ってくれと言うので大人しく入ると引き戸を閉め、更に中の半分の高さの引き戸を閉めた。
あれ? これはもしかして? アランさんが壁の一部分に手を当てるとゴトゴトと音を出しながら上昇していく感覚がする。ちょっと違う気がするけど、やはりエレベーターだったみたい。
「これはどんな動力で動いているんですか?」
「初めて乗ったのに、トウカは驚かないんだな……、この箱と同じ物が反対側にも太い鎖で吊り下げられてて、一番上の滑車で鎖を巻き上げているんだ。この箱が上がって行けば反対の箱は下がるっていう風にね」
「なるほど……」
何故か頭の中で、井戸水を汲むときの桶みたいと思ってしまった。
それからは思ったより時間が掛かり、三十分弱ずっと箱の中だった。そして上に着くと、目の前には塔がある。確かに自分で登るより早いけど、もう少し何とかならないかな……、ついつい記憶にあるエレベーターと比べてしまう。
目の前の塔の立派な正面玄関に入り、入り口横で待機していた係員にアランさんが到着を伝えると、予め連絡が伝えてあるらしく、その係員の案内で客室まで案内され、しばらく待つように言われてお茶が出て来る。
少し緊張しながらアランさんと一緒に革張りのソファーに座ってお茶を飲む。
「美味しい……」
紅茶とは違うけど、ハーブティーを味を濃くして、もっとまろやかにした感じの飲みやすいお茶だった。すぐに飲んでしまってお代わりが欲しいが、給仕の人がいない。残念と思っていると、まだ口を付けてないとアランさんがそっと差し出してくれた。
「いえ、さすがにそこまでは……、あ、飲まないなら頂きます」
やっぱり美味しい、この茶葉の種類だけでも聞いて、今度買っておきたい。
しばらく待っていると白っぽいローブを着た司祭様のような人が現れた。、少しグレーが混じった白髪、鳶色の瞳、立派な髭、六十才くらいかな?
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「ようこそトウカ・サツキさん、私がこの院の長をしていますエセルバート・ダンヴィルです。以後お見知りおきを」
想像してたより優しい感じの声で、しっかりとした挨拶をしてくれる。私も慌てて立ち上がった。
「は、はい、よろしくお願いします。えー、ダンヴィル様とお呼びすれば?」
「いえいえ敬称など不要です。この国では出来るだけ身分の上下差は作らない事になっております。どうぞエセルバートと呼んでくださって結構です」
「分かりました、私の事もトウカと呼んでください」
「承知しました。それから、あなたが最初に発見したと言う?」
「はっ、クロニウス大隊所属、アラン・バーグソン中尉であります」
「はっはっは、たった今、トウカさんに身分の説明をしたばかりですよ、ここは軍じゃ無いのですから、もっと楽にしてください」
「はい……すいません」
おお? アランさんも緊張しているのかな? 急に背筋を伸ばすと偉い人相手みたいな自己紹介したよ? そっか、バーグソンって姓なのか。じゃなくて! エセルバートさんて、本当は凄く偉い人なんじゃないの?
「トウカさんは気にしなくていいのですよ。それで……トウカさんに話を聞く前に、クロニウスの隊長さんの報告を見せて頂けますか?」
私が迷っているのを感じたのか、エセルバートさんはそう言って私たちを座らせて、アランさんから手紙と書類を受け取って読み始めた。しばらく書類を読んでいたと思ったらぼそっと呟いた。
「なるほど……、北東で起こった雷の雨はトウカさんが……」
……本当にゴメンナサイ。
その後は私にいくつかの質問とアランさんからの聞き取りをした。攻撃魔法はほとんど使ってないけれど、勇者の力に間違いないらしい。そして魔道具の製作が驚く程に優秀だと言われた。スマホとかのアイデアなんだけどね……。
そして私の目的が元の場所に帰りたいと言うことを知ったエセルバートさんはこちらが驚くぐらい簡単に了承してくれた。どちらかと言うと積極的に協力してくれそうな雰囲気である。そんな態度に逆に不安になって聞いてみた。
「あの、魔獣討伐の問題で、私はもっと協力を頼まれると思っていましたが」
「うん? ああ、確かに現場で戦っている人たちは、トウカさんに是非とも協力して欲しいと思うでしょうね。しかし、この国を作ったと言うべき過去の勇者、英雄たちの手記を見れば、トウカさんを帰したくなるのも当然なのです」
「英雄の手記ですか? どんな事が書かれていたのですか?」
「そうですね、詳細については実物を見ながら説明しますが、要点だけでもお話しましょう」
「……どうかお聞かせくださいませんか?」
「では。今は英雄たちと呼ばれている過去の勇者たちは別の場所、別の星から呼び寄せられました。前にトウカさんは『地球』と呼ばれる星から来た、と報告書に書いてあります。同時に『火の星』を知っているとも」
「はい、その通りです」
「その『火の星』から呼び寄せられた過去の勇者は実はこの星の、この地より南にある大陸の、ある種族が送り込んだ者たちの子孫なのです」
え!? 前に聞いた時には考えもしなかったけど、火星で人間が居た跡なんて無いはず。それに生きていられないだろう。それが火星に送られた? そこから呼び寄せた? よく理解出来ない。
「この星の人たちを送り込んだ、ですか? 『火星』に送っても生きてられないと思いますが……」
「そう、最初に何があったのか分かりませんが、どうやら昔には、生きた人間を地獄に送るような事が行われたらしいのです」




