アマゾネス、炎で戦う
「トウカの洞窟での様子はどうだったね?」
「はい、あのー、どうも虫が駄目なようで……」
「うーむ、虫が……」
ホントすいません……。
砦に帰ってから、アランさんが隊長さんに報告に向かった。もちろん私も付いていく。カールさんは他の隊員の人たちと馬車や消費した物資の確認や武器の点検だそうです。隊員の人たちからの魔獣討伐数の聞き取りもあるみたい。
そして私は隊長さんのところでアランさんが報告しているのを後ろで見ている。
洞窟の中で私はほとんど見てただけで、魔獣……じゃない大きなアリが出てくるたびにナイフを抜いていただけ。長針弓は絶対使うなとアランさんに言われてたんです。
「一日だけでは分からなかったか。もう少し魔獣に慣れさせたかったんだがな」
「魔獣もそうですけど、戦う相手によってトウカの反応が違うのは困りますね」
「そうだな、しばらく森や平原で戦わせた方がいいだろう。頼むぞアラン」
「ハハハ、了解です」
あー、アランさん、お疲れの様子。大変だねー、うんうん。
それから、しばらく私はアランさんや他の隊員の人たちと一緒に魔獣の討伐を続けた。皆さんが私の後ろに居るとどうしても気になると言うので、腰だけのハーフコート? マント? を自作してみた。前開きだから邪魔になりにくい。
これでアランさんは安心して後ろから見ていられるでしょう。それに肘まで隠れる革手袋をいただいた。ちょっと格好いいかも。手袋を着用して鏡の前に立った私は……、おや? 女盗賊が目の前にいるよ?
それから私の髪型はここに来た時はセミロングだったけれど、ひっつめ髪でもよかったけど思い切ってショートにした。これくらいいいよね?
「と、トウカ!? 女性がそんなに髪を切って大丈夫なのか?」
「ダメですか? 動きやすいと思うんですけど」
「んー、ますます子供っぽいと言うか……」
なんだとー!? どれだけアランさんから子供のイメージを持たれているの。でも他の隊員の人達から果物をもらえる回数が増えた気がするので、オッケー!
他に外に出てないときには炊事場にお邪魔してお手伝いをさせてもらっている。
ここでのパンの作り方を見てると生地にパン種を入れているんだよね。これでパンが膨らむとか言ってる。小麦粉を練って時間を置くと出来るらしい。
私はビール……麦酒は無いのか? と聞くとあると答える。じゃあ、そっちから作らないのか? と聞くと何だそれ? 出来るのか? と言われたので、麦酒を保存してある壷から底に溜まった滓を取り出した。ちょっと試してみよう。
取り出した滓には酵母が含まれているはず、含まれているといいなぁ。それを生地に混ぜて捏ねる。計量が難しいので目分量で。いつも沢山作るみたいだから、バターは使わないかも知れない。オリーブオイルっぽい物で代用する。
砂糖も入れたいけど、単価が跳ね上がるから無し。今度果物や木の実を入れてみたい。後は塩と水で捏ねて捏ねて、一休みして一次醗酵。木の器に入れて濡れ布巾を被せて待つ。炊事係りの人は興味深そうに見てる。
暖かい炊事場だから大丈夫だよね? それから一時間程したら布巾を取り外してみた。一倍半ぐらいに膨らんでいい感じだと思う。
「おお!? あんな残り滓からこんなに膨らむのか?」
残り滓……うん、言い方は悪いけど、その通りなんだよね。まあ、気にしないで切り分けて丸めて丸めて、鉄製の天板に並べて濡れ布巾を被せて二次醗酵。この間にオーブンの準備をしてもらった。本当は燃料代がもったいないんだけどね。
「もう一回待つのか? いつもならすぐ焼いちまうんだがな」
「あー、それでもいいと思いますよ? 出来るだけ形良く焼きたいだけですから」
その後はお任せして焼いてもらう。大きく作らなかったから約十分過ぎくらいに焼きあがった。お試しでみんなで食べてみる。全粒粉独特の香ばしい香りとそんなに甘くないけど、酵母の甘みを感じて、私ながら良く出来たと思う。
「おおー旨い。それに柔らけぇな。こりゃ高級の品だ。ここで食べるか、お偉いさん向けだな。種も簡単に取れるのがいい」
確かに野営向きじゃないかなー。保存が効かなそうだもんね。でも美味しく食べてもらえたのは良かった。ついでにくるみやレーズンを入れてもいいかもね。その後、夕食に出したパンは皆に好評だった。
●〇●〇●〇●〇
「トウカ、攻撃に魔法を使ってみてもらえないだろうか?」
森とか平原で魔獣の討伐をアランさんたち先導で恐々とやってたある日、レナード隊長さんからそんな事を言われた。今までは魔獣は、一匹ずつしか現れないので気にしなかったけど、場所に依っては群れで現れるから、と言う理由で。
特に魔石洞窟で群れに襲われると隊が壊滅の危機に陥る。遠距離から攻撃出来ると言っても、数の暴力には敵わないらしい。それで魔法による範囲での攻撃を試して欲しいそうだ。
「今まで、魔法を使う人は居なかったんですか?」
「我々が魔獣と戦っている歴史は古いが、それでも群れに依る多数の襲撃はほとんど無かったに等しい。それで一対一での戦いのために武器の発展が進み、攻撃魔法の必要性が無くなってしまったんだよ」
「それで魔法を使える人が居なくなったのですか?」
「居なくなった訳じゃないが、魔道具の研究・製作や、それこそ生活のための魔法に移行していったのだ。その時間が長く続いてしまってね。わざわざ対軍のような魔法を使える者はほとんど居なくなってしまったのだ」
「なるほど……」
「魔石を掘るようになって、初めて魔石洞窟での魔獣の群れとの戦いが起こるようになってしまったからね。トウカには大変だと思うけど、試してみてもらえないだろうか?」
「……分かりました。どこまで出来るか分かりませんが、やってみます」
「ありがとう。済まないね」
まずは訓練場で試してみる事になった。傍にはアランさんも見てる。うう、緊張するなぁ。それで、えーと、どうすればいいのかな? まず火を飛ばしてみる?
火の玉が目の前に浮かべて、それを飛ばすイメージかな?
「炎よ出ろー出ろー、そして飛べー飛べー」
──出ない。
うう、アランさんの眼が冷たい。生活魔法しか使えない女だと思われていそう。しょうがないよね。戦いとは無縁だったんだから。ダメだったのは見たこと無い物をイメージしたからかな? えーと、じゃあ花火はどうかな?
一般に売られている手に持つ用の花火をイメージ……違うなー。手から花火?
これも違う。手のひらの上にとりあえず火を灯すイメージで!
手のひら、十センチ上で何かが集まる感じがして、しばらくしたらボッ! と火が点いた。あたたか……ちょっと熱い、熱ち。
「あちちっ!」
ぽーい、と的に投げた火の玉。当たってしばらく燃えてたけど、的を少し焦がしただけで消えてしまった。……気まずい。このままじゃ立場が危ない。慌てて代わりになるような物を考える。えーと、水素が燃えて、そこに酸素を集めれば?
適当に的に水素を集めるイメージをして、火を付けるイメージ。それに更に酸素を集めるイメージをする。集まれー、点けー、集まれー。
ボッ! ヒュウゥゥゥ…… ゴォオオオオ!!
最初、小さいけど青い火が点いたと思ったら、みるみる大きくなって、的になる丸太を覆いつくしてしまう。熱いのでその場から慌ててアランさんと離れる。結局辺り一面を照らす程の大きな火の玉になってしまった。
もうすぐ的は炭になって、崩れ落ちそうになっている。気になってアランさんを見ると、的を見るその横顔は引きつって見えた。でも、これなら魔獣の攻撃に使えるかな? これを洞窟で使えば……。
あ、酸欠になっちゃう?
こうして私の火の魔法は使用禁止になりました。
パンの作り方は適当です。ビールの作り方は妄想です。
ここまで読んでいただき、ありがたいです。




