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星集いの頂へ  作者: 金城カナメ
1. 星攫いの青年
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1-7 旅の計画

1-7


 王宮からの突然の依頼とファンの訪問から一週間が経過した。その間ランは、店の奥に眠っていた古い地図を眺めながら、これからの旅の計画を練った。

 地図には、祖父の代の<星攫い>たちが調べ上げた、星片石の多くとれる場所と見つからなかった場所とが記されていた――多くとれる場所はもう既に発掘されつくしており、取れないと分かっている場所で土を掘っても無意味だろう。要するに、この地図において未調査の空白域を調べなければ、王宮建設に必要な巨大な星片石を見つけることはできないのだ。ランは数少ない空白域の中から、一つの場所に目を付けた。ランたちが暮らすイルチーブスの街から列車で数時間程にある辺境の街・ユドンベルクである。

 ユドンベルクは、三方を山に囲まれた小さな田舎町である。美しい大きな湖があることで有名で、一部の人々は夏の間、避暑地としてそこを訪れる。ユドンベルクを取り囲む山々は大変険しく、つい最近まで殆ど人の侵入を許してこなかった。ランの持つ地図の中でユドンベルクの周辺が未調査だったのはこういった理由による。

 ところがつい最近、その山で鉄鉱石の大きな鉱脈が発見されたのを切っ掛けに、山道が整備され始め、人が訪れることが出来るようになってきた。鉱石を求める材料屋と発掘屋たちによって、ユドンベルクは少しだけ活気付いている。

 今まで星片石の調査や発掘が行われたことがなく、なおかつ自分でも簡単に訪れることのできる場所として、現在のユドンベルクの情勢はランにとって大変に都合がいい。星片石を求めて採掘に勤しむ変わり者なんているはずもないから、現地の人々とも衝突することはありえない。ランは一週間の思案の末、このユドンベルクの街を旅の目的地とすることに決心した。


 ランは再び王宮に赴いて、玄関で訪問客の対応をしている役人をつかまえて、ファンを呼んでくれと頼んだ。役人は快く聞き入れて、早足で王宮の奥の間に消えていった。数分の後、やはり緑色の服に身を包んだファンが、巨大な紙の束を脇に抱えて現れた。

「ああ、おはようございます!」

 ファンは玄関に響き渡るような大きな声であいさつをした。

「今回の旅の、一応の予定を立てたんだ。今時間あるかな?」

「ええ、大丈夫ですよ」

 ファンは何やら近くにいた役人に耳打ちをしてから、王宮の奥の小さな部屋にランを案内した。ランは店から持ってきた地図を大きな机の上に広げると、ユドンベルクのある場所を指さしながら、ランがこの場所を目的地と定めた経緯を説明した。

「風景がきれいなところですよね。何かの小説の舞台になっていたような……」

「僕たちは遊びに行くんじゃあないんだ。……と言いたいところだけど、どうせそんなに中てのある計画ではないんでね。まあここはひとつ、観光にでも行くような心づもりで」

 ランがそういうと、ファンはにこりと笑った。

「まあ、あんまり欲を出しすぎると見つからないかもしれませんからね!」


 二人は旅の出発を、一週間後の朝と定めた。列車に乗ってユドンベルクに行き、それから二週間ほどかけて現地の調査を行い、帰ってくる。ランの旅支度は難航を極めた――自分がいない間、店はマフィに見てもらうわけだが、彼女はまだ<星攫い>の仕事の全てをこなすことはできない。旅の始まるまでの一週間、ランは朝晩滾々と、マフィが苦手とする星片石の選別やバイネの石を結晶化させる装置のセットアップなどに尽力した。旅の前日の晩には、少なくとも二週間くらいは、彼女一人で店を回せるだけの準備を整えることが出来た。ただしその代償として、ランは旅が始まる前から全身に疲労感を感じていた。


 旅の当日。ランが大きな荷物を転がしながら駅の改札を抜けると、人影も疎らなプラットホームにファンの姿があった。がらんとしたホームには微かに風が吹いていて、彼女の美しい髪を棚引かせていた。

「おはようございます! いよいよですね。<星攫い>の仕事、見学させてもらいますよ」

 ファンは子供のような無邪気な笑顔をランの方に向けた。

「そんなに意気込まれると、なんだか気恥ずかしいよ」

 ランは呆れたような口調でそう言った。

 しばらくすると、白い煙を吹かせて一台の汽車がホームへとやってきた。車両の扉がゆっくりと開くと、ファンとラン、それから幾人かの客が車両へと乗り込んだ。彼らが乗り込むとすぐに、発車を知らせる長い笛がホームに響きわたって、車体はゆっくりと動き出した。薄暗いホームを出ると、窓の外にランたちの普段の仕事場である大海原が見えた。海は太陽の光を跳ね返し、キラキラと白く輝いていた。――輝く石を探す旅の始まりとしては縁起がいいじゃないか。ランはそう考えて、海に向かってにやりと笑った。

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