1-6 ファン・リーベリー
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ランは事態をよく呑み込めないままに、ファンを彼の家の中に招き入れた。長い栗毛色の髪、美しい白い肌、金色の装飾があしらわれた緑色の外套――。落ち着き払った令嬢のような外見とは裏腹に、彼女は眩しい笑顔を浮かべて快活に喋った。
「……王はあなたのことを信用しているので、あなたの好きに探させたらいいじゃないかと仰られていたのですけれど、側近の何人かがケチをつけましてね。探している振りだけして、フラフラと歩き回られてもお金が勿体ないと。それで、王宮から一人、あなたの旅を補助するという建前でお目付け役を付けることになったのです」
「……それ、僕に話してしまっていいのかい?」
怪訝な顔をしてランが尋ねると、ファンは呆れたような口調で、
「いいんです。どうせ、そのうちバレてしまうでしょうから」
と言って笑った。
「そういうわけで、私があなたの旅に同行いたします。まあ、安心してください。無暗にせかしたり、糾弾したりする気はありませんから。私にとっても、合法的な旅行みたいなものですよ」
「そりゃあ、助かるね」
マフィが二人分のコーヒーを台所で沸かして、二人が話しているテーブルへと運んできた。久しぶりの訪問客に驚いているのか、マフィはファンのことを目を見開いてジロジロ眺めている。
「ああ、紹介を忘れていました。彼女はマフィ・ポートレイといいまして、一応僕の弟子ということになっていますが……」
「ええっ? それじゃあ、あなたも<星攫い>を?」
ファンは目を輝かせてマフィに尋ねた。
「ええ、一応。まだまだ未熟なんですけど」
マフィは気恥ずかし気な顔をして俯いた。
「すごいなあ。私、<星攫い>の人たちに会ったことがなかったし、そもそもどんな仕事をしているのか全く知らなかったんですけど、心の中で尊敬はしていたんです。きっとすごい人たちなんだろうなーって」
ファンはそういうと、懐から小さい金色の杖を取り出した。
「これ、ランさんたちがお作りになったんでしたよね?」
ランにはもちろん、その杖に見覚えがあった。杖の先端に取り付けられた赤い宝石は、自分が普段苦労して作っているバイネの石である。
と、ファンは杖を手に持って、弧を描くようにサッと振った。すると、杖の先端から白く輝く光の粒が飛び出した。光の粒はゆるゆると上昇していくかと思えば急に弾け、七色の光が八方に飛び出して、まるで花火のように輝いた。マフィは思わずおおっ、と驚いて拍手をした。
「凄いですよね、バイネの石って。電気を取り出したりもできるし、杖に仕込めばこんな魔法のようなこともできますし。どうしてこんなことができるのか、私にはよく分かんないですけど」
「その杖は……」
ランは不思議そうな顔をしてファンの目を見た。
「その杖は、王宮の役人の中でも限られた人間にしか持つことが許可されていない代物です。……ファンさんといいましたか? あなたは随分と偉い立場なのではないですか。少なくとも、僕のお目付け役なんかを振られる立場では……」
ランがそういうと、ファンは杖を懐に収めながら微笑んだ。
「まあ、本当はそうかもしれませんが、今回の話は私が立候補したんです。一度、<星攫い>がどんな風に仕事をしているのかを見学してみたかったので」
ファンはそういうと、静かにコーヒーを啜った。傍で二人の話を聞いていたマフィは、ふと何か思い立ったような表情を浮かべて口を開いた。
「そうだ! もしよかったら、後で仕事場を見ていかれますか。案内しますよ?」
「本当?」
ファンはより一層嬉しそうな声を上げた。
ランは長く息を吐きながら、今一度ファンのことを眺めた。――まあ、やる気のない人間に同行されるよりは何倍もいいが、それでも同行者がいるとなれば気を遣う旅は避けられまい。ランは心の中でこっそりと考えていた、星片石を探すふりをしてダラダラするというという計画が実行前にご破算に終わったことを、表情にこそ出さなかったが悲しく思っていた。