オフィスレディ、海水浴で人生に迷う
夏の終わりということで書いてみました。
練りが足りないと思いますが、どうぞよろしくお願いします。
※ R15は念のためです。
先日、会社の上司にこっぴどく叱られた。
今年入ったばかりの会社、夏の短い休日を満喫して気分良く出社したらいきなりコレだ。
せっかくの高いテンションを落とされて、逆に会社を辞めるという選択が頭の中を過ぎる。
こんな精神状態のままじゃダメ! 気分転換の為にお出掛けしたくなった。
それで夏の終わりも近いというのに、まだ海に行ってなかった私は、次の休日に海水浴に来たのだ。
こんな急な誘いなので友達は皆、誰も行きたがらず、私お一人様。
初めから気分が駄々下がりだけど、せっかく今年の為に買った新しい水着を無駄にしたくない。
夏の後半を過ぎてもまだこんなに暑いんだから、海水浴だっておかしくないよね? 男だって一人くらい捕まえられるはず!
なーんて、最初の勢いは浜辺を見るまでだけだった。
イイ感じのカップルが波打ち際で水を掛け合ったり、砂浜でスマホで二人並んで録ったり、海を見ながら肩を寄せ合ってたりする。
みんな、イチャイチャ、イチャイチャ、すっごい目障りデスネ。
砂浜に出る前から精神的ダメージを受け、もう帰ろうかな? とか一瞬思ったけど、ここまで来たんだから、と海の家で更衣室を借り水着に着替えることにした。
はぁ……、女一人でこんな派手なビキニを着てると、いかにもって感じに思われるかな? 周りはカップルだらけだし、そんな中に一人寂しくビキニ着た私が砂浜で寝転んでたって、オイルを塗ってくれる相手が居ない。
ダメダメ! そんな事じゃすぐ老け込んじゃう! 気にしなくたって、誰か一人でも声かけてくれる人が居るって。
さあ、がんばるぞ! と意気揚々と更衣室の扉を開けた。辺り一面が光でいっぱいになり、ほんの一瞬、目の前が見えなくなる。手で庇をつくって、夏の太陽の眩しさを存分に味わう。
──そのはずだった。
目の前には眩しい太陽も海も無く、松林なんかじゃなくて、種類が違う木々の深い森があり、その先には頭に雪を被った高い山が見える。雪……?
「……あー、いっけなーい、開ける扉、間違えたちゃった?」
頭をコツンと叩き、何も見なかったことにした。
タオルどころか財布にスマホ、それにサンオイルに他、諸々がバッグに入ったままだ。それを取るつもりで後ろを振り返ると、たった今出て来た扉も、他の扉も、それどころか海の家も無かった。
「はい?」
●〇●〇●〇●〇
はっ!? 慌ててぐるんと一周して辺りを見渡しても、建物も海も無い、山がある方向の深い森の反対も、林があるだけ。
これは……? どゆこと? 夢でも見てる? 自分の状況を確認しても、着たばかりのビキニとビーチサンダルだけ。
眩しい太陽、綺麗な海、白い砂浜、辺り一面のカップル……はどうでもいい。
それが何で森の中? 訳も分からず、どうしようもなくなった私は、力が抜けてしゃがみこんでしまった。
空には白い雲と太陽は見えないが、まだ明るい。午前中に来て、まだ十時前だと思うけど……。
そう言えば、人の声も車の音も、波の音や海鳥の鳴き声、何の音も聞こえない。せいぜい目の前の木が風に煽られて、木の葉のざわめきだけ。
それに何だか肌寒い。さっきまでの夏の暑さじゃない。まるで秋口に入ったみたいだ。心細くなった私は自分の肩を抱きしめる。
「いきなりどうしたんだろ? あまりの暑さにどうにかなっちゃったのかな? 暑いと思ってたのに、今は涼しいを通り越してちょっと寒いし。せめて、もうちょっと気温が高ければ……あれ?」
そう思ったとたんに体の周りが暖房を効かせた部屋に入ったように、暖かくなった。肌に触れてみても自分の体温が上がったんじゃなくて、自分の体の周りの温度が上がったみたい。地面に手を着いたり、木に触れてみてもひんやり冷たいまま。
「うん? 何か暖かくして欲しいと思ったら周りの気温が上がったよ? んー、それじゃあ水が欲しいよ?」
今度は適当に水の要望を言ってみる。──変化は無い。さっきのは何だったんだろう? そう思ってしばらくそのままにしていると、頭からざばーっと雨が降って来た、私の所だけ。うん、ビキニ着てて良かった。
びしょ濡れになりながら、さっきは水が欲しいと曖昧に思ったから、こんな局所的な豪雨になったんだね。と思い、今度は手のひらを器に見立て、この手のひらに一杯の飲み水が欲しいと願って見る。
すると、手のひらより五センチ上に水が集まりだして、手の器に注ぎこまれる。私は恐る恐るその水に口をつけ、ちょっとだけ飲んでみた。……特に変なクセが無い普通の水だと思う。もう一口だけ飲んで止めておいた。
次は、このびしょ濡れを何とかしたいね。この暖かさでもその内に乾きそうだけど、もうちょっと何とかならないかな? ドライヤーを……、それよりも乾燥機かな? そんなイメージで乾けー、乾けーと祈ってみる。
体の周りの空気が渦巻くのを感じた次の瞬間、ごぉぉっ! という音と共に暖かいつむじ風の中に居た。
──確かに、水着は早く乾きそうだけど、髪の毛がめちゃめちゃですね。すぐに止まれー、止まれー、と念じ、つむじ風を消した。
なるほど、正確に想像しないといけないんだね。と思いながら今度はドライヤーをイメージして、吹いてきた温風で指で髪の毛を梳かしながら乾かし、次に水着を乾燥させた。
今の出来事で、自分が祈った事が起こるのを確認した。それならばと元の場所に戻りたいとか、服を着替えたい、バッグを自分の所に! とか、やってみたけど駄目だった。どうやら、自分の周りだけ、それも暖かくなると水とか風とか……。
あれ? もしかして、土でも何か出来るの?
「うーん、ここは今一番、大事なアレを!」
まずは試しにと祈ると地面から壁が出て来た。おお! ならばとそのまま想像のままに願い、壁を作り、器を作り、穴を掘り……細かい機能は作れなかったので、他のモノで代用する。
周りに誰も居ないよね? そう思いながら使用し、その後は埋め戻して終了である。
トイレ、これで大丈夫! もう何も怖くない。
──そうじゃない。ここは夢。そう夢の中なのだ。
多分、夏の暑さに自分の頭がイイ感じにアレして、気絶したのだ。そして今、夢の中と言う訳なのだと思う。ちょっとリアルすぎるけど。気絶しても夢を見てるって事は、多分大丈夫って事でしょう! 多分だけどね!
誰か見つけてくれるといいなぁ。でもせっかくだから、このまま夢の中を探検しようと考えた。こんな機会なんて無いんだから、思い切り楽しもう。気絶して他の人に迷惑かけてる事に申し訳なく思いながら。
どうせ夢の中なら、もっと明るくて楽しい所が良かったなぁ。そう、子猫や子犬がいっぱい居る所とか、イケメンが……ホストクラブ、ゴクリッ……、いいかもしんない。
そんな考え事を考えながら適当に歩いていたのが良くなかったのだろう。足元の何かに引っ掛かり、転んでしまった。
「いったーい! 何よもー。こんな所にって……え? これ何!?」
足元に有ったのは、大きなナイフ? 手で握る部分を含めて五十センチはあると思う。前に誰かが置き忘れた感じじゃなくて、使った事が無いような綺麗なままだった。恐る恐る持ち上げてみると、重いかな? と思ったのは最初だけ。
すんなり持ててしまった。テレビや写真でもこんな形のナイフは見た事無いはず。多分自分が知らないだけだと思うけど。それに刃の部分が冷たい感じがする。色が少し変わっているような? ペタペタと手で触っても別に冷たくは無い。
何でこんな場所にナイフが置きっぱなしになっているんだろ? と持ったまま考えていると、不思議な気持ちになってくる。このナイフを使った事があるような、まるで日常的に持ち歩いているような……。
「おいアナタ! ここで何をしてイマスカ?」
そんな時に知らない男の人に声を掛けられた。
急に涼しくなってきましたね。
季節物なので、慌てて投稿しましたが……
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。