PROLOGUE2:また、一人。
「ユウナ、ごめん。……別れよう」
「え……?」
申し訳なさそうに、でも真面目に伝える青年に、ユウナは戸惑った。
実は、この青年とユウナは付き合っていた。小学校からずっと一緒に進級してきて、高校になってやっとユウナが自分の想いを打ち明けると、思いのほか恋は実り、一年間付き合ってきたのである。
それがいきなり呼び出されたかと思うと、別れ話を切り出された。何かトラブルがあったわけでもなく、本当に突然のことで、ユウナは二の句が告げなくなってしまった。このままずっと一緒にやっていけると思っていただけに、その破局は辛かった。
「俺……お前と一緒に、やっていけそうにない」
「……どういうこと?」
ユウナは息を呑んでそれを聞いていた。もう涙がすぐそこまで登ってきて、でもぐっと堪えて聞いていた。
「俺……お前と付き合っていて、そこに無理してる自分がいることに気付いて……そんなの、意味あるのかなって」
黒い髪から覗かせる瞳、言葉を選んで、喉に痞えるものをぐっと吐き出すような仕草がとても悲しい。別れたくない、そんな気持ちが込み上げてくる。でも――
「ごめんね、ハルトがそう言うなら、仕方ないね……」
でも、別れたいと言う相手を無理矢理縛り付けておくのは迷惑だって判っている。今の言葉は、自分の本心じゃない。それでも、相手がそう言うなら、仕方なかった。
ユウナは抑えきれない涙が頬を伝うのに気付いて、思わず振り向いた。
「じゃ、もう行くからっ……」
そうして、彼女はその場から立ち去った。
夕暮れ時。しばらく川のほとりに佇んでいた彼女は、とうとう家へと帰ることにした。
「ただいま」
誰もいない家。もう慣れているはずなのに、返事が返ってこないと言う状況が妙に辛い。
昔は、どんな時に帰っても『おかえり』と言う暖かい言葉があった。行ってきます、の後は行ってらっしゃい。おやすみ、と言えばおやすみ。全てに返事があって、当時は何気ないことだと思っていたけど、今となってはこれ以上の望みはないほど、取り戻したい挨拶だった。
赤い光が差し込むリビングに鞄を置く。そして、ぐったりしたように椅子に座り込んだ。
「また一人……失って……」
また捨てられて、また置いていかれて。自我を崩壊させる言葉が次々と浮かび上がってくる。愛する者がいなくなり、愛されることがなくなった。
「寝よう……もう……」
そして、疲れた身体を起こすと、ベッドのある二階へと向かった。