第29話 天罰
旅が始まったはずなのに、進みません。まぁ、これだけは先にやっておきたかったんです。どうか許してください。
さて、王都も出たことだし、次の村に向かうか!・・・とその前に、マップを作ってみようと思う。
「スキル創造『マップ』」
【スキル『マップ』を創ることに成功しました。】
マップってスキルはやっぱり無いんだな。さて、それじゃ使ってみますかね。『マップ』。
すると、俺の頭の中に、この辺り一帯と思われる地形が浮かび上がってきた。おぉ、ちゃんと村の位置や、山や川の場所、名称まで、様々な情報が書いてある。これは便利だな。
「ご主人様、また何か創られたんですか?」
「ん?ああ、この辺りの地形が分かるようになるスキルをな。」
「凄いです。そんなものがあったら道に迷いませんね!私ちょっと方向音痴なので、ご主人様にくっついてますね♪」
この娘は、事あるごとに俺にくっついて来る。どれだけ俺の傍に居たいんだ・・・まぁ、多少歩きにくいけど、別に嫌じゃないから良いけどさ。
そんな感じに歩いていると、進行方向の向こう側から、なにやら近づいて来る影があった。
「あれは馬車ですね。商人でしょうか?」
「商人って、あぁいう馬車に乗ってるもんなのか?」
俺がそんなことを言った理由は、俺の想像しているような馬車とは、かなりかけ離れていたからだ。荷台は普通にあるし、御者もいる。ただ、異常な程に豪華なのだ。まるでどこかの貴族が見せびらかすかのように、馬車の馬、荷台、御者台に、色鮮やかに装飾がしてある。
「商人ではなく貴族でしょうか?貴族や大商人の馬車は、自分の権力を誇示する為に、わざわざ豪華な装飾を施すらしいです。」
「そうなのか。二ノは物知りだな。」
「ふぇ・・・そんなこと無いですよぉ・・・」
A:・・・マスター、たまには私にも訊いてくださいね?
分かってるよ、アイ。お前は俺の事情が分かってるだろ?お前にしか相談出来ないことだってあるんだからさ。
A:はい・・・かしこまりました。
んで、何か知らんがその馬車は、俺達の近くで止まった。一体何だってんだ?
「突然失礼致します。実は、荷台にいらっしゃる旦那様が、どうしても止めてくれと仰られたので、こうして足を止めさせて頂きました。」
どうやら貴族だったらしい。しかし誰だ?俺に貴族の知り合いなんて居ないはずなんだが・・・
「おぉ、やっぱりお前は二ノか!」
と言いながら荷台からおりてきたのは、控えめに言っても太ったおっさんだった。まぁ、何となく予想をしていなくも無かったが。それにしてもこのおっさん、二ノのことを知ってるのか?
「二ノ、知り合いか?」
そう言って二ノの方を見ると、二ノがとてつもなく怯えた目で、おっさんを見ていた。俺の服をつまみながら。
「どうした?二ノ。」
「・・・です。」
「何だって?」
「この人は・・・私の前回の主人なんですっ!」
・・・は?前回の、ってことはまさか、二ノにあんな酷いことをしたやつ?
「おぉ、やはり私のことも覚えていたのか。それにしても、何故お前の忌々しい耳と腕が元に戻っているんだ?」
間違いない、こいつだ。
「まぁいい、とりあえずそこの君。」
「・・・俺のことか?」
敬語なんざ使わない。こんなやつに払う敬意なんて、一欠片も存在しねぇ。
「そうだ、君のことだ。君がそこの奴隷の怪我を治したのかね?」
「・・・だとしたら?」
「素晴らしい!もしもそのような事が出来るのなら、是非ともうちで雇いたい!君が居れば、使用人がどれだけ傷付こうが、私の奴隷をどれだけ欠損させようが、君の力で、私の散財は大幅に軽減される。それに、ほかの貴族共への自慢にもなる。まぁそれは置いておこう。君、うちで働かないかね?君の奴隷は・・・君の雇い主である、私に所有権が渡ってくるがね。」
・・・こいつ、自己利益の為だけにやろうとしてんのか。熟々ゴミだな。ちょうどいい。こいつへの制裁は、いつかまたここに戻った時でもいいと思っていたが・・・ここでやっておこう。
「つまりあんたは、自分の為だけに俺を雇い、使用人をこき使い、奴隷に酷い扱いをするってことか。」
「酷い扱い?奴隷とはそういう風に扱うものだろう!まぁ、扱い方は人それぞれだが、私は獣人を酷く嫌っているのだよ。だから獣人を見るとね、獣人の象徴である、耳や尻尾を切り落としたくて仕方が無いのだよ。」
・・・潰す。俺はそこまで正義感があるやつじゃないが、何故か、今は心の奥底から、どす黒くて冷たい怒りが溢れてくる。きっと大切なものが傷付けられていたからだろう。今はとにかく、こいつを潰したい。
「そうか。あんたが獣人を嫌って、その本能に従ってやっているのなら、俺も今の本能に従って・・・てめぇを潰す。」
押し込めていた殺気が溢れ出る。ニノが俺を掴んだまま、びくりとしたのが分かる。目の前にいる2人は、見るからに顔を青ざめていた。
「な、何を言っているのかね!?私は君を雇いたいと言っただけだろう!?何故そんなに殺気を出しているんだ!」
「てめぇを潰す理由?そんなもん、この娘を傷付けたからに決まってんだろうが!」
叫ぶと同時、さらに濃密な殺気が出る。これほどにキレたのは久しぶりだ。前は確か、妹が電車の中で痴漢されていた時だったか・・・まぁ、そんな話は今はどうでもいいな。
「ひぃっ!お、落ち着きたまえ!き、君も奴隷として買ったのだろう!?もし仮に助けるためなのだとしたら、もう既に解放しているはずだ!だが君は解放していない。つまり君も、私と同じことをしようと・・・」
「黙れ。俺はこの娘を、そんな風に扱おうとなんて思っていない。貴様と同じにするな。」
「だ、だが・・・」
「とにかく貴様には相応の罰を与える。覚悟しろ。」
・・・と、その前にやらなきゃいけないことがあるな。
「あぁ、そうだ二ノ。ここから先は見てはいけない。しばらく夢の世界に行っていなさい。『睡眠』。」
それから・・・スキル創造『無限地獄』
【スキル『無限地獄』を創ることに成功しました。】
さて、これで後はゆっくり、この貴族を片付けるだけだな・・・さぁ、天罰を下そう。
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「・・・二ノ、起きなさい。」
「ふみゃ・・・あ、ご主人様・・・」
「ごめんな、急に眠らせたりなんかして。」
「い、いえ・・・それより、あの人は?」
「あのお前を虐めてたやつは、俺がしっかりと『お話』をしておいた。もう二度と、自分の奴隷にあんなことはしないはずだ。」
「そ、そうなんですか。他にも被害者が居なくなってくれるのは嬉しいです。」
「お前は本当に優しいな。そういう所は好きだぞ。」
「ふぇ!?あ、あぅ・・・嬉しいです・・・」
今の「嬉しい」は、さっきの「嬉しい」とは違うものだろう。流石の俺でも、それは察する。まぁ、とりあえず、二ノを虐めてたやつに会ったという、嬉しくも嫌な誤算はあったものの、これで本当に旅に出られそうだな。
「さぁ、行こうか二ノ。これからが本当の旅の始まりだ。」
「はい!・・・ありがとうございます、ご主人様。」
ニノの感謝の言葉を聞いて、俺達は歩き始めた。
え?主人公は何をしたか?それは皆さんのご想像にお任せします。皆さんのご想像を助ける為、『無限地獄』の効果を教えますね。効果は、「これを発動している間、相手はどれほどの攻撃を受けても、死ぬことは無くなる」です。




