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星集いの頂へ  作者: 金城カナメ
1. 星攫いの青年
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1-4 依頼

1-4


 マフィの献身的な協力により、約束の日の朝には頼まれていたバイネの石は出来上がった。マフィによって研磨された宝石は、思わずため息が出る程美しく光っていた。

 仕事を終えたマフィは、コーヒーを入れるといって奥の部屋の台所に行ったきり帰ってこなかった。ランが気になって見に行くと、彼女は長机に突っ伏して眠っていた。――夜通しの作業で疲れ果て、コーヒーを入れる前に力尽きたのだろう。

「お疲れ様」

 ランは彼女の背中に毛布を掛けてやってから作業場に戻り、バイネの石を箱に詰める作業を始めた。

 今回依頼された石は全部で五つ。たったの五つだが、これでも相当な高値が付く。もちろんそれは、バイネの石がランたちにしか作ることができないことに由来する。バイネの石は非常に便利な代物であるけれども、その存在はあまりにも希少である。例え王宮の中であっても、その石を使った品々の携帯が許可されているのは王族と一部のエリート役人だけである。


 包装した石を大きなトランクケースに詰め、ランは店の外に出た。彼の店は街の中心地から少し離れた海沿いに立っており、店が面している通りには人影も少なく閑散としている。けれども港から王宮へと至る大通りに差し掛かると、途端に人通りが激しくなる。近所の港はこの国の海運業の中心地となっており、多くの人が商売のために出入りしている。港から丘の上の王宮までの道のりは、毎日祭りでもやっているのかという賑わいである――ランは賑やかな雰囲気が昔から苦手だったから、なんとなく早足でその場所を通り過ぎた。

 店を出てから数十分ほど経って、ランは王宮の巨大な門の前にたどり着いた。長い鉄製の槍を持った門番が、退屈そうな表情をして突っ立ている。

「あのー、鉱物屋のランと申しますがー。ご依頼の物を届けに参りましたー」

「ああ、お待ちしておりました」

 門番はランの姿を認めると、背筋を伸ばして挨拶を返した。

「物品管理のカーミン氏にお取次ぎを願います。バイネの石を届けに上がりましたとお伝えいただければ……」

 カーミンは王宮内の全ての備品を管理している小太りの役人である。普段ランは、彼を通じてバイネの石の取引を行っていた。ところが門番は、カーミン氏を呼んでくれというランの頼みに首を振った。

「ああ、ランさん。いつもありがとうございます。ですが、カーミン様にお会いになる前に、今日は少し王様からお話があるようで。あなたが来たら、王座の間に通すようにと」

「王が?」

 ランは想定外の申し出に目を見開いた。王に直接呼び出されるというのは滅多にないことである。

「……何か悪いことでもしたかな」

 怪訝な顔を浮かべているランを見て、門番は笑いながら言った。

「なあに、叱責しようって話じゃあないみたいですよ。今度建設予定の、新しい王宮の件についての話だそうで」

「そうか。それならいいけど……」


 ランは門番に連れられて、王座の前に連れてこられた。煌びやかな装飾の施された王座に、国王グズネイ・バーネットはゆったりと腰かけていた。彼の周りには、彼を守護するための数人の騎士たちと政治家が取り囲んで、ランの方を見つめている。恭しく頭を下げているランに向かって、王は穏やかな口調で語りかけた。

「よく来た、ラン・クライン君。君の作るバイネの石は実に素晴らしいと評判だ。我々は大いに役に立っているよ。最近はどうだ? 元気にやっているかね?」

「ありがとうございます。お陰様で、とても充実した日々を送れています。……それで、お話というのはなんでしょうか」

「ああ、そのことだが……」

 グズネイは近くにいた役人に声をかけた。するとその役人は、跪いているランのもとに駆け寄ってきて、懐から取り出した封筒をランに手渡した。

「聞いているかはわからんが、今度新しい王宮を作ろうと思っていてな」

「新しい王宮ですか」

「そうだ。今の王宮は、私の先祖が建設した由緒正しきものだ。とても重要な建物であり、後世に引き継いでいくべきものだと思っている。しかし、この王宮も随分老朽化が進んでいるし、丘の上に立っているから行き来が不便だという文句が出ている。……そこで、どこか別の場所に新しい王宮を立てようかという計画が最近立ち上がってきている」

 ランは封筒を開封して、中に入った紙を眺めた。そこには新しい王宮の設計図面と思しき絵が描かれている。しげしげと眺めていると、グズネイは言葉を続けた。

「知っての通り、この王宮を照らす照明や冷暖房、城壁の保護システムなどは、王宮の地下にある巨大なバイネの石の力によって動いている。もし新しく王宮を作るのであれば、我々は新たに、巨大なバイネの石を作成する必要がある」

 ランはようやく話が呑み込めてきた。彼は眉をひそめてグズネイの方を見た。

「要するに、新しく巨大なバイネの石を作れ、と?」

「そういうことだ。頼めるかね?」

 グズネイはにこやかに笑いながら尋ねたが、ランは浮かない顔をして返答する。

「……かなり大変な仕事ですよ。地下にあるバイネの石は私も見たことがありますけれども、あんな巨大なものを作るのは並大抵の努力では実現できません。少なくとも、私の専門とする海底から材料を集めてくるやり方では、百年はかかってしまうでしょうね」

「それは困る。我々の先祖は、いったいどうやってあんな巨大なバイネの石を作ることができたんだね?」

 ランはうーんと唸ってから少し考えて、呟くような声で答えた。

「父から聞いただけなのでよくは知りませんが、昔はバイネの石の原料である星片石は、地表にもたくさんあったそうです。特に、人の手の届かない山奥には、巨大な星片石がたくさん落ちていたとかなんとか……。多分ですが、地下の巨大なバイネの石は、地表に落ちていた巨大な原石を元に精錬して作り出されたものだと思いますよ」

 ランがそういうと、少し曇っていた王の表情は少しだけ明るくなった。

「ということは、人の手の入っていない場所になら、まだ材料があるかもしれないということなのだね」

「いや、これまでにも随分掘り出されてしまいましたし、今は残っているかどうか……」

「いやいや、ラン君、希望を捨ててはいけない。きっと山奥を探せば、その星片石とやらがいっぱい落ちている場所があるに違いない!」

 ――何やら雲行きが怪しくなってきたようにランは思った。グズネイは急に元気になって立ち上がると、目を細めてうつむいているランに向かって命令を下した。

「決めた!ラン・クライン、君には山奥に行って、バイネの石の原料を集めてくることを命じる。――安心したまえ、そこまで急ぎの話ではないし、成功した暁には報酬も弾もう。どうだね、頼まれてはくれないかね?」

 頼み、と王は言ったが、こちらに拒否するだけの動機も権限もあるまい。また厄介な仕事が舞い込んできたなあ――ランは不機嫌を顔に出さないように気を使いながら、グズネイに向かって深々と首を垂れた。


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