アマゾネス、炎で戦う Side B
隊長に魔石洞窟での事を報告した後、しばらくはトウカを連れて森や平原を回った。トウカに魔獣との戦いを慣れさせるために。
普通の獣、特にウサギやキツネみたいな、トウカから見たら可愛らしい? 見た目の獣は攻撃するのを躊躇してた。まあ、魔獣とは関係ないから問題ない。それに魔獣ならウサギだろうがキツネだろうが問題無く長針弓で撃てたから。
魔獣には迷い無く攻撃出来るのは頼もしい。それでいて見た目は子供っぽいのになぁ。後は虫の魔獣を怖がらずに克服して攻撃してくれると嬉しいんだが。そうじゃないといざと言う時に怖くて現場で長針弓を持たせられない。間違って味方を撃たれる恐れがあるからだ。
そんな慣れさせるための魔獣討伐のない休息日や外出することが無い日は、トウカは良く炊事場に行っている。やはり女性として食事作りに興味があるのか? そんな姿を見れば危険な場所に同行させるのはやっぱり男として躊躇してしまう。
今日の夕食に出た柔らかなパンはトウカが考えて作った物らしい。口に入れると香ばしいにおいがして旨い。何処かの高級宿で食べる上等なパンみたいだ。それでも炊事係の説明だと普段より簡単に出来て、掛かる費用も少ないらしい。
……やっぱりトウカは家庭に入るべき女性なんだろう。
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ある日、隊長がトウカに攻撃魔法を使ってみてくれと依頼していた。
英雄たちが居た昔は分からないが、今では戦闘に魔法を使う事なんて無くなったからなぁ。戦闘中、大事な時間を掛けて魔法を使い、一匹倒すくらいなら武器を使った方が早い。特に魔法加工された長針弓なら『大爪』だろうが問題無く戦える。
……それが魔石洞窟に魔獣が住み着いてから、話は変わった。下層にはあまり居ない魔獣はいないが、上層になると当たり前の様に群れを作る。坑道みたいな狭い通路で兵を大人数で入れる事は出来ない。それで戦闘時に面での攻撃密度が下がってしまう。
場合によって、数多くの魔獣に押し切られて死傷者が出る。武器の改良も必死で進めているらしいが、まだまだ実用的でないらしい。隊長はその面としての範囲攻撃をトウカの魔法に期待しているらしい。
難しい顔をしてるトウカを連れて訓練場へ行き、俺は黙って様子を見てる事にする。トウカの元の場所では魔法自体が無いらしい。しかし、ここに来たばかりの頃にちゃんと魔法を使えているんだよなぁ。何故使えたのか、やはり勇者だからなんだろう。
「あちちっ!」
しばらくぶつぶつ言ってたトウカが、手のひらの上に火の玉を作ったと思ったらそれを石でも投げるみたいに射撃用の的に向かってほうり投げた。火は的に当たって、しばらくしたら消えた。
確かに火を作るってすごいかな? でも、それでは使い物にはならないだろう。トウカは再び考え込んでいたと思ったら、また呟き始めた。また火の玉でも作るのか? そんなトウカを見ていたら、的の方が明るくなった。
……ゴォオオオオ!!
いつの間にか的から青い炎が立ち上り、見てる間に巨大な火の玉になった。その炎は青から白へ変化し、この広い訓練場を明るく照らしている。見ている俺とトウカも、その炎の熱さから離れなければならなかった。
今度は本当に驚いた。だがこれは……、間違っても洞窟では使用させられない。
洞窟で火を燃やしていると悪い瓦斯が溜まる事が知られている現在では、こんな炎の魔法では味方に被害が出るだろうし、この熱量も危険だ。近寄るだけで火傷するだろう。
──せっかくの強力な魔法だが、トウカには使用厳禁と指示した。
●〇●〇●〇●〇
「トウカ、洞窟では炎の魔法は止めてくれ」
「確かに危険ですよね……」
頑張っているトウカには申し訳なく思いながらも炎以外の魔法を使ってもらう。確かに炎は攻撃向きなんだけどな。どんな魔法が良いか悩んでいるトウカを見ながら考える。昔の英雄たちはどんな魔法を使っていたかな?
確か記述によると火山、は駄目だ。竜巻では俺たちも吹っ飛んでしまう。水、は以下同文。地割れ? 洞窟が埋まってしまう。学者が警鐘を鳴らした強い魔獣が生まれそうだ。ああ、現代では強すぎて使い物にならないんだなぁ。
魔法に関しては俺も役に立たない、スマン、とトウカを見る。また的に手のひらを向けてぶつぶつ言っている。あんな様子ではいざと言う時に魔法は無理だな。時間の掛かり過ぎだ。
ギチッギチッ……バキンッ!!
何だ!? トウカを見てて気付かなかったが、的が凍り付いて縦に割れていた。凍り付いているのも驚きだが、それで何で的が割れているんだ?
「今何をしたんだ? どうして的が割れている」
「あー、的に水分を集めて、温度を下げてみたんです。凍らせるだけのつもりで、まさか割れるとは思ってなかったです」
「凍り付いて割れたのか、……余程気温が下がらないとそんな事は起きないはずだよな」
「はあ……」
自分がやった事を分かってないみたいだ。気温を下げる? 凍らせる? 英雄たちの居た昔の記述や、今までの魔法の記録にも氷や、物を凍らせたなんてどこにも無い。トウカは魔法を知らなかったのに、新しい魔法を作ってしまった。
確かに凍らせるなんて魔法なら戦闘にも使えるかも知れない。だけど魔法を使用することに関して、周りが気を付けないとトウカにも思いがけない重大な事態を起こしそうで心配だ。
「出来ればどんな魔法を使うか、事前に言ってくれないか?」
「はい? わ、分かりました」
トウカ自身でも何となくやってみたそうだが、物体の氷結を思い描いたらしい。
氷結の魔法か……、隊長に報告したらどんな顔をするだろう。
「それで、その氷結とやらは直ぐに使えるモノなのか?」
「うーん、どうでしょうね? 目の前に魔獣が出たら、慌てて使えないかも」
「そうか、相手が十匹程の魔獣の群れと思って、少し練習してみてくれ」
「やってみます」
三本立っている的を魔獣の群れに見立てて魔法を使用してもらう。トウカは深呼吸をすると、手のひらを左から右に移動させたりして念じている。最初は上手く行かないみたいで、ただ的を水で濡らしていただけだった。
少し考えていたと思ったら、一瞬で三本の的とその下の地面を諸共凍らせることに成功した。案外早かったなと思ったが、聞いてみるとやはり事前の準備が必要らしい。凍った範囲に水分を集め、その範囲の気温を下げて凍らせたらしい。
「態々水分を集めないといけないのか?」
「気温を下げただけでは凍り付かなくてダメでした」
「相手は魔獣だぞ? 血液が凍り付くのでは無いのか?」
「……そうですね、血の事を忘れてました」
まあ、魔獣の中にも火の魔力が高いヤツが居るから、全部が凍りつくとは思っていない。それでも氷結の魔法で高い戦力が見込めそうだ。少し獣を狩ってみると分かるのだが、生木なら水分を含んでいるから効き目あるかな?
トウカを森の境界まで連れて来た。そしてまだ若い木を指差し、それに氷結魔法を使ってみろと指示する。
ビキッビキッ……バキッ!
思ったとおり、凍りつく音がしたと思ったら中心付近に縦に亀裂が入った。亀裂から氷の棘が顔を覗かせている。これで動植物に含まれている水分でも、問題無く凍ることが分かった。後は獣か魔獣で実践すればいいだろう。
氷結なら洞窟みたいな狭い場所でも使えると思う。味方が近くに居ても範囲外なら少し寒いだけで済むだろう。さっきの大きな炎では直接じゃなくても回りに被害があるからな。そうだ『氷結』にあわせて炎は『大炎』にしよう。
とりあえず、今日はその氷結が使えることが分かっただけでも上出来だ。




