アマゾネス、水で戦う Side B
「魔獣の群れを一瞬で凍り付かせるか……、なるほど、それは使えるな」
トウカの氷結の魔法を隊長に報告する。折角の勇者だ、何かしらの成果が必要であろう事は分かっていた。まあ、トウカ本人はどちらかと言うと戦いに積極的では無いし、今すぐに元の場所に帰りたいから必死になってる訳でも無い。
それでも隊長が頼んだみたいに、新しい魔法の開発はこちらが驚くほどの物を見せてくれる。それが勇者ゆえの事なのか、またはトウカの性格なのかは分からないが、この先の活躍は期待出来るであろう。
「はい、自分には思い浮かびませんが、他にも何か考え付かないかトウカに頼んであります。昔の英雄の魔法では恐らく、強力過ぎて使えませんからね」
「そうだな、それこそ山全体を吹き飛ばしてしまいそうだ。幸いにもあの娘は好戦的で無いのが良かったのかも知れん」
「ははは、もし勇者が若い男だったら山ごとなんて話もありえそうですね。それで隊長、話は変わりますが、中央にはトウカの事は連絡してあるのですか?」
「ああ、見慣れない女性を保護、戦う者に見えず、魔法を容易に扱う。勇者の可能性あり、とな。現在こちらで確認中としてある。洞窟攻略も今の内だな」
「最初から中央に送るつもりで、こちらの面倒事を片付けていってもらいたかったのですね」
「大人しくてこちらに友好的な戦力だ、騙すつもりは無い。手伝ってもらっているだけだよ。それは初めから向こうへ行っても同じ事だろう」
「……女性を戦闘に連れて行くのは心苦しいですがね」
「そうだな、戦闘以外の行動なら、出来るだけトウカの好きなようにしてやれ」
「はい」
もしかすると、中央からの召喚状が直ぐにでも届く事になるかも知れない。アルバ山の魔石洞窟の攻略が上手くいってもいかなくても、トウカの身が危険になるような事は控えておこう。
そんな事を隊長と話していると隊員の一人が部屋に来た。何やら緊急の報告ではないが、戸惑っている様子。隊長は俺と顔を見合わせながらその者に聞いた。
「どうした?」
「はい、それが……トウカの部屋の窓から、丸い透明な玉が何個も飛んでまして、皆が不思議がっているのです。もしかしたらアラン小隊長かレナード大隊長が何か指示したのでは? と思いまして、それでこちらに確認に来ました」
「いや、私は何も指示してないが?」
「自分もです。今すぐトウカの所へ行ってみます」
隊長の部屋を出て、急いでトウカの部屋に向かう。
「……おいっ! もしかしたらトウカは──」
何か後ろで聞こえた気がしたが、慌てていたので気にしなかった。何かあれば後で聞けばいいだろう。
普段ならノックをしてから入るのだが、緊急事態かも知れないので扉を開けてそのまま入る。トウカは一体、何を始めたんだ?
「窓から変な玉が飛んでいるって皆が……」
目に入ったのは、洗濯桶らしき物に腰まで浸かる一糸まとわぬ裸のトウカ。
「きゃああああ!!」
固まっている俺に、その桶の水を使ったトウカの魔法? が直撃した。何故だかそれを避けてはいけない気がしたのだ。しかもその水は温水。どうやらトウカは風呂に入っていたのだと、お湯を浴びながら理解した。
その後は真っ赤になって怒っているトウカに頭を下げて謝罪した。俺が女湯を覗く事になろうとは思わなかった。謝罪はしたが、トウカにも注意した。こんな部屋の中で風呂に入るなと。入るなら洗濯場の隅で入って欲しい。
冷静になって考えてみると風呂に入る贅沢なんて、砦にいる限り滅多に味わえない。二人とも冷静になったところでトウカに皆が入れる風呂をお願いしてみた。隊員の疲れを取るのも隊長り俺の役目だ。
トウカは洗濯桶も使わずに、地面から土で固めた湯船を作り、お湯を注いで貯めているのを驚きながら見ていた。軽く十人一緒に入れる様な物を作れるとは思わなかった。トウカに礼を言うと、毎日ではないがたまに作ってくれるようになった。
●〇●〇●〇●〇
水の魔法なんて、昔の記述にある通りに大量の水で相手を押し流すくらいしか考えてなかった。不幸な事件はあったが、その時にトウカが使った魔法を聞いて見ると、小さい物は子供が遊びに使ったり、大きな物では火事を消す時に使う物を参考にしたらしい。
他にはどんな事が出来る? と聞いて見ると水の玉を作って、その温度を上げて熱水を作った。そのままぶつけても生き物には有効だろう。その水玉から細く長く水を飛ばすのが俺に使った魔法らしい。飛んでいる鳥にも使えるかもとトウカが言う。
他にもトウカは何か言い掛けていたが、特に無いとか。まあ、今説明されたものでも使い方によっては何か出来そうではある。他に何故か魔法で出した水は普通に飲めるそうで、飲み水に炊事用に、後は雨の様に温水を撒く事も出来た。
攻撃用じゃないが、遠征の野営の時には大活躍してた。トウカのその性格のためか、生活のためになる魔法の方が皆が喜ぶ姿を見て、俺は複雑な気持ちになる。
そんな水を運搬するという問題が、トウカ一人居るだけでと容易に片付き、それもあって本格的な魔石洞窟の攻略が決まった。隊長以下俺たち小隊長三名、他隊員五十五名とトウカを入れて総数六十名の遠征である。
さすがに本格的な遠征と分かったのか、トウカが緊張している。もし本当に魔獣の群れとの戦闘になったら、トウカの力が重要になる。それでも大隊が危険にでもならなければトウカの身の安全を優先とするだろう。
水の補給も川から出来ないこともないが、少し離れているし人員も用意しなければならない。だが今回はトウカが居る。空樽だけ持っていき、現地でトウカに水を詰めてもらう。万が一でもトウカが居るだけで水の心配は無い。
心配は無いが、野営時にトウカが出してくれた、お湯を雨の様に細長く撒いてくれる『シャワー』とやらが便利で皆が喜んでる。トウカに大丈夫なのか? と聞いても、じっとしているのが暇なだけで問題無いとの事。うーん、複雑だ。
アルバ山の麓の洞窟入り口前近く、本部を設置し、隊員それぞれのテントを設置させる。トウカは本部付きの特別に一人テントだ。そのトウカは炊事係の所へ行って、準備してあった空の樽に水を貯めている。そんな様子を見てから本部テントに入る。
レナード隊長は本部で待機、この遠征は十日の予定で、初日の今日に最下層を調べて回り、問題なければ明日から本格的な攻略になる。前回と同じく四人一班で組ませ、トウカは俺と一緒だ……前回みたいにならないように俺は一番後ろだ。
隊長の訓示の後、それぞれ荷物や装備、武器の確認の後、俺たちは洞窟に突入を始めた。
●〇●〇●〇●〇
やはり前回と同様に壁に含まれている屑魔石が明るい光を放っていた。もしかしたら照明が要らないのでは? と思ったが、残念ながら光ってない箇所もあり、思い通りに行かない。とりあえず初日は問題ないだろう。
「前回も思ってましたが、皆さん道を知っているのですか? 迷いませんよね」
「あ? あー、先頭の照明持ちが坑道地図を持っているんだが、この層には何回も来ているからな。大体覚えてしまっているんだよ」
「なるほどー! 私なら直ぐに迷っちゃいますね」
……やめてくれ、前回もそうなんだから。
「でも、うーん、何かこう、もやもやって頭に思い浮かびそうなんですけど」
「うん? 何か問題あるのかい? 早目に言ってもらえると助かるんだが」
「地図はここの洞窟全部の分があるんですか?」
「いや、今まで上の方の層は行った事が無くてね、分かっている地図はこの洞窟全体の三分の一くらいじゃないかな?」
「すいません、ちょっと地図を見せてもらっていいでしょうか?」
何か考えがあるのか、隊員から地図を借りてじーっと見てる。初めて見る者には分かりにくいかもな。全部がなだらかな道じゃないし、場所によって高低差もあるはずだ。俺も最初の頃は慣れるまで大変だった。
しばらくするとトウカは立ち上がって、近くをうろうろした。遠くへ行く訳でも無さそうなんで俺は黙って見てる。
「地図、ありがとうございました」
「何か分かったのか?」
「えーと、はい、上に行く時に役に立てるかと」
何だろう? そう思ってトウカを見ると、手には透明な玉。水じゃなくて硝子や水晶で作られた物? よく見るとその透明な玉の中で黒っぽい細長いものがトウカが動くたびに、その動きに合わせて伸びたり曲がったりしている。
え? これは地図か? 立体的に地図を描いているのか?




